第27話:三対一


 一人の少女たちが覚悟を決めた。


 なら俺がすることは、最高の結末を手に入れる為に頑張るだけだ。


「話し合いは……もういいの……?」


「ああ。始めようじゃねぇか。テカテカした黒く太く固い鎧野郎‼」


「そんなこと……二度と言えないように……してあげる」


 黒鎧野郎が大剣を構える。一本は両手で掴み、もう一本は宙。


「行くぞっ‼」


 掛け声と共に、俺たちはそれぞれの行動を始める。


 まずルナティが大地を蹴って奴へと肉薄する。二十メートルはある距離を一瞬で近づき、低めから抉り上げるように剣を振るうが、大剣に受け止められる。これで再び彼女たちの攻防が始まった。


「よしっ……ふゆりん。頼んだぞ‼」


「はいっ‼」


 俺はふゆりんを置いて、今なお刹那の世界で剣戟を繰り広げている彼女たちの元へ走っていく。


「……」


 黒鎧野郎が俺に気が付いたようだ。大剣を一本、俺の方へ飛ばしてくる。


 それに対し俺は……なにもしなかった。


「……っ!?」


 俺へ向かって真っすぐ向かっていた大剣は、勝手に俺の横を通り過ぎて行った。


 よしっ……予想的中だ‼


「動揺していていいのか!?」


 大剣のうち、片方は手元にない。更に奴が動揺した隙を見逃さず、ルナティは剣を振るった。


「うるっ……さい」


 ガードが間に合ってしまうが、そんなもの関係無いとルナティは続けさまに攻撃を続ける。襲い掛かる剣の一撃、その全てが致命傷になると理解しているからこそ、奴は防御するのに手一杯になった。


 だが、一方的な攻撃は続かない。俺の方へ飛んできていたもう一本の大剣が、踵を返しルナティの元へ向かっていく。


 このままだと無防備となったルナティに直撃してしまうだろう。


 そんなことはさせない。


「おいおい、いいのか?」


 俺は黒鎧野郎のすぐそばまで近づいていた。そして懐から物を出す仕草をした。


「……っ」


 大剣は向きを変えて俺の背中へ向かってくる。だから俺は、懐から手を離した。するとまたもや大剣は俺に当たる寸前で通り過ぎて行った。


「お前……人を殺したくないんだろ?」


「……っ‼」


「俺を殺すつもりなら最初からスキルを使って、大剣で押しつぶしておけばよかったっ‼ それなのにお前はルナティと戦うことだけに執着していた。それは何故か。お前は殲滅すると言っても、人を殺せないんだろう!?」


「……うるさいっ」


「俺にそのまま当てると死んじまうからな‼ お前、力加減が馬鹿なんだろっ‼」


「うるさいっ!」


「――そこだ」


 守りが崩れた一瞬を、ルナティは見逃さなかった。


 大剣の隙間を縫って、ルナティの一撃が黒い鎧にぶち当たった。鎧を破壊するには至らなかったが、衝撃によって奴は吹き飛ばされる。


 黒鎧野郎はすぐさまスキルで地面へ着地し、態勢を立て直そうとする。


 このチャンスを無駄にはできないっ‼


「ルナティ‼」


「ああ‼」


 ルナティは俺を担ぎ上げ、地面を蹴って奴への急接近を試みる。更に、俺を奴に向かって投げ飛ばした。


「あばばばばばばばっ‼」


 早いっ‼


 早すぎて口が閉じれないっ‼


 でも、それでいい……‼


「なん、なのっ‼」


 俺にはなんの力もない。チートも、スキルも、飛びぬけた身体能力も、一切持ち合わせていない。本来ならこんな俺を相手せず、ルナティだけに一点集中すればいい。そうすれば俺たちに勝ち筋は生まれないのだから。


 だがコイツは俺が危害を加えられる存在であるとの可能性を排除できていない。俺がいつ鋭利な牙を剥くのか、恐怖を抱いている。


 それがお前の敗因だ。


 三度目となった大剣の飛来。勿論俺はなにも抵抗しない。大剣は直前で進路を変え

て俺を通り過ぎ……、


「むっ!?」


 ルナティへ激突した。


「ルナティっ‼」


 勢いよく吹き飛ばされるルナティ。本気の鎧装備だったおかげか、吹き飛ばされただけで流血は見られない。それでも大きな一撃だったことは確かだろう。


 クソッ……やらかした。


 俺が前にいたことで死角となって大剣を捉えるのが遅れたのだろう。少しでも姿勢を変えていれば、剣でのガードが間に合ったかもしれない。 


 失敗は……成功で取り返すっ‼


 俺は勢いのまま目標――黒鎧野郎に張りついた。


 やだぁ。この鎧、硬くて逞しいじゃない……。


「は、離れろっ!」


「やだやだ‼ お父さんあの玩具買って―‼ ついでに豪邸も買ってー‼」


「ふざけ……るなっ」


 あー! 体をぶんぶん振るわないで―‼ 俺の握力じゃしがみ続けられなくて落ち

ちゃう‼


「あんまりっ……勢い凄いとっ……俺死んじゃうから‼」


「っ‼」


「お前はっ、人殺しになりたいのかっ!?」


「君……ほんと……嫌いっ」


 そんなこと言っちゃってー。言われるがままに動きを緩めたじゃないか。思いと動きが反比例しているぞ?


 そんなこんなしているうちに、俺は鎧をよじ登る。そして頭の部分に覆いかぶさった。


「見えないっ!」


「バーカ! 最初からこれが狙いだよ‼」


 恋する乙女が、大好きなあの人を思って抱き枕を抱きしめる時くらい、頭部分を抱きしめちゃう♡


「このっ……‼」


 ん、嫌な気配がするぞ??? 


 上を見ると、大剣の先が俺の方を向いていた。スキルで動かせば、綺麗に真っ二つにされてしまうだろう。


「やめてぇ‼ 大剣かすっただけで俺死んじゃうからっ‼」


「自業……自得……」


「やっべぇ‼ 言い返せねぇ‼」


 待て待て待て‼ この作戦大剣俺に飛ばされない前提で組んでんだけど!?


 作戦を成功させる為、ここを離れる訳にはいかない……。


 大剣は緩やかに勢いをつけて俺に当たった……刃がない大剣の横の部分で。


 腹部に強大な痛みと衝撃が俺を襲う。


「グハッ‼」


 ホームランされたかのように空中へ弾け飛ばされた俺へ、更に大剣が追い打ちをかける。


 大剣を落下しようとしている俺の腹の下に滑り込ませたのだ。漂流して流木にしがみつく者のように、大剣に浮かされる状態となってしまう。


「これで……君は動けない……」


 そういうことか。なんの力も持ち合わせていない俺なら、大剣にのしかかった状態から動けない。何故なら動いたら落とされてしまうからだ。


「……はぁはぁ……お前もう少し加減上手くなれよ……ばっかいてぇ……」


「……それはごめん」


 俺のHP半分以上減ったからな?


 最大限手加減しているんだろうけど、もう少し力入ってたら、即死だったからな?


「そこで好きなだけ……騒いでればいい」


「そうか、そりゃありがてぇな。だけどよぉ……俺にそんなに気を割いてていいのか?」


「――っ!?」


「あれを見てみろっ‼」


 俺はとある方向を指さす。


「あれ、は……」


 そこに見えたのは、流れ輝く星、こちらへ向かって来る一人の少女の姿だった。


「ま、眩しい……」


 人参の効果で発光し、ローションを足元に垂らし続けることで滑り続けている。こんな芸当できるのは一人しかいない。


 なあ、ふゆりん。


「ねぇ! ……あれは、なに……!?」


「お前は……放置し過ぎた……。あれの前ではお前は塵芥同然だっ‼」


「なん、だって……?」


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