第16話:少女の怒り

「……アンタたちこんなことやってるのか……」


「……? そうですが」


「なんで……こんなことを……?」


「金を稼ぐ為、ですね!」


「金を稼ぐ為にこんなことしてるのか……?」


 だからそう言ったじゃねぇか。一秒前遡ってこい。


「こんなこととはなんだ。ガンナーはチート販売を生業としているのだぞ」


「チート販売している人で、こんなことしてるなんて聞いたことありませんが……」


「ガンナーは先見の明を持っているんだ。世情に敏感で、取り入れるのが早い」


 やっ、やめてよぉ。


 て、て、照れるだろぉ?


「ガンナーは……、ガンナーは敏感で早いんだ」


 前言撤回します。


 一瞬で照れがなくなったよ。言語って凄いね。少し言葉を弄るだけで意味が変わっちゃんだから。


「そ、そういう感じなんですね……」


 これ絶対勘違いしてるやつやーん。


 完全に下ネタとして受け入れられてるやつやーん。


「……そういえば対価は戴かないと。精一杯盛り上げたので金を渡すか飯を下さい」


「……勝手にやって対価を請求するって……。じゃあ、これでも食べてください」


 渡された料理にありつく俺とルナティ。


 うーん、これはあんまり美味くねぇな。ルナティの手料理の方が何十倍も美味いわ。それに食欲はこれまでのおかげでかなり満たされてるから、もう食べたい訳じゃないんだよな。けど今後の為だ。はちきれる寸前まで食べておこう。


 無我夢中で料理を食べていると、けつあな確定された転移者の方が突如笑いだした。


「……なんで笑ってるんですか?」


 コイツは……嫌な笑い方をしているな。


 人を嘲る笑い方だ。


 俺の質問に対し、彼は笑いを増して言う。


「アンタたち馬鹿だよなwww 道化だろマジでwww」

反論や怒りが湧くよりも前。俺は反射的に手のひらをルナティの前に出した。


「……ッ‼」


「……落ち着け。……まあ自分でも頭が良いとは思ってませんから」


「自覚あるだけマシってか? だとしても滑稽極まりないわwww」


 滑稽、か。


 そういう目で見られているのか俺たちは。


「クソなチートをぼったくりで買わせようとしたり、恥を晒して物乞いしたり。こうならなくてほんと良かったわwww」


 どうやらけつあな確定は、俺たちという存在が面白くて堪らないらしい。完全に下

に見ているのだろう。特に……俺に対しては。


「金髪のお姉さん、こんな奴と一緒に居ない方がいいだろ。コイツのどこがいいんだ?」


 それに対しルナティは声を強め、


「――一字一句伝えてやってもいいが、お前たちには一生理解できまい。そして理解

させてやる価値もない」


 威圧的なオーラを放つ。


「な、なにムキになってんだよ。アンタも馬鹿ってことか」


 ルナティはそれ以上口開かず黙り込んだ。


「お前はどう思ってるんだ?」


 けつあな確定は、仲間が欲しいのか、もう一人の転移者に話を振る。


「僕は……馬鹿とか以前に彼らと関わりたくないんですよ。なにか言えと言われたら、こういうことするの辞めて、真面目に働いた方がいいとしか思いません」


「……これでも真面目に働いているんですが」


「いやいや。その程度の仕事内容を満足にこなしていないのに真面目な訳ないでしょう? もし本当に真面目だとするなら、二ホンなら無職確定ですね」


「……ここは二ホンじゃありませんので」


「はぁ、そうですか。じゃあそれ食べたままでいいのでさっさと出て行ってくれますか?」


「……代金を貰っていませんが」


「嫌です。その料理で充分でしょう。貴方たちの価値はその程度ってことです」


「……そうですか」


 こういう転移者はずっと前から居る。


 現地人を馬鹿にしたり、距離を置いたり、蔑ろに扱ったり。


 総じて言えるのは、彼らは大なり小なり俺たち現地人を見下していることだ。中世程度の文化レベルで、二ホンの食べ物や道具を見せれば簡単に靡いて跪く。人間が人間以外の生物を下に見るように、現地人は格下で転移者は選ばれた存在、そう思って仕方が無いのだろう。


 俺も転移者をはめて見下しているんじゃないかって? 


 それは誤解だ。俺は現地人だろうが転移者だろうが見下さない。対等のままはめているだけだからな。人をはめることと見下すことはイコールじゃない。


 コイツらを相手にするだけ労力の無駄か。彼らのような人間は言葉だけじゃ改心しない。なにか大きな出来事に巻き込まれない限りは。


「ルナティ……行くぞ」


「……」


 俺は動こうとしないルナティの腕を掴んで、この家を後にしようとする。


 さあ、次の家に向かおう。気持ちを切り替える――。


「行かせちゃうのか? 見てて面白かったんだけど」


「あんなの目に毒でしょうが。視界に入れたくない」


「おーw 辛辣だなwww」


「その程度しかない価値の人間……いや、もっと低いかもしれませんね」


「生きる価値なしっ‼ てことかwww」


 背中から奴らの声がする。わざと俺たちに聞こえるように言っているのだろう。


 早足で家を出ようとした、その時だった。


「――さっきから聞いていればなんだ」


 引いていた腕が重くなる。


 いや、動かなくなった。


「ル、ルナティ……?」


 恐る恐る様子を伺うと、ルナティが俯き鞘に手を置いているのが分かった。


「私を罵倒するのはいい。だがガンナーを悪く言うのだけは許さない」


 俺の手を振りほどき、振り返るルナティ。すると全身に悪寒が迸った。生きているからこそ感じる、死の悪寒が。


「ましてや人を否定するなどあってはならない。お前たちは……同じ人間を否定でき

る程、偉い存在なのか?」


 剣を抜き、垂直に振りかざす。


 止めようにも体が恐怖で動いてくれない。それは転移者たちも同じようで、膝をついて絶望していた。


「ならば言ってやろう。お前たち如きに、この世界を生きる資格などない」


 まずいっ‼


 このままではいけないっ‼


 動け……動け……動けっ……‼


 俺の体動けっ……‼‼‼


「――無慈悲な裁きを」


「ルナ……ティっ‼」


 振り下ろされる剣の一閃。


 永劫とも感じる時間の中、俺はどうにかルナティに飛びついた。


「――ッ‼」


 俺が飛びついたことにより剣の軸が転移者からずれる。剣の一閃により、転移者の家は綺麗に真っ二つとなった。

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