第19話:闇鍋


 扉の開閉音が聞こえた。ふゆりんが帰ってきたようだ。少しして、食材を担いだふゆりんが俺たちの元までやって来た。


「適当に良さそうなの買ってきました。これでいいんですか? ……って、二人でテーブル囲んでなにしているんですか?」


 そう。俺たちはテーブルの上に洗った鍋を置き、囲むように座っていた。


「ふゆりん、今夜の夕食は鍋だ」


「鍋ですか? 鍋に合いそうな具材買ってきたかなぁ……、なんで先に言わないんですか」


「まあまあ、ふゆりん。実は鍋は鍋でも普通の鍋じゃないんだ。ほら座って」


 空いたスペースにふゆりんを座らせる。


「今から俺たちは……闇鍋を行う‼」


「闇鍋……ですか?」


 ふふっ……驚いて声も出ないようだな……。


「闇鍋知っているか?」


「まあ、名前だけですが」


「そうか。じゃあ軽く説明してやる」


 闇鍋とは、文字通り真っ暗の中で行う鍋のことだ。


 参加者は各々具材を持ち寄り、暗闇の中鍋に投入する。そのまま煮込み、暗闇で視界が見えない状態で食する。食べて初めて具材を理解する仕組みだ。


 禁止事項としてはまず食べるまで持ってきた具材を明かしてはいけない。暗闇なのは、具材がバレないようにする為だ。


 そして食べられないものは投入してはいけない。闇鍋はエンタメ性が高いとはいえ食事に変わりない。ちゃんと全員で最後まで食べないといけないのだ。


「ふむ、食事の中に娯楽が含まれているということか」


「けどどんな娯楽になるのかは参加者が入れた具材次第……ってことですよね?」


「そういうこと。誰かが変な具材を入れなければ美味しい鍋で済む。しかし誰かがふざけて変なものを入れれば地獄になるかもしれない。全ては具材が決めるんだ」


「ガンナー、絶対変なもの入れるでしょ」


「なんで真っ先に俺を疑うんだよ。俺だって食べるんだからな」


 闇鍋は全員で食べなければならない。ふざけて変なものを入れた場合、それを自分でも食べる羽目になるのだ。


「やるだろ? ふゆりん」


「はぁ……ほんと急に変なこと言い出すんですから。しょうがないですね、やるから

には楽しみましょう」


 よしきたっ。


「今回はそれぞれ二種類具材を選んでくれ。多すぎると訳が分からなくなるからな」


「分かった」「分かりました」


 まずは具材選び。急に闇鍋をすることになったので、家にあるものの中から選ぶ。お互いがなにを選んだのかバレないようにし、俺たちは具材を隠し持って集合し直した。


 月の光が入らないようにカーテンを閉めておくのを忘れずに。


「準備はいいか? 具材は命に代えても見えないようにするんだぞ? じゃあルナティ」


「ああ。では消そう。『ロストライト』」


 ルナティは家の中を照らす、灯りとなっていた『ライト』の魔法を打ち消すと、部屋が暗闇に包まれる。


「うわっ、本当に真っ暗ですね。なんにも見えない」


「そうだな……えいっ」


「ちょっと!? 足でツンツンしないで下さい!」


「そうか……今なら合法的にガンナーに飛びつけられるのか」


「足ツンツンから段階飛ばし過ぎだろ。不完全変態かっ」


 このままだとここが戦場になりかねない。さっさと闇鍋を始めよう。


「じゃあ、俺からだな」


 さて、では具材を入れていこうか。


 俺が選んだ一つ目の具材は……『長ネギ』だ。ザ、鍋の具材。なにもふざけていない。いくら闇鍋でエンタメ性があるとはいえ、最低一種は真面目なものを入れていないと、コイツ遊びの為に闇鍋しただろってレッテルを貼られてしまう。


 では二つ目はなにか……選んだのは『カニ』だ。


 普通じゃないか! って思ったそこの君。ちっ、ちっ、ちっ。甘いな。これには大きな落とし穴があるんだ。


 それは……カニには殻があることだ。俺はカニの足、一本一本を殻ごと入れている。俺は入れている側だから仮にカニを食べることになっても殻を除けて食べればいいが、カニを知らない彼女たちは殻ごと食う羽目になるだろう。


 初見殺しだな。


 もっとふざけてもよかったが、今回の趣旨から離れすぎないように調整した。


 長ネギとカニの足数本を入れ終わる。


「よし……入れ終わったぞ。次はルナティ」


「私か。では目を瞑っていろ」


「真っ暗なんだから目を瞑る必要性ないだろ」


 ポトッポトッ。


 具材が鍋の中へ落ちる音が聞こえる。


 予想だが、ルナティなら変なものは入れないはず。あくまで鍋としての美味しさを

優先するはずだから、ルナティの具材は安心して食えるな。


「終わった。最後にふゆりん」


「はい……少し待って下さいね」


 ふゆりんはこの中で一番の真面目だから変なものは入れないはず。もし俺の推測が正しければ美味い鍋ができあがるだろう。一つだけ懸念があるとするならば、俺への復讐……といったところか。


「ガンナー。今、目を瞑っていますか?」


「瞑ってねぇよ。なんでお前らはそんなに目の開閉を気にするんだっ」


「いえいえ。開いているならそれでいいんですよ。ルナティは目を瞑って下さいね」


 おい、なにを考えているんだ。



 ――バンッ‼



 突如現れた光が収束し、俺の目の前で爆発した。

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