第24話:絶対チート許さないマン


「お、俺の家がぁぁぁぁぁ‼ 消えていったぁぁぁぁぁ‼」


 壁がないっ‼


 天井もないっ‼


 床は……あるっけど! 建物としての原型はなんにもないっ‼ 家具も結構飛ばされるし‼ これじゃあ旧家跡じゃないか‼


「君たちは……これから――」


「ど、ど、ど、どうするんですかぁ!? 家、家なくなっちゃいましたよ!?」


「お、落ち着けふゆりん……家……なくなっちゃった……家がなくなったー‼‼‼」


「家がありませんんんん‼ 家があああぁぁぁ‼ ありませんんんんん‼‼‼」


「落ち着いて……。話……聞いて――」


「違う……これは夢だ‼ ふゆりん! 俺の頬を抓ってくれっ‼」


「はいっ!」


「……痛い……っ!? いたいいいぃぃぃ‼ 強く抓り過ぎだろ!? しかも最後の方爪を突き立ててただろ‼」


「もしかして……結界とかある……?」


 こんだけされても痛いだけで景色が変わらないってことは……げん、じつ……。こ

れが……現実だというのか……?


「テメェ‼ なにしてくれてんだよっ‼」


「え……? 急に話しかけてきた……」


「無視すんじゃねぇ‼」


「そうだそうだ‼」


「いや……無視してたの君たち――」


「嘘吐くとはいい度胸してんじゃねぇか‼ 調子乗るんじゃねぇぞ!? うちのふゆりんさんはなー、手からローション出せるんだぞ!?「それ言う必要ありました?」凄いだろっ‼」


「……僕を恐喝するにしても、明らかに選択ミスしてない……? 葬式場にご祝儀持

ってくくらいミスってない……?」


「うるせぇ‼ 襲ってきたくせに被害者面してんじゃねぇーぞっ‼」


「それは……一理ある。蓄音機に音を出す機能がついているくらい……一理ある」


「その例え意味あります……?」


 そんなのどうでもいい。


 今、重要なのは家を破壊されたことだけだっ‼


「お前はどんな教育を受けてんだぁ‼ 金払え、金をぉっ‼」


「それは嫌」


「はああぁぁぁぁ!? お前さんのせいでうちは貧乏な家に住んでいたんだよっ‼


「それは僕のせいじゃない」それなのに俺から家まで奪うのが? このテカテカした

黒く太く固い鎧野郎が‼」


「変な名前つけないで……。僕の名前は……『絶対チート許さないマン』」


「それも十分変な名前じゃないですか……?」


「そうだ! そうだっ‼ 意味分かんねぇ名前と動機をのうのうと言いやがって‼ ボケてんなら老人ホームに行きやがれっ‼」


「僕に対しそこまで言う人……初めて」


「みんな謙遜してくたんだろうよ‼ いいから豪邸か4630万ゴールド送金しやが

れっ‼」


「もう……うるさい……」


 黒鎧野郎は両手にそれぞれ大剣持ち、俺たちに向かって急接近して振り下ろす。



 ――キンッ‼



 しかしそれは叶わなかった。


 鎧を纏ったルナティが横から入り、剣で防いだのだ。


「これを……受け止める」


「私の仲間に手を出そうとした以上、お前は許しておけない」


 二本の大剣を剣一本で受け止めているルナティ。しかしじりじりと押されていき、

危ないと思ったのか、ルナティは後ろへ飛んで距離を稼いだ。


「ルナティ‼」


「すまないな。吹き飛ばれた鎧を見つけるのに時間が掛かった」


 白銀色の鎧。それはルナティが本気を出す時に身に着ける最強装備。ずっと家の奥

に仕舞われており、使う機会を見たのは俺も始めてだ。


 全身に鎧を纏い、剣を構えるルナティ。


「危ないから下がっておけ。あれは……強い」


 一切の濁りのない真剣な声色。ルナティは黒鎧野郎から視線を外さずに言う。


「……そ、そうか。ふゆりん、下がろう」


「は、はい」


 俺たちが離脱したのを見計らってから、ルナティは黒鎧野郎へ始める仕掛ける。


 真っすぐに近づいて剣を振り下ろす……と思ったら突如足を止めて、右へ飛んだ。


 黒鎧野郎は剣をガードしようとした為横ががら空き。無防備となった横腹へ剣を薙ぐが、黒鎧野郎はガードしようとした際に起きた回転を使って、大剣を間に合わる。


 再び剣と剣がぶつかり合う音が鳴った。


 その後もルナティが攻勢を仕掛けるが、隙を突いても必ず防がれてしまう。そんな

現実に、俺は驚きを隠せなかった。


「ルナティの本気が……受け止められている……?」


 今まで俺はルナティと横に並ぶ、またはそれ以上の実力者を見たことがなかった。


 ……奴はルナティを攻撃を防ぎきって見せている。ギリギリじゃないところを見るに、まだ余力は残っているのも恐ろしい。


「なんですか、あの戦いは……目で全然負えないし、理解できないのに……やばいってのは死ぬくらい分かる……」


「……巻き込まれたら俺たちは死、だな……。けどルナティに倒せないなら……。どうすれば……」


 ルナティは最大出力ではないだろうが、本気であることは間違いない。このまま防がれ続ければ、先に限界を迎えるのは攻めているルナティだろう。


 どうにかして突破口を見つけないと、俺が必死に戦闘を見ていると、二人は距離を取って制止した。


「凄い……僕とまともに戦えたのは君が初めて」


「私もだ……だが残念だ。お前が明確な敵であるのが」


「チートは使わない? それとも……もう使ってその実力?」


「……なにを言う? 私にそんな力はない」


「ってことは現地人、か……」


 黒鎧野郎は二本の大剣を地面へ突き刺して天を仰ぐ。そして低い声で、


「不可解だ」


 とだけ言う。


 全身に悪寒が走った。黒鎧野郎の雰囲気が間違いなく重々しく変化したのだ。


「君は……その力をどうやって?」


「努力だ」


「そう……じゃあなんでチートと関わっているの?」


「何故……? 私がそうしたいと思っているからだ」


「理解できない……やっぱり不可解だ。どうして、チートというゴミを受け入れる?」


「おい……チートがゴミってどういうことだ? 能力的な話じゃないだろう?」


 聞き捨てならないな、その言葉は。


 震えそうになる全身を気合で抑え問うた。


「君が……チートを売っている人……だよね」


「そうだ」


「隣の彼女は?」


「わ、わたしはっ……転移者ですっ」


「そう……じゃあ教えてあげる。チートはこの世界に存在してはいけない……不純物。元々この世界に存在していなかったのに、この世界を塗り替えようとする……有害な外来種。さっきゴミって言った……けど……間違えた」




「――ゴミ未満」

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