第25話:スキル


「……それってお前の感想ですよね?」


「感想じゃない……事実」


「なんかそういうデータあるんですか?」


「データ……? みんな知ってること……チートは僕たち現地人に変革という名のゆりかごを押しつけてる……」


「あの……嘘吐くのやめてもらっていいですか?」


「嘘じゃない……」


「テカテカした黒く太く固い鎧野郎に不快感を覚えた自分に驚いたんだよね……」


「……やっぱり……君は嫌い」


 背筋がぞわっとする。


 やばい、ちょっとふざけ過ぎたかもしれない。


 殺気が俺の方へ飛んできた。ちびりそうです。


「なに煽っているんですかっ‼ ど、どうするんですか!? あれ、わたしたちを襲

う気ですよ!?」


「ふふっ……俺たちにできることなんてないだろう? ……すーう、ルナティっ‼」


 俺の呼び声に反応して、白銀の鎧を纏ったルナティが俺と黒鎧野郎の間に入って来る。


「私がいる限り、手出しはさせない」


「…………ほんと不可解。君みたいな人物が……どうしてあんな奴らを庇うのか」


「私からしたら、お前がどうしてそこまでチートを恨むのかの方が不可解だ」


「いずれ君も気がつく……チートは悪だって」


 そう言うと二本の大剣を抜き、ルナティへ向かってきた。そのうち右手の大剣を振り下ろしてくる。


 大した速さではない。余裕をもって回避しようとしたルナティだったが、大剣が突然に加速した。


「……ッ!?」


 回避は間に合ったが大剣は頬を掠める。血が飛び散るがそんなことは関係ないと、攻勢に出る。剣を黒い鎧へ叩きこもうとするが、もう片方の大剣で防がれた。


「……君がどんだけ頑張っても……僕には敵わない」


「ネズミは時に猫を殺すぞ……」


「でもほとんどは……猫が勝つ」


「……っ!? ルナティ‼ 上だっ‼」


 受け止めていない方の大剣、それが……宙を浮いていた。まるで見えない手で掴まれているかのように、大剣が浮いてルナティを襲おうとしていたのだ。


 浮いた大剣の先がルナティを刺そうと一直線に飛んでくる。バックステップで回避するが、黒鎧野郎が一本を手に、もう一本をファンネルのように自分の傍に浮かせて追撃してきた。


 分が悪いと距離を取ろうとするルナティ。ファンネル大剣を迎撃しながら走るが、どんどん距離を詰められていく。


「『ファイヤー』」


 そこで炎を黒鎧野郎へ向かって飛ばすが、


「……ぬるい」


 文字通り効いていないのか、炎を突っ切った。


 このままでは追いつかれてしまう。


 俺の体は自然に動いていた。


「……っ!? ガンナー!?」


 交戦状態の二人へ向かって走る。足の速さじゃ追いつかないからやって来る場所を予測して、なんとか二人の間に割り込んで叫んだ。


「『ウィンドっ‼』」


 風の刃が黒鎧野郎へと迫っていく。


「……っ」


 意識外からの攻撃だったのだろう、俺の魔法は黒鎧野郎へ直撃した。しかし効いていないのか、黒い鎧にはかすり傷一つもついていない。


 俺は死を覚悟する……けれど黒鎧野郎は俺に攻撃することなく止まった。まるで大剣を振るうのを躊躇しているように。


「ガンナーっ‼」


 ルナティの声で意識の海から引き戻される。俺は急いで距離を取った。


「……すまない、ガンナー。しかしもうあのようなことはやめろ。死んでしまうぞ」


「ああ……そうだな」


 俺は死んでいた……はずだ。なのに攻撃されることなく生きている、どうしてだ?


「大丈夫ですか!?」


 ふゆりんが俺たちの元へ駆けてきた。


「ああ……今のところはな」


「あの……浮いている力は……なんですか……?」


 大剣を浮かす謎の力、か。


 魔法……? それはあり得ない。魔法なら詠唱が必要だ。黒鎧野郎は一切の詠唱をしていないので可能性から外れる。


 それならチート……? それもあり得ない。チートは発動する際に光の球が集まる予兆が存在している。それもなかったからチートでもない。


 それならなんだ?


 検討はついている。だが、……現実であってほしくないな。


「多分……『スキル』だ」


「うん……正解。僕には……『スキル』がある」


 やっぱり……か。


 予想はしていたが、面と向かって言われるとメンタルに来るものがある。


「……ガンナー。スキルってなんですか?」


「……スキルっていうのは、特別な能力のことだ。血筋立場関係なく極まれに宿り、スキルの力は街一個掌握できるくらい強大なんだ……つまりめっちゃ強い異能力」


「なにそれ……チートよりチートじゃないですか‼」


「言いたいことは分かるが、値段が高いチートはスキル以上の能力があるからものによるとしか言いようがねぇな」


 スキルを持って生まれた奴は必ず大成すると言われるくらい存在価値があるのがス

キル。チートと違って選べる訳じゃないが、やばい力っていうのは確かだ。


「……成程な。どうりでおかしいと思った」


 ルナティが神妙な面持ちで言う。


「どういうことだ? ルナティ」


「奴のステータスを見てみろ。」



 名前:絶対チート許さないマン

 HP:6330/6330



「私のHPは少し減って『59808』。おかしいと思わないか? 私のHPの十分の一以下だ。それなのに私と対等以上に戦っている。つまり奴は最初からスキルを使用していた、ということだ」


 ステータスにおいて、HPと筋力や敏捷力は体そのものの数値であるので、関係性が非常に高い。HPだげが上がって、筋力や敏捷力が全く伸びない……ということはあり得ない。必然的に対象のHPを見れば、大体のそいつの筋力や敏捷力が推測できるのだ。


 しかしルナティと奴のHPは大差ある。普通ならルナティが圧倒するはずが、結果は少し押されているという事実。ステータスのカラクリはスキルだった……ということだな。


「……急に頭が良くなったな」


「私自身が一番びっくりしている」


 自覚はあったのか。これからもその調子でお願いします。


「……話は終わった?」


「ああ。お前についてディベートをしていたところだよ」


「そう……なら分かるでしょ……? 君たちじゃ僕に敵わない……素直に投降して」


「えー。投降したら弁償してくれるの?」


「やだ」


「じゃあ駄目」


「無駄なのに……」


 建物の恨みは重いんだぞ。


 ぜってぇ弁償させてやる‼


「チートは……根絶すべき」


「……なあ疑問なんだが、どうしてお前はそこまでチートを目の敵にしているんだ?」


「チートは……世界に悪影響だから」


「そういう理想的な話じゃなくて。どうしてお前がそう思うようになったのか聞いてるんだよっ」


 話を聞いたからと言って弁償させる気は変わらないが、気にはなる。こんなに言っているのだから、大層大きな出来事があったのだろう。


 黒鎧野郎は時間をかけて、ゆっくりと言った。


「――奪われた」


「……なにをだ?」





「師匠が……大好きだった師匠が……転移者と結婚して奪われたっ‼」


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