第23話:少女の想い
「……ガンナー」
「……ん? どうした?」
「そんな……目的じゃないんでしょう?」
「……なんのことだ?」
「闇鍋を開催した目的です」
ふゆりんは蹲ったまま、赤い頬を隠さず真面目な顔で言い放つ。
「別に理由なんてねぇよ。ただふゆりんをはめて良かったと言っただけ」
「本当にそうでしょうか? 一か月というそれなりの期間過ごしてきました。それで分かったのは、面倒くさがり屋のガンナーが、自ら行動するのはほとんどないことです。人をはめるにしても大掛かりなことはやらない。なにか特別な理由があってわざ
わざ闇鍋を催したんでしょう?」
「はぁ……なんでそういうところは察しがいいんだ。一番タチが悪い」
隠し通すのは無理か。こっぱずかしいから話す気なんてなかっんだけどな。ムスコの後はこれかよ……、俺は頭を掻いて言う。
「……ふゆりんがなんか落ち込んでいるようだから、楽しんでもらおうと思っただけだよ」
「……そう、だったんですね。顔に出さないようにしていたつもりだったんですが……」
「バレバレだよ。自ら明かしているくらいバレバレだった」
「……ルナティも知っていたんですか?」
「そうだ。ガンナーに相談されてな。ふゆりんはニホンが恋しいんじゃないかと思って、励まそうと闇鍋を画策したんだ」
「ニホンが……恋しい、ですか……」
俺はふゆりんの近くであぐらをかく。そして木目しか見えない天井を仰いだ。
「俺たちはお前ら転移者の気持ちなんて一生分かんねぇけど、あんまり落ち込んでいられるとこっちまでテンション下がりそうだったからな」
「素直に心配だったからとガンナーは言えない」
「うるせぇし、断定すんじゃねぇ」
「察しがいがあるということだ」
ものは言いようだな、全く。
「……わたしが落ち込んでいたのはっ……ニホンへ帰りたいからじゃありません……」
「え? 違うのか?」
首を縦に振るふゆりん。想定とは違う反応に、俺は身を強張らせる。
「……話を聞かせてみろ。俺たちが受け止めてやるから」
ふゆりんは顔を伏せる。そして静かに口を開いた。
「……わたしは……ずっと孤独だったんです」
「孤独……?」
「文字通りですっ。家族はわたしに関心がなかったですし、学校へ行っても友達はおろか、話し相手すらできなくてっ。ずっと、温もりが欲しくて……」
「……そうか。それで、どうしてそれが落ち込むことと関係しているんだ……?」
「……お二人と離れ離れになるのが嫌だし……怖かったんですっ……」
「どういうことだ……?」
俺とルナティはここにいるぞ? どこかへ行く予定はさらさらない。なんで離れ離れになると思ったんだ?
「借金二号さんとの話、実は隠れて聞いていました。わたしの借金がなくなること、知っていたんです。借金がなくなる、そうなればここにいる理由がなくなってしまいます……」
「それなら借金とか関係なしにここで働き続けていればいいじゃないか」
ふゆりんはゆっくりと首を横に振った。とても悲しそうな顔をして。
「わたしは……自分の力で道を切り開けないんですっ……。誰かに背中を押されたり、巻き込まれたり。わたしじゃない誰かが造ってくれた道を歩くことならできるんですがっ、大事な選択を迫られた時、自分じゃ道を選べないし造れない……」
少女は涙目になりながら告白する。
「だからっ、わたしは借金という枷がなくなって自由になっても……放り出されたまま歩けない。先へ進むことも、もと居た場所へ帰ることも、誰かに叶えてもらうほかない。……そういう人間なんです」
世の中は不条理だ。
外面的な問題、内面的な問題。誰しもなにかを抱え生きている。世間はそれを隠す社会を強要しているのだ。
綺麗事と美談だけがちやほやされて、その間にも苦しんでいる人々へは目が向かない。
人間ってのはそういう生き物だし、今に始まったことじゃない。むしろ心を持った最初から始まったことだ。それでも人間は皆、不条理だと言って抗い続けなければならない。売れ入れてしまったら最後、それは人間を捨てたことと同義だ。
ふゆりんは決められない自分に悩んで……苦悩していたのか。……だけどな、ふゆりん。それは乗り越えなきゃいけないもんだ。他人の力なしで進めるようにならなきゃいけないんだ。
「お二人の気持ち、嬉しかったですっ……だからこそ、わたしは……」
零れかけていた涙を拭い、ふゆりんは笑顔を見せてきた。まるで別れと言わんばかりの表情で。
気付けば半ば無意識に動いていた。それはルナティも同じだったらしい。
俺の手はふゆりんの頭に、ルナティは両手でふゆりんの体を抱きしめる。
「ガンナー……? ルナティ……?」
「これ以上喋るな。……そして噛みしめてろ。お前が求め続けた温もりってやつを…………少なくとも今は」
今日は性に合わないことばかりさせられる。
得意じゃねぇんだけどな、こういうの。けど、お前のそんな顔は見たくないんだよ。ふゆりんははめられて、わちゃわちゃしているのが一番だ。
お前は、俺たちの仲間なんだからな。
「ガンナーって、……根は優しいですよね」
「あ?」
「ほーんと、罪な人です」
「うるせぇ。黙れって言っただろ」
「照れているんですか?」
「照れてねぇ「照れているな」……って俺の気持ちを代弁するんじゃねぇ‼」
せっかくこっちが柄じゃないことやってんのになんだコイツらは‼
「そんなに言ってくるってことは元気出たってことだよな!? もう手は放すからなっ‼」
「はい……ありがとうございました。ルナティも、もう大丈夫です」
「そうか。抱擁はタダだ。ぼったくられない」
「ふふっ、そうですね。寂しくなったらまた注文するかもしれません」
ちゃんと元気が出たようだな。
ひとまずはこれでいい。だが、借金完済まではそんなに日にちがない……やむなしか……。
「……なあ、ふゆりん。もしお前が答えを見つけ――」
――バァゴオオォォォォォンッ‼‼‼
人生で一番の衝撃だった。
音は勿論、視界に入った全てがそう教えてくれる。
外が見えた。家の中にいるのに、外が見えたんだ。何故って、俺の店が、家が、吹
き飛んでったからだ。
爆音と共に、木造建築の壁や屋根が綺麗さっぱり消えてしまった。
「な、な……にが……起きた……? 俺の家が……」
衝撃の発生地点。三つの月の光が照らすその場所から、呆然とする俺たちに向かってくる大きな姿が見える。
「チートは……存在しちゃ駄目」
二メートルはある、全身を覆う巨大な漆黒の鎧を纏い、馬鹿デカいサイズの大剣を二本持っている。
「君たちの仲間は……成敗した」
下から上へ黒い竜巻のようなオーラが鎧を伝っており、どんなに無垢な人であって
も、本能で理解する。こ奴はえぐすぎる化け物だ、と。
「お前は……お前は一体誰だっ!?」
「僕は『絶対チート許さないマン』。君たち……チートを受け入れる者を殲滅する者」
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