第20話:爆ぜる眼球


「ぎゃああああああああああ‼ 目が、目がぁぁぁぁ‼」


 眩過ぎる閃光と、飛来した物体が眼球へ直撃。コイツッ、俺の目の前でクラッカーを鳴らしやがった‼


 痛すぎるぅぅぅ‼


 痛すぎるぅぅぅぅぅ‼


「俺の目がぁぁぁー‼」


 痛みのあまり、両目を抑えながら転げ回る。


「すみません。少しの間、目を殺していてください」


「……ふゆりん。今光ったものを入れてなかったか?」


「ルナティ、静かに……」


 不穏な会話が聞こえるのに、目潰しされたせいで状況が確認できない‼


 やりやがったな……俺をはめるとは……いい度胸じゃねぇか。


 それにしても……痛すぎるって‼ クラッカー、本来の使い方一度もしてねぇじゃねぇか‼


「……はい、終わりました」


「こっちは目が終わってんだよ……」


「不可抗力ですね」


「どこが不可抗力だよ‼ 不憫属性を押し付けてくるんじゃねぇ‼」


「誰がわたしを不憫にしているんですか!?」


「おめぇだろ! おめぇ自身だろうがっ‼」


 文句を言っていると、少しずつ目の痛みがひいてきた。


 あー、クラクラする。視界は真っ暗なのにクラクラするー。


「全員入れ終わったんですよね。それなら次は煮詰める作業ですか」


「話を逸らしやがって……。それじゃあ鍋の蓋を閉めて、『ファイヤー』」


 魔法で火をつけて放置する。


 大体十分くらい煮込んだ。


「そろそろいいか」


 俺は鍋の蓋を開ける。


 するとまず俺たちを刺激したのは、匂いだった。


「なにこれ……めっちゃ甘い匂いが……する」


「ほんとですね……ディ●ニーランドの、キャラメルポップコーンの匂いみたいな……」


「……」


 ルナティ、何故黙っているんだ? お前か、お前なのか? 予想に反して彼女たちもなにかしら変な具材を入れているようだ。


 明らかに鍋とは思えない甘ったるい匂い。俺は覚悟を決めて言う。


「……よし。じゃあ……みんな茶碗の中に掬ってくれ」


 鍋と一緒に見つけたおたまを使って掬おうとするのだが……え、なんかめっちゃ重いんだけど……。液体とは思えない重さだし、スライムのようにドロドロしていた。


「勇気がいるな……食べるの」


 さっき決めた覚悟、あれは嘘だ。


「それならば私から食べてみよう」


「……どうだ?」


「……甘い」


 やっぱりか。匂い通りの味になっているようだ。


「なにを食べたんだ?」


「多分……ネギだろうか。ネギ自体は普通だが、汁が壊滅的で不味い。汁と絡めて食べてはいけない」


「ここまで煮詰めた以上、難しいでしょうね……」


 つまり、俺たちは謎に甘ったるい汁を堪能しなければならないのか。


「ちなみにネギ入れたの俺だ」


「へー。案外普通のものを入れたんですね」


「そういうお前はなにを入れたんだよ」


「秘密ですっ」


 地雷を入れたなお前。


「……次は俺がいく」


 お椀の中にある固形物を探す。……まてこのドロドロ感、もしかして……っ‼


「……おい、ふゆりん。お前……俺を目潰ししている間に『ローション』入れただろ」


「ギクッ」


 ビンゴのようだ。


「ふざけんな‼ ローション食い物じゃねぇだろ!?」


「わたしは鍋やラーメンの汁は飲まない派なので」


 だからローション入れていい理由にはならねぇだろ! 


 そもそもローションは食用じゃねぇ‼


 しゃあなしだ。ローション汁は最大限飲まないようにして……固形物を口に運ぶ。


 ……うわ。あぁぁぁっま。汁、あぁぁぁっま。これチョコレートの甘さだぁ。


 汁の甘さに邪魔されて固形物の方があんまり分からない……肉か?


「……誰かチョコレート入れたな?」


「それは私だ」


「……鍋がチョコレートフォンデュになりやがった」


 チョコレートが溶けた甘いローション汁が最高に不味い。なんだこれ。


 ローションチョコレートフォンデュとか、誰に需要があんだよ。


「それと……肉、入れたか?」


「それも私だ」


 おっ、二連続でルナティのを当てたか。


「なんの肉だこれ」


「マジカルスライムのレバーだな」


「……ん? も、もう一度言ってくれ」


「マジカルスライムの肝臓だ。前にガンナーとふゆりんが全身に浴びていたやつだ。

需要が少ないから安いんだ」


 ……俺、アイツを食べたのか……?


「うわーwww あれを食べるとかマジないですwww 胃の中でレバーが自爆してほしいwww」


「ちなみに普段の調理の中にも入っていたぞ?」


「「え」」


「ちょっと待て! 初耳だぞ!?」


「言う必要があったのか? 報告するに値しないことだと思っていたのだが」


「あれを……食べていたの……? あんな気持ち悪いのを……?」


「……ふゆりん。俺たちはみんな仲良くマジカルスライムを胃の中に収めていたんだよ……」


「嫌だっ‼ 認めなくないっ‼」


 ふゆりん、受け入れるんだ。


 アイツの血肉が俺たちの体の一部となって、俺たちを構成していて、もはやアイツのおかげで生きているのだと言っても過言じゃなくて……うん。もう考えるのやめよう。


「次はふゆりんの番だぞ」


「あっ、はい……嫌だなぁ……」


「お前がローション入れなければもう少しマシになっていたけどな。さっさと食えっ」


「……悔いはない……えいっ!」



 ガリッ。



 ふゆりんの歯が破壊される音がした。


「硬っ!? しかも痛いっ‼ なにか口に刺さったんですけどっ!?」

 よっしゃwww 引っ掛かったなwww 笑いが止まらないwww

「……ガンナー。なにを入れたんですか?」

「なにって、具材だよ。ちゃんと食べてみろって。よく噛むんだよ」

「本当ですか……?」


 ガリッ。


「痛いっ‼」

「もっとしっかり噛むんだよっ‼ 石を砕くみたいにっ‼」


 ガリッ。


「歯が壊れるっ‼」


「お前はそんな軟弱者なのかっ!? 自分を信じて噛むんだっ‼」


「そうですね、ガリッ……ってもうやんないよっ‼」 


「「あっ、ノリツッコミ」」


「ハモるな‼ なにを入れたのっ!?」


「カニの足」


「カニの足……? ……ほんとだ。よーく確かめてみたらカニの味がする……」


 言っておくが、俺はお前たちみたいに頭のおかしいものだったり、味を壊すような具材は選んでいない。よってこの中で一番の常識人は俺だ(異論は認めん)。

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