第22話:人生終了のお知らせ


「ルナティ。俺を言うことを聞くんだ……お願いだ」


「ガンナーが言うならそうしよう――」


「ちょっと待って下さいっ‼ ルナティ、耳を貸してください……実は……」


 おいおい、お前じゃ無理だ。俺とルナティは相棒だ。付き合いの短いふゆりんが説得できる訳……。


「よし、灯りをつけよう」


「ルナティ!?」


「ガンナー……すまない」


「どうしてだよ‼ ルナティ‼」


「私は……自分の欲に負けて堕ちたのだ……」


 一体どんなおぞましい取引がなされたというのだ……。


 ふゆりんになんとそそのかされたのかは知らずとも、このままでは灯りをつけられて俺の下半身が露呈してしまうことは分かる。


 ムスコは未だに収まる気配がない。


 一体どうする!?


 説得を続けるか……? だがルナティとふゆりんの結託を見る感じ、望みは薄そうだ。


 それじゃあルナティが『ライト』の魔法を使った瞬間に、俺の魔法で打ち消すか……? いや、他人の魔法は打ち消す側が魔法に秀でていないと無理だ。一般人男性である俺にはそんな高等技術はできない。


 このままでは……。


「ではルナティ。灯りをお願いします」


 背に腹は代えられない。……やるしかないっ‼


「よしっ。『ライト!』」


 ルナティの魔法によって、部屋の中が照らされる。


「ま、眩しい……ってガンナー。なんでそんなところに……」


 俺がどこにいるかって?


 そんなの物の死角に隠れる以外あり得ないだろうが‼ 露出が露呈するのを避ける為、俺はルナティが片づけをした際に出てきて積み上げられた物の後ろに移動していた。露出しているのがバレないよう、上半身だけ見えるように体を出している。


「なにがしたいんですか?」


「な、なんでもねぇよ。強いて言うなら、そうすべきだと俺が理解しているからだ」


「なんでもないのにそうすべきだと理解しているって矛盾していませんか?」


「じゃあ言い間違いだ」


「はいそうですか……って納得する訳ないでしょ‼」


「「あっ、ノリツッコミ」」


「そういう時だけ息を合わせないで下さい‼」


 普段から息合ってるよ、俺たちは。それなのにアイツは反逆しやがった……この裏

切り者め(半泣き)‼


「本当に理由がないなら、移動する必要はないでしょう」


「うるせぇ! 俺に構うな!」


 近づかれてはいけない……どうにかしてムスコが収まるまでやり過ごさないと……。


「……ふゆりん」


「どうしたんですか? ルナティ」


「ガンナーは……反抗期に入ってしまったのか!?」


「違うわ! なんで親じゃなくてお前に反抗するんだよ!? ……まあ今、反抗はしているけど‼」


「反抗の犯行声明が出された」


「やかましいわっ‼」


 今更そんなダジャレで誰が笑うんだよ。


「どんな理由か知りませんが、さっさとこっちに戻ってきたらどうですか? 鍋の残り、食べないといけませんよ?」


「……あとで食うからほっとけ!」


「やっぱり反抗期に……」


「だから違うわっ‼」


 少し反抗しただけで反抗期に所属させられてたまるか。


 けど、この調子で時間を稼いでいればいい。お前たちが知らない間に、俺の目的は達成へ向かっているのだ!


「ふゆりん。放っておくか?」


「いや……なんか覗き見されているみたいで気持ち悪いんで連れ戻しましょうか」


 そう言うと立ち上がって俺の方へ向かって来る二人。


「っ!? こっちへ来るんじゃねぇ‼」


「うわー……痛い人にしか見えない……」


「こんなにガンナーが反抗するのは久しぶりにみたぞ。なにか大きな理由があるのでは?」


「だとしても説明してくれないなら強硬手段に出るしかありません」


 強硬手段だ? ふざけやがって!


 説明しなくてもやばいんだって察しろよ‼


 ニホン人は空気に流されるのが上手なんじゃないのかよ‼


 クソッ……このままでは到達されてしまう。


「これ以上近づいたら減給するぞ!?」


「減給……まあ……いいでしょう」


「なんで受け入れるんだよ!?」


 ニホン人は自然と自らブラックな職場を目指してしまうというのか……。


 二人はあと少しで俺の元へ辿り着いてしまう。なにか策を講じなければ…………駄目だっ……。まともな策が思いつかねぇ……。


 こうなったら……やるしかない……。



 ガサッ……ガサガサッ……。



「何の音だ?」


「布が擦れるような音が……なにをやっているんですか? ガンナー」


「……ふふっ、こうなりゃやけだ……全部お前らのせいだぁ‼」


 俺は、プライドを捨てるぞっ‼ 


「くらえっ‼ 俺の大事なものをっ‼」


 隠れたまま、ルナティたちの方へ向けて脱いだままだったズボン(中にパンツも入

ってる)を投げる。すると即座にズボンへ飛びつく音が。


「もらった‼」


「ルナティ!? なにをやっているんですか!?」


 よし、予想通りだ。ルナティは間違いなく俺の衣服に食いつく。少しの間、ルナティは俺のズボンに釘付けで動けないだろう。そうなれば後はふゆりんだけだ‼


 俺は勢いよく物の影から飛び出す。そしてルナティの方を向いていたふゆりんに対し、着ていたシャツを投げつけた。


「きゃっ!?」


 視界外からの一撃にふゆりんは対応できず、シャツがふゆりんの視界を遮る。


 俺は……今、全裸だ。


 シャツまで脱いだのだ。一切の衣服を纏わず、すっぽんぽんで駆けだしている‼


 しかしそれがなんだ‼ 二人の視線は潰した‼ この隙に風呂場に入ってムスコが

収まるまで避難する‼ あと少しでこの悪夢が覚めるのだっ‼


 勝負は今ここで決めるっ‼ 


 俺がふゆりんの横を通り過ぎようとした、その時だった。


「なっ!?」


 ふゆりんの手に光の球が集まり、ローションが勢いよく地面へぶち撒かれた。


 ふゆりんがローションチートを発動したのか!? ……いや、ふゆりんにそんな判

断はできないはず……ってことは、ローションチートの暴発かっ‼ なんでこんな時に‼


 今更勢いを止められず、足にローションが絡んでくる。必死にバランスを保とうとしたが、ローションが離してくれず、俺は転倒してしまう。


「いててて……」


 早く風呂場へ向かわないと……。


 しかし立ち上がろうにも床がヌメヌメで、立ち上がる途中でまた転んでしまう。更に回転してしまったせいで、進行方向とは逆を向いてしまった。


「……ガ、ンナー」


 ……この、声は……。


 恐る恐る顔を上げると、そこには……ふゆりんが居た。


「ふ、ふゆりん」


「……」


 今の俺、確認します。


 まず全裸、はい。ムスコは大元気です。しかも転んだせいでローションが全身に付

着しております。


「キャアアァァァァァァァァ‼‼‼」


 ああ……人生終わったな……。



  ◆



「もう……お婿にいけないっ……」


 最悪のことが起きました。俺のムスコが見られました。今は人参の影響が消えて元通りになりましたが、関係は元通りになる気がしません。衣服は身に着けました。


 視線の先には部屋の角で蹲っているふゆりんの姿が見えます。誰か助けて下さい。


「ガンナーにそんな趣味があったとは……。早く言ってくれればよかったのに」


「俺は変態露出魔じゃねぇ‼」


 ふゆりんに見られた後にルナティにも見られたが、頬を少し赤く染めただけでこのように受けいれてしまった。誰か助けて下さい。


「理解できるように努めよう」


「だから違うって‼ 不慮の事故なんだよ!? さっきから説明しているだろう‼」


「私にそんな趣味はないが……ガンナーの為なら私も――」


「なんでお前はそんなに話を聞かないんだ!? 脳みそをもっと詰めろっ!」


 ルナティはもう……諦めよう。それよりもふゆりんの方だ。未だに角で蹲りながら

俯いて、小声で独り言を言っている。


「ふゆりーん……謝るからいい加減こっちの世界へ戻っておいでよ……」


「あんなに……大きい……」


「普段はあんなに大きくないですぅ‼」


 うちのムスコは無農薬で大切に育ててきたんで、あんなサイズになったのは初めてなんですぅー。


「あそこまで大きいと大変だろう。私が丁度いいサイズに切り落としてやろうか?」


「やめて!? 俺のムスコを虐めないで!?」


「痛かったらすまない」


「切り落とす前提!? ルナティ、なんかいつもより言葉が一方通行じゃない!?」


 すっごい人の話を聞かないしやばいこと言ってくるんですが!?


 もしかしてこれがルナティなりの恥じらい方だというのか……?


「ふゆりん……いい加減戻ってコイツて」


「戻ってこい……あれも小さく戻るべき……」


「もう戻ったから。元通りになったから。俺も全裸じゃないから。全部元通り。俺たちの関係も元通り」


「……元通り……元通り……元通り……」


「こっちの世界に帰って来るんだ、ふゆりんっ!」


「……落ち着き……ました」


 ふうぅ、一旦の事態の鎮静は済んだか。


 はぁ、これから先どうするかね。彼女たちへの口止めは勿論として、闇鍋の中に入った残りの人参の処理、それと床に塗られたローションの掃除等々……考えただけで頭が痛くなる。


「闇鍋のつもりがこんなことになるなんてな……でも、まあ良かったわ。ふゆりんをはめることができて」

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