第17話:禍福は糾える縄の如し


「――ってことがあって、ルナティの剣で家が真っ二つになっちゃったんだよね」


「……」


「しかも家の修理費で、今日稼いだ金が全部飛んじゃったんだよね」


「……ってなにやってんの!? わたしが見ていない間になにやってんのっ!?」

 これ以上訪問販売が継続できなくなり家に戻って早々。目覚めたふゆりんの声が痛い。


「目覚めていきなり元気だな。全く」


「長い間寝させられていましたからね!」


「勘違いするなよ!? あれは事故だ。故意じゃないからな‼」


 さっきから無実だと説明しているのに信じてくれない。こんなに清廉潔白だという

のに。


「百歩譲って事故だとしても、なんでこんなことになるんですか!?」


「責めるなら私にしてくれ、ふゆりん。全ては私の我慢弱さのせいだ」


 申し訳なさそうな顔で言うルナティ。


「いやいやそんなことない。ルナティは怒れない俺の代わりに怒ってくれただけだ。お前を責める奴がいたら、今度は俺が怒ってやる」


「……ガンナー」


「……ルナティ」


「いいムード醸し出しても駄目ですから。無一文になった事実は変わりませんから」


 クソッ……さっさと流されてくれればいいものを……。


「発光している人に言われても説得力なーい」


「……」


 発光。


 そうなのだ。意識を取り戻したのは良いとして、未だに体が光り続けているのだ。


「これは……わたしもどうしたらいいか分かりませんっ‼ 誰か助けてっ‼」


「可哀想なふゆりん……不憫だ……」


「……それに体の節々が痛いんですが……。特に腰回りが」 


「そ、それはっ……歳じゃないかな……?」


 おい、冗談だって。


 ちょ、なにをするんだ!?


 腰蹴らないで‼ 


 めっちゃ綺麗なフォームでつま先を腰に突き刺さないでぇ‼ 


「もうっ……これからどうするんですか!?」


「はぁ……はぁ……腰痛えぇ……。そうだなぁ……」


 今日と同じ手は使えまい。起源祭は今日だけなのだから。


 昨日と同じ手も使えないだろう。あの野郎共が俺たちのことを吹聴しまくったせいでな。


 となると新しいアクションを。それもすぐに結果が出るもので。


 うーん……ふゆりんに大道芸させるくらいしか思いつかない。


 オイラの脳みそじゃこれ以上案を出すのは無理ぽよ……(弱音)。


 そもそも案がポンポン出てくるのなら、こんな状況になってないからなぁ……。


 不肖、ガンナー。なんでも言うこと聞くので誰か助け――。



 ――バァ――ンッ‼

 


「うわぁぁぁぁ‼」「キャアアァ‼」


 勢いマシマシで扉が開かれた。驚きのあまり、俺とふゆりん飛び上がっちゃったわ。


「びっくりしたー……誰だよこんなことしたのって……」


 そこに居たのは……美少年の見た目をした男。焦っているらしく額には汗を滲ませ、息はゼーハーと上がっている。


「……借金二号じゃねぇか。一体どうしたんだこんな夜に」


「き、聞いて下さいっ‼ これ……」


 そう言って腰にぶら下げた袋をカウンターに乗せる。するとジャラ、金属がぶつかった音が聞こえた。開いて中を覗いてみると、入っていたのは大量の硬貨たちだっ

た。


「硬貨……? それも……金貨ばっかりじゃん‼」 


 恐る恐るつまんで観察する。


 間違いない。これは正真正銘の金貨だ。精巧に造られていて、王家の紋章が入っている。


「ど、どうですかぁ!?」


「お前…………犯罪はいけないだろ!」


「……え?」


「強盗したのか!? それとも空き巣か!? まさか……盗賊紛いなことを――」


「ち、違うし‼ あ、貴方に言われたくないぃ……‼」


「は?」


「ご、ごめんなさいぃぃぃ……」


 やっぱキモいなコイツ。


 ルナティたちも冷ややかな目で見ていた。


「はぁ……はぁ……視線が熱いぃっ……」


 逆だよ逆。


 今にも殺されそうなくらい冷たい目線送られてるぞ。


「そ、そんなことより、話を聞いて下さいぃー‼ や、やましいことはしてませんってぇー‼ なんでそんなに拙者を疑うんですかぁー!?」


「だってお前、犯罪予備軍みたいな挙動してるじゃん」


「き、挙動で人を判断するのはどうかと思いますぅ……」


「……いや、するだろ。そりゃ挙動で判断するだろ」


 そこはせめて見た目で判断するな、だろ。


 なんでコイツ見た目だけは整ってるんだマジで。すんげえムカつく。


「……それで? どうしたんだこの金は」


「じ、実はぁ……ギャンブルで大勝ちしたんですぅ……」


「はぁ、はあぁ…………? こ、こんなに……?」


「は、はいっ!」


「ど、どうやって?」


「な、なんか知らないけど勝てたんですぅ‼」


 ここに天才が現れました。


 俺は知ってたよ。お前が凄い奴だって。


「三十万ここにありますぅ。これで完済ですぅ……」


「――よくやった。お前なら出来ると信じてたよっ‼」


 嬉しさのあまり、借金二号に抱きつく。


「お、男に抱きしめられても……あっ、なにかに目覚めそう……」


 やばい。


 コイツを即刻幽閉しないと大変なことになってしまう。


「ガンナー! 私にも抱きつくんだ‼」


「お前にはさっき、剣を振り回した時に抱きついただろ」


「た、確かに……じゃあもう一度同じことをすれば……」


「次は死者出るから絶対駄目」


 あれ、飛びつくの結構勇気いるんだからね? めっちゃ怖いんだからね?


「ほっんと賑やかですね……」


「寂しくなるよりは賑やかな方がいいだろ」


「そう、ですか……? まあ、確かに楽しいですけどぉ……」


「ん? 最後なんて言った?」


 そうですかの後。小声で言っていたので聞き取れなかった。


「なっ、なんでもないです‼ そんなにお金持っているならわたしの借金も返して欲しいなって思っただけですっ‼」


「しゃ、借金があるんですかぁ……?」


「ああ。お前と同じ経緯でな」


「なっ、なるほどぉ……」


 しかし本当に良かった。もし借金二号が金を持ってきて来なかったら、明日はもっと過酷な一日になっていたはず。三十万もあれば、当分生活に困らないだろう。俺も


 ギャンブルで金稼ぎした方がいいか?


 そんなことで一日が終わろうとしている。俺は明日の為、寝る準備をしていたんだが……。


「ちょ、ちょっといいですか……?」


「……あ? 借金二号? まだ帰ってなかったのか」


 借金二号が俺の元へやって来たのだ。てっきり金を渡したから帰ったのだと思っていたんだが。


「は、はいっ。もう借金完済したんで借金二号じゃないですけど……。それより用があるんですぅ」


 俺に用? 全く見当がつかないな。拒否する必要もないので、借金二号について行き家の裏へと回る。 


「せ、拙者が返済したお金を、青と白の少女の借金にあてて欲しいんですぅ」


「うーん……? どういうことだ?」


「さ、さっき聞きましたけど、彼女に借金があるんですよねぇ? あ、あの後話を聞いたら、給料を借金完済に充てるって話じゃないですかぁ」


「そうだが。それがどうしたんだ?」


「だっ、だから、あの三十万を彼女の借金返済として使って欲しいんですぅ」


「ふゆりんの代わりに、ふゆりんの借金を三十万で払うってことか?」


「いっ、いえ、拙者のを完済したついでに、彼女の借金も同時に払うってことですぅ……」


 ……は?


 ちょっと待て意味が急に分からなくなった。


「ちょっと待て……もしかしてお前は、まず三十万で自分の借金を返済した」


「はっ、はい」


「そしてその三十万を、ふゆりんの借金の返済としても適応しろ。と言っている……ってことか?」


「そっ、そういうことですぅ……‼」


 暴論過ぎるというか、どうしてそれが通用すると思った???


 俺がその提案を受け入れるメリットが一切ないんだが。単純に考えれば、手に入るはずの三十万を捨ててるようなものだぞ???


「……理由は?」


「こ、好感度上げですぅ……」


「お前……もう少し本音を包み隠したらどうだ?」


 例えお前の言う通りにしたとしても、感謝はされるだろうがふゆりんがお前に惚れることはないと思うぞ。


「受け入れる理由がない。帰れ」


「ちょ、ちょっと待って下さいぃ……」


「お、おい‼ くっつくなっ‼」


 さっきのもあって、お前にくっつかれると危ない気しかしねぇんだよ‼ 


 貞操は守りたいのでもう少し話を聞いてやるか。


「しゃ、借金ってことは、拙者の言う通りにしてもしなくても、どっ、どっちにしろ貴方の手元に帰って来るでしょうぅ?」


「まあ……それはそうだが」


「そ、それに、転移したばかりの少女に借金を負わせるって倫理観なさ過ぎじゃないですかぁ!?」


「……」


 突かれて痛いところではある。これに対し言い訳はできないな。


「べ、別に拙者の提案を受け入れたとして今の関係が変わる訳じゃないでしょうぅ……? さ、更に言えば、ぶっちゃけ彼女の借金って形だけになってますよねぇ……? 取り立てようとしていませんよねぇ……?」


 コイツ……。


 変に説得力あること言いやがって……。


「――分かった。提案を受け入れてやる」


「よ、良かったぁ……‼」


「その代わり……」


 俺は借金二号の肩を掴み、顔を覗く。


 受け入れるにしても、それを精一杯利用してやろうではないか。


「はっ、はい!?」


「ふゆりんの借金、四十万だから、もう十万ちゃんと渡せよな?」


「……ふぇ……???」



 ◆



 今日は夜風が涼しいな。


 いつもなら寝ている時間だからか、それとも金が手に入ったからか。冷たく、そして新鮮に感じる。


 俺は手に袋を握り締めながら家に戻っていた。袋の中には十万分の硬貨。アイツから巻き上げてきたものだ。


「さて……どういう使い道にしようか」


 やっぱり娯楽に費やすべきか。


 生活水準を全体的に少しでもあげるのもいいな。


 いや……店をこのままにはしておけない――。 


 金のおかげで沢山の選択肢が増えた。おかげでいつもより思考の海に深く潜ってしまったらしい。だから気がつくのが遅れた。


「――うわっ!?」 


 家の角を曲がったすぐそこに、人が立っていたのだ。まるで隠れるように。


「ふゆりん……? なんで外に?」


 目を凝らして見ると、それがふゆりんだということが分かった。


「え、ええぇ……。たまたま通りかかって……」


「そうか。もう夜遅いし早く寝ようぜ」


「そっ、そうですね……」


 一緒に戻る途中。月の光に照らされ、一瞬だけ見てしまったふゆりんの表情。それは悲しそうな表情をしていた……気がした。



 ◆



「お金……またギャンブルで増やさなきゃ……」


「…………」


「そして女性と……うひっ……」


「……そこの人」


「は、はいっ!? な、なんですかぁ……!?」


「君は……転移者……?」


「そっ、そうですがぁ……。な、なにかぁ……?」


「……そう。じゃあ……君にチートを売った人はどこ?」


「……へ? あ、あっちですぅ」


「……そう。それじゃあ……」




「――殲滅する」

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