第5話 ギルドを作ろう!②
そんな感じで、進学祝いを兼ねて結構な額のバイト代を貰ったのは、つい1ヶ月前の事。そのバイトは今も継続中で、だから部活動どころではないとも言える。
彼女達は僕のバイトの内容を聞いて、そのギャップに少々驚いているようだ。確かに傍目から見たらそうだろう。僕は子供を宥めるよりは泣かす顔だと、散々知り合いの大人達にもからかわれたものだ。
もう慣れたから、別にいいけどね。
「見えて来たよ、次の角を左ね。優実の家もすぐ近くだよ、ホラあの青いポストの家。私の家は、そこの突き当たりだねっ」
「あぁ、本当に近いね。お向かいさん、3軒隣……くらい?」
「そそっ♪ 沙耶ちゃんはね、この近所のガキ大将だったの」
余計な事は言わないでよろしいと、神薙さんは少し照れた様子。住宅街の道はレンガの壁で終わっていたが、蔦が生い茂ったその壁は何とも言えぬ風情があった。
ゆったりしたレンガ製の上り階段が設えてあって、上はどうやら公園のよう。豊かな緑が窺えて、それの作り出す日陰はとても涼しげに見える。
神薙さんの先導で、僕たちは彼女の家にお邪魔した。家の人は誰もいないよう、と思ったら話に聞いた妹さんが出迎えてくれた。名前は確か、環奈ちゃんだったか。
お姉さんに似て美人だが、こちらは大人しそうな雰囲気。中学生くらいだろうか?
「ただいま、環奈っ。ゲームしてたらゴメン、3回線使ったら駄目かな? 友達連れて来たから、今から合同インしたいのよっ!」
「環奈ちゃん、お邪魔さま~っ♪ さてっ、この人は誰でしょう? 見事当てたら、お土産のお菓子を1個あげるよっ♪」
「こんにちは……お姉ちゃんの、か、彼氏さん?」
違うわよと、顔を真っ赤にして否定する神薙さん。勇気ある解答に敬意を表してと、袋の中からプリンを取り出す岸谷さん。
環奈ちゃんは、おっかなびっくり僕を注視している。
玄関はいきなりの、とんだカオス状態。神薙さんが皆を、ようやくの事リビングまで追い立てるのに成功したのは数分後だった。お茶が出て来たのは、更にもう10分経ってから。
ブツブツ言いながら、神薙さんがネット接続を始める。お茶とおやつに夢中な岸谷さんの分も、どうやらついでに行っているようだ。
パスワードも完全に覚えているらしく、スムーズに2人のキャラに接続する。
神薙さんが、僕にもどうぞとコントローラーを手渡して来た。ちゃんと予備モニターも2つ用意されていて、どうやらこれがこの家の日常らしい。
妹さんと岸谷さん、それから神薙さんの3人で、恐らく賑やかなゲーム風景なのだろう。ちょっと羨ましくなって、僕は隣の環奈ちゃんを見遣った。
どうぞ遠慮なくという感じで、会釈してくれる環奈ちゃん。
そんな訳で、僕も見慣れぬ場所でのインに踏み切る事に。慣れない事態に、ちょっと緊張気味に自分のキャラを起こしに掛かる。
ログイン前のキャラは、別にゲーム世界で寝ている訳ではないけど。何となくそう考えてしまうけど、特に問題は無い筈だよね?
「……えっ、このキャラってまさか……!」
隣でニコニコしてプリンを頬張っていた妹さんが、急に驚き顔で絶叫した。どうやら彼女には、僕の存在自体に問題があったようだ。
画面の中のリンは、急に叩き起こされて所在無さげに隠れ家で寛いでいる。コイツだけずるいなと、その時の僕は変に緊張感に包まれていたり。
「えへへ、そうっ! 環奈ちゃんがファンの……何て言ったっけ、封印の壺?」
「封印の
こう見えても、ハンターランキング3位なのよっ、しかもギルド所属無しでっ!」
「3位かぁ、それは凄いねぇ! でもリン君は、学年模試で1位とか何回も取ってるから、そうでも無い?」
「お姉ちゃんは何も分かってない! ランク内10位まで、皆カンスト199レベルの中で、唯一レベルが120程度しかないのっ!
そんな低レベルキャラが、ランクインするだけで凄い事態なのっ!」
机を叩きながら物凄くヒートアップしている環奈ちゃんを見て、僕は少しだけ気の毒になっていた。それと同時に、妹さんはさっきまで猫を被っていたんだと言う事も判明。
さすが姉妹だと、何となく納得しつつも。環奈ちゃんが言う通り、ギルド所属無しで、しかもカンストしていないレベルで3位に食い込むのは並大抵の事ではない。
NM討伐ギルドに所属していれば、どこにNMが湧くかとか、トリガーの入手方法などが自然に耳に入って来る。それだけでも有利なのに、簡単に討伐隊が組める上、メンバーも大抵は経験豊富な猛者が揃っている筈だ。
つまりは討伐機会とメンバーに恵まれつつ、ポイントを稼ぐ事が可能なのだ。
ただし、これだけでは討伐ギルド内でのポイントが並んでしまう。もう一頑張りしてキングを取ろうと思ったら、危険を承知で少人数でNMを狩りに行くか、塔に手を出すかしかない。
『塔』持ちのNMに出会うには、かなりの強運が必要になって来る。塔持ちNMとは、その名の通りに倒すと塔を出現させる一風変わったNMで、強さも様々だ。
そいつを倒したパーティリーダーは、その出現した塔の所持者となって、名前を付ける権利まで発生する。何より嬉しいのは、塔に入りたい冒険者から入場料を取れる権利が発生する事。
それは入場者にとってはモネーに過ぎないが、所有者にはポイントとして支払われる。更には、独自に色々な塔を制覇する事で、やっぱりポイントが貰える。
場所によってはソロでも可能なので、キングを取りたい者は結構使う手段らしい。
もちろんキングを取れれば、物凄い報酬が待っているらしく、毎週熾烈な順位争いが巻き起こっているとの噂である。週の1位も確かに凄いが、月の1位となると物凄い偉業だ。
僕のキャラのリンは、そんなハンターギルドの猛者を相手取って、先月のランキングの3位に入った。もちろんそれは、『ロックスター』の性能無しでは有り得ない事態だ。
届けられた報酬も良かったし、何よりハンター
今や環奈ちゃんは、瞳をウルウルさせて僕を尊敬の目で見つめていた。まさか姉が自分の皮肉を真に受けて、本当に“封印の疾風”本人を自宅に連れて来るとは、思ってもいなかったのだろう。
僕も同じく、何でこんな事態になっているのか、はっきり言って分からない。人身御供に自由に見ていいよと、僕は環奈ちゃんにリンのコントローラーを渡す。
ひったくるようにして、それを奪う環奈ちゃん。こんな機会は滅多にないと思ったのだろう。お行儀が悪いわねと、姉の神薙さんが小言を口にする。
それは取り敢えず置いといて、僕は最初の予定通りに2人のキャラチェックをする事に。まずは神薙さんのキャラから、見せてくれとお願いして。
「リン様っ……いきなりですが、このキャラの質問良いですか? 何故に武器装備が、短剣と片手棍と両手で違うんでしょうか?
ってか、この変わった武器は何??」
「それは『ロックスター』と言う名で、合成で偶然出来た《封印》ってスキル技を使える唯一の武器かな? 僕はジョブスキルは、変幻タイプを育ててたんだけど、そしたら《同調》って言うスキルを覚えて。
右手の片手武器のスキルと、左手の片手武器のスキルが同じになる、かなり強力なスキルなんだ。それで、リンは『ロックスター』を使う事を前提で育て直したんだ」
「へえっ……その鍵は私も持ってたけどなぁ。昔のイベントで配ってた奴でしょ? 結構面白かったよね、あのイベント」
一緒にしないでと、環奈ちゃんが再び騒ぎ立てる。僕は元の合成素材は、そのイベントの鍵だと皆に教えると。環奈ちゃんは感銘を受けたようで、再びリンを調べに戻って行った。
神薙さんのキャラはナギサヤという名前らしく、一言で言うと酷かった。僕は絶句して、そんな感情はメルの妹のサミィが、悪戯で通信ケーブルをプレイ中に引っこ抜いて以来、とんと味わった事がなかった。
その時は慌てて接続し直したが、僕のキャラは既に敵にやられていて、完全に後の祭り。それ以降、子守中には決してネットゲームはしないと決めたのだが、今は関係の無い話。
とにかくショックの原因は、まずはスキルの振り方にあった。何故か片手剣や両手鎌、更には弓術に6~10のスキルが振り分けられていて、それで装備している武器は両手槍と銃。
意味が分からない、彼女は何がしたいんだろう?
属性魔法は、それよりはマシだった。氷種族の神薙さんは、氷と雷スキルを中心に魔法を覚えているらしい。しかし、魔法もやっぱり土や闇に変な注ぎ込み方をしていて、何で10の単位に合わせないのだろうと不思議で堪らなくなる。
ジョブレベルは72となっている。2年で上げたにしては物足りないが、まぁこんな物だろう。レベル上げも、ある程度人数が揃っていないと非合理的なのだ。
後付けの『ジョブ』については、全く触ってもいない様子。これは各キャラにもっと幅を持たせようと、バージョンアップで追加された戦闘体系派生システムの事だ。
みんなはジョブとしか呼ばず、今ではそれで固定と言うか通じてしまう。今更ジョブという概念を持って来るのかと、当時のプレーヤーは憤慨したとか呆れたとか。
そう言う話もよく聞くが、ファンスカはそもそも自由度が高過ぎるのだ。それが原因で、神薙さんみたいに変に混乱する人が増えるのかも知れない。
その辺りの事をちょっと話しておこうか、僕もちょっと混乱して来た。
ゲームを始める人は、まずは自分のキャラを作るんだけど。その際には『光、闇、風、雷、水、炎、氷、土』の属性のキャラから選ぶ事になる。あと、性別も。
その後は、前衛か後衛か、アタッカーか回復役かなどと、キャラの性格から役割を考えつつ。レベルを上げて貰えるスキルポイントを、伸ばしたい武器スキルか属性魔法スキルに振り込む。
スキルポイントは、レベルが1つ上がる度に2ポイント貰える。ステータスの振込みポイントも同様で、これで前衛向けとか後衛向けの育成方法が別れるのだが。
武器や魔法スキルが10を超える度に、スキル技とか補正スキル、又は属性魔法を覚える事が可能になる。いわゆる必殺技で、これを覚えると戦闘が楽しくなって来る。
いきなり出来る事が増えるし、強くなった気がするから。
昔はこの振り込みポイント、10の次からは+20貯めないと取得出来なかったらしいけど。いっぱい取得出来た方が楽しいと言う理由で、今は+10毎の取得に変更になった。
この振り込みポイントを魔法取得に使えば、立派な魔法使いの出来上がり。ただし、後衛の魔法使いはMPを使い切ると何も出来なくなるので大変だ。
魔法にもやっぱり、種族と同じ8つの属性がある。つまりは光、闇、風、雷、水、炎、氷、土の8つの種類で、属性により個性があるのでどれをあげるか悩みどころ。
回復魔法とか攻撃魔法が、属性によって出たり出なかったりするからだ。
武器を使ってのアタッカーを目指すなら、断然両手武器のどれかを選択すべきだろう。攻撃力の高い武器が揃っているし、覚える武器スキルも強力なダメージを出せるモノが揃っている。
片手武器は、その点ちょっと微妙だ。ダメージは低いが、反対の手に盾を装備して頑強な盾役を目指す事も出来る。僕のように二刀流を習得して、魔法剣士になるのもいいかも。
スキル技も、幻惑系やスタン系など、ユニークな物が多い。
遠隔武器を使用する者も、最近は多いみたい。通常ダメージがとても高い上、矢弾によって様々な追加効果も期待出来るからだ。矢束は結構、お金が掛かるけどね。
そんな感じでキャラの性格を攻撃パターンから作っていくのが、このゲームの醍醐味である。もちろん最初に選んだ種族属性にも、アタッカー向きとか魔法が得意とか性格がある。
神薙さんの氷種族は、本来は魔法が得意なタイプ。後衛に従事すれば、その性能を生かす事が出来るだろうけど。少人数ではどうしても前衛で盾をこなす存在が必要で、そうも言ってられない。
そして普通は、伸ばす武器スキルは大抵1つに絞るものだ。伸ばしたスキルポイントは、ダメージにも結びつくから。魔法スキルは、多様性を求めて幾つか伸ばすのが主流だが。
そこのところを、僕は神薙さんに質問してみた。
「あの……何で武器スキルの振り込み先と、武器の種類が一致してないの?」
「えっ、それは……攻撃力を追求して行ったら、何でかそうなっちゃって。私も凄い技覚えたいけど、覚える前に新しく攻撃力の高い武器を入手しちゃうんだもん。
今はもう、武器の方は使うの諦めた」
「お姉ちゃんは、ちょっとおバカだから。私のアドバイスなんか聞きやしないし」
「うるさいわね、これでも殴れば結構ダメージ出るのよ!」
スキル0で殴っている訳だ、まぁ不可能じゃない。装備画面を確認すると、熟練度はそれなりの数値を示していた。うん、一応アリかも知れないが、これは茨の道には違いない。
スピードが出る上、安全な水着があるのに、わざわざ服を着たままプールに入るようなモノだ。下手したら溺れてしまうのに、その事に気付いていないと言う。
取り敢えず、神薙さんには好きな武器を1つ選んで貰おう。
「神薙さんは、武器で好きなの1つ選んだ方がいいかな? 武器での攻撃が好きみたいだし。ジョブが決めれないのも、方針が定まってないからだよね?」
「はいは~いっ、私は決まってるよ! えっとね……召喚タイプなの。もっと強くしたいけど、方法が良く分からなくて」
「私が教えたじゃん、ハンターポイント貯めなさいって……あぁ、貯め方が分かんないのか」
環奈ちゃんは納得した感じで、再びリンの観察に戻って行った。姉とその友達のヘボ振りには、もう馴れっこになっている感じがする所が凄い。
さて、ハンターポイントは一定のNMを倒したり、塔を攻略すれば獲得出来る事は話したと思うけど。その使い道は、今環奈ちゃんがたった今話した通りだ。
そう、後付けジョブを強化するのに役立つのだ。
ジョブ、つまりは戦闘体系派生システムには、6つの種類がある。戦士タイプ、魔法タイプ、支援タイプ、変幻タイプ、召喚タイプ、遠隔タイプで、なる程名前を聞けはジョブである。
これを自分のキャラに好きに付けて、戦闘体系に含みを持たす訳だ。これがハマると、キャラが途端に別物になったりして面白い。
もちろん、元からの強みを強化する感じにも出来る。
例えば僕は変幻タイプを選んで、ラッキーにも《同調》と《連携》という強力なスキル技を覚える事が出来た。両方とも前に説明した通り、今やリンには欠かせないスキルだ。
特に《同調》はレアな存在で、左右の武器の違う二刀流使いは、滅多にお目にかかれない。この補正スキルの良い点は、スキル上昇に伴って、ちゃんと武器スキルも自動習得出来る事。
僕はこのお陰で、10個以上の片手棍スキルを獲得出来た。
岸谷さんの召喚タイプは、一時ブームになったペット召喚をメインにしたスキルが取得出来る。ペットと言っても戦闘用で、これは未だに役に立つと唱える派と否定派の論争が絶えない。
要するに、可愛いだけだろうと視野にも入れないプレーヤーも多い訳だ。僕の知り合いにも、残念ながら召喚タイプを付けている人はほとんどいない。
師匠に後で、聞いておいた方がいいかも知れない。
「紹介しま~す、プーちゃんで~す♪」
「……また始まった、ペットなんか役に立たないってば、優実ちゃん」
白けた感じの環奈ちゃんとは裏腹に、とっても嬉しそうな声で岸谷さん。街の端っこに移動して、自分のペットを召喚する。岸谷さんのキャラはユミタンと言うらしく、ペットはプーちゃんとの事。
ユミタンは光属性の♀キャラ、プーちゃんはトドに角を付けたような外観で、意外と小さい。何故かピンク色で、神薙さんの話では、我がパーティの盾役だそうだ。
ペットが盾役……どこまで破天荒なパーティなんだ?
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