第31話:最高の三人
激戦の日から三日が経った。
あの日のことを俺は一生忘れないだろう。それくらい濃い一日だった。しかしどれだけ印象深くても過去は過去だ。時間は勝手に過ぎていくし、人は前を見て生きていくことを強いられる。無論俺も、ルナティも、ふゆりんも、だ。
破壊された家から少し歩いたところにある丘の上。もうすぐ季節が夏になる影響で、新緑が広がっている。のどかな風が吹き、空には雲一つない。昼寝をすれば一瞬のうちに深い眠りに誘われそうだ。
「心地いい場所だな」
「ああ……懐かしささえ感じる」
だが残念なことに、俺は昼寝をしに来た訳じゃない。俺の隣に居る金色の長髪を持つ少女、ルナティも同じだ。
「さて、どこに……居たな」
視界の奥。青と白の髪色をし、腰に雪の結晶の形をしたストラップを身に着けている少女が座っている。そしてなんとなくだが不憫そうなオーラを感じさせる。こんな少女、この世に一人しか居ない。
「――ふゆりん」
俺の言葉に振り向くふゆりん。
「ガンナー。ルナティ」
「隣座るぞ」
ふゆりんを挟むように座る俺たち。
「破壊された家のことだけど、修理費結構するみたいなんだよね」
「最低でも十万、多くて三十万はかかるそうだ」
「ほんと無駄な出費をさせてくれたよ」
「違いありませんね」
手元にある四十万ゴールドのうち、約半分がこれでおじゃんだ。仕方がないとはいえ、勿体ないとも思ってしまうな。人間簡単に割り切れてはくれないもんだ。
「結局あの、絶対チート許さないマンは見つからなかったんですよね?」
「そうだな。自爆した跡地に残っていたのはボロボロのふゆりんとアイツの黒い鎧だけ。鎧の中身はどっかに消えちまっていた」
「もしかしたら奴は幽霊だったのかもしれない」
「否定は……できないか。まあ奴のことはどうでもいい。俺たちは勝ったのだから」
「……そうですね。わたしたちは……勝ったんです……」
そうだ。俺たちは勝ったんだ。あの化け物に、力を合わせて勝ったんだ。歴史的快挙だよ。勲章とか金とか、国から授与されるレベルだ。
……まあ、余談はこれくらいにして。本題に入ろうではないか。
「……それで? 俺たちを呼び出したってことは言いたいことあるんだろ?」
「……前に言いましたよね? わたしは自分で道を選べないし切り開けないって」
「闇鍋の時に言ってたな」
ちゃんと覚えているよ。
「はい。……だけど……わたしは変わったんです」
ふゆりんは目を閉じ、顔を伏せる。
「……あの戦闘の途中でか?」
「……そうです。……だから今ならわたしはガンナーたちに想いを伝えられるっ‼」
顔を上げ、真剣な眼差しで俺を見た。
「わたしをっ、ガンナーの店で働かせて――」
バァンッ‼
「これを見ろ」
ふゆりんの話を遮って、俺はある紙をふゆりんへ渡す。
「え……? これは……自爆チートの契約書……?」
「そうだ」
「これの……どれを見れば……?」
「……値段のところを見てみろ」
「はい……え? ……さ、三十万ゴールド!? どういうことですか!?」
あー、やっぱそうなるかー。誤魔化すように俺は頭の後ろを掻く。」
「いやー、あの時急いでたじゃん? だから自爆チートの値段、三十万のままにしてて、変えるのは忘れたんだよねー☆」
「は……はああぁぁっ!? なにやっているんですかっ!? クーリングオフ‼ クーリングオフっ‼」
「商品も借金もクーリングオフの適応外だ。……だからふゆりん」
今度は俺の番だな。ふゆりんを真似てできる限り真剣な顔でふゆりんの顔を見る。
「俺の下で働け」
少しの静寂のうち、ふゆりんは溜息を吐いて、笑顔になる。
「はぁ……なんでわたしの台詞を邪魔した挙句、借金を負わせるんですか……。せっかく気合入れてきたのに……」
「これもふゆりんらしいのではないか? 自分の思った通りにいかない不憫」
「いつか克服したいですね……」
「分かりました。これからもわたしは――」
「あーそうそう。借金二号が肩代わりしてくれた借金、元通りにするわ」
「……はっ?」
「っていうことでふゆりんの借金、総額七十万ってことで。よろしくねー☆」
「ちょっと待って――」
「行くぞルナティ‼」
「ああ。どこまでも共にあろう‼」
「二人共、待てええええええぇぇぇぇぇぇぇー‼‼‼」
異世界チート販売業者〜カモ(転移者)と一緒に店を立て直します〜 風花レン @falfa
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