第15話:確定

「ごめんくださーいっ‼ 一年に一度の『起源祭』に、さいっこうの演出は要りませんかっ!?」


「……誰ですか?」


 扉越しに若い男の声がしてきた。


「チート販売業者です。起源祭をより盛り上げるべく、チートを使って助力しようとやって参りました!」


 少しして扉が開く。出てきたのは声の通り若い男だったのだが……。


「貴方たちは……」


「……あれ? どっかで見たことが」


 この人、既視感あるんだよな……。


 しかもつい最近見たような……。


「――あっ!? 昨日、エクス狩場―で話しかけてきた転移者か‼」


 間違いないっ!


 ルナティに強さの秘訣を聞いてきた、二人組の転移者の片方だ‼ 他の転移者に俺たちが悪徳……ちょっと普通じゃない事実を伝えやがった奴だっ‼


「……もしかして文句を言いに来たんですか? 僕は事実を伝えただけですから。なにも悪くないです」


「なんだと!?」


 テメェらが他の転移者に伝えなかったら、今頃俺たち金儲けしてウハウハだったんだぞ!? 他人の人生踏みにじりやがって……。


 いや……冷静になれ、ガンナー。怒っても事実は変わらない。ここで突っかかるよ

り、媚びて金と食事をせびる方が賢明だろう。環境や過去に怒っても未来は変わらないのだから。俺は感情に身を任せて自滅する奴らとは違うんだ。


「……チッ。……いえいえ‼ 我々が悪いんです‼ 貴方方の行動に恨みを抱くなんてあり得ませんよ‼」


「今、舌打ちが聞こえましたが」


「幻聴ですね♡」


 コイツへの怒りは、金をむしり取ることで解消させてもらうとしよう。


「という訳で中へ上がらせて下さい」


「どういう訳ですか。貴方たちを上がらせたいなんて、一切思えない」


「ちなみに中へ上がらせてくれないとルナティに暴れてもらいます」


「脅しじゃないですか……」


 ふふっ……どっちが上か分かったようだな。


「私が来た」


 ほらルナティも元気そうだしいいじゃないか。精一杯暴れてくれるぞー?


「はぁ……仕方ない。まあいいです。上がって下さい」


 よしきたっ‼


 俺たちはこの転移者の家へと上がる。部屋の中には日用品から、インテリアまで、沢山取り揃えていた。しかも家自体が新しいようで、今日訪問した家の中で一番良い。俺の家を交換して(切実)。


「では早速盛り上げますね‼ ルナティ。ふゆりんを――」


「あっ、ちょっと待て下さい……恋……コホン。友人がもう来るはずなんで」


「友人ですか?」


「はい……。時間通りならもう来てるはずなのに……。遅刻しちゃってさ……」


「どうする? ガンナー」


「うーん、待つしかなさそうだな」


 コイツと違って俺たちは時間が三十分しかない。一秒たりとも無駄な時間を過ごしたくないんだが……。


 ザッ、ザッ……。


 外から足音が近づいてきた。その音は扉の前で止まる。どうやら友人とやらが来たらしい。すぐ辿り着いてくれてよかった。


 転移者が扉を開けると……、


「……成程な。そういうことか」


 そこに居たのは、ルナティに強さの秘訣を聞いてきた、もう片方の転移者だった。パーティーメンバーだけでなく、プライベートでも仲がいいらしい。


 待っていた、家主側の転移者が顔を強張らせ……いや、その中に笑みを含んで言った。


「間に合ってないじゃないですか。嘘つき。今日けつあな確定ですね」


「やだ」


「だめです。きまり」


「痛い。やだ」


「はいしか言っちゃダメ」


「痛いもん」


「罰だから」


「……」


 ……ん? 


 あっ、……んんん??? 


 つまりは……、そういうカンケイってことですか?


「あー……成程―……。仲がいいどころじゃなかったわ」


「なんだ。悪いのかよ」


「いえいえ……多様性があっていいと思いますよ?」


 別にいいんだけど……急に居づらくなったわ。


 ごめんね? カップルの空間邪魔しちゃって。お詫びとして今度野球ボールプレゼントしてあげるから。


「ガンナー……」


「ルナティ―、どうかしたのか?」


「なんでけつあなが確定なのだ?」


「……男はな、肉体言語が大好きなんだよ」


 この話は掘り下げてはいけない。


 転移者二人組の関係に驚いたものの、これでやりたいことがやれるようになった。では盛り上げようじゃないか。


「ルナティ。準備を」


「ああ」


 ルナティが発光するふゆりんを前に出す。


「えっ、それって昨日の人じゃ……。なんで発光――」


 ふゆりんを見て転移者たちが動揺しているようだがお構いなし。俺はふゆりんのツボを押した。



――バンッ‼



「おめでとうございまーすっ‼」


「「……」」


 あれ? 


 なんだかノリが悪い。さっきの転移者なんか、ノリで生きているような人間だったのに。

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