第14話:人参チート
「ごめんくださーいっ‼ 一年に一度の『起源祭』に、さいっこうの演出は要りませんかっ!?」
もはやいい慣れてしまったこの言葉と共に、俺たちは次の家へと上がる。
「どうぞー……ははっ、すみませんね、こんな家で……」
今回の家主は気が弱そうな一人暮らしの男性、絞りがいがありそうだな。
丁度いいタイミングを見計らって……、
――バンッ‼
とクラッカーを鳴らし、ローションを出してもらって食器を洗ったりする。その対価として金や食事を請求……と、ここまでは今までと同じ。
けど俺たちは(ふゆりんが)新たな力を手にした!
その力を見せる時だっ‼
「いけふゆりんっ‼」
「はっ、はいっ‼」
俺の言葉に背中を押され、手を前に出すふゆりん。すると光の球が周囲に出現し、ふゆりんの手に集まって……、
バタッ。
ふゆりんが倒れた。
「……あれ? ふ、ふゆりん……?」
ピク……ピク……。
「きゅ、急に倒れてどうしたんだ……? 顔色真っ青で……それに痙攣なんかして……」
「……コワイィ……ピクッ(痙攣)」
「な、なんだって……?」
「ニンジンコワイィ……ピクッ(痙攣)」
「どうしよルナティ‼ ふゆりんが壊れちゃったっ‼」
変な声出すし、倒れたまま痙攣するし、完全にホラーなんだけど!? お化け屋敷にいたらリアル過ぎるレベルだって‼
「う、うわぁぁぁぁ‼」
家主の人も怖がってしまったようで、脇目も振らず家を出て行ってしまった。
「ど、ど、ど、どうすればいい!?」
「そうだな……壊れた物は叩けば治ると聞いたことがある」
「そ、そうなのかっ! よしっ……えいっ‼」
ふゆりんの腰に向かって垂直に拳を落とす。結構な強さで殴ってしまったけど大丈夫か? 心配とは裏腹に、ふゆりんの痙攣が止まった。
やったか!?
――ピタ…………ビクッ……。
また痙攣し始めちゃった‼
「駄目だ‼ 痙攣するし「ニンジンイヤ……」相変わらず人参に対する言葉しか出てこない‼」
「この痙攣……マッサージ機になるのでは……?」
「一歩間違えたらサイコパス発言だからな!? 少しは心配してやれ!」
「ふゆりんはこの程度ではやられない。私はそう信じている」
「こんな状況じゃなかったら胸アツ台詞なんだけどな‼」
普通そういうのってバトル漫画で、あるキャラが敵の攻撃受けたりして、他の仲間が信頼して言う台詞だから! 断じて人参を生やそうとした結果意識を失って、痙攣している人に言う台詞じゃないから!
「……ステータスを確認すればいいのではないか? 不調が起きているならHPが減っているはずだ」
「そ、そうだなっ! ステータスオープン‼」
ルナティに言われた通りにステータスを確認するが……。
名前:友成冬凛
HP:15/390
「死にかけじゃん……。魔物の攻撃一発で死んじゃうレベルだぞ……」
マジでどうしてこうなった???
「原因は、手から人参を生やすチートのせい……だよな?」
「ではやはりガンナーがはめたのか」
「違う! 今回は本当に意図してないんだって‼ 自分の快楽より金稼ぎの方が重要だろ!? このタイミングでふゆりんをはめる訳ないって‼」
「確かに……。ガンナーは真にピンチな時だけは人をはめない……」
分かってくれたか。俺にもモラルはあるんだよ(胸を張る)。
「では何故……ん? あれは、なんだ?」
そう言ってルナティが指を指したのはふゆりんの手元。近づいて確認してみると、
「黄金の……人参……?」
金色で発光している人参一本がふゆりんの手元に落ちていたのだ。
恐る恐る拾ってみる。……うん。触り心地は人参だし、匂いも人参だ。ではなんで光っているんだ……?
「……ガンナー。それを貸して欲しい」
「ん? ほいっ」
「ありがとう。……これをこうして……」
ん……?
なにをしようとしているんだ? ルナティ。
黄金の人参をふゆりんの口に持っていて……って、えええぇぇぇえ!?
人参をふゆりんの口の中に入れたんだけど!?
「……意識がないから咀嚼してくれないのか」
しかも両手でふゆりんの口を動かして無理やり咀嚼させてるんですけど!?
「ルナティ……なにをして――」
「飲み込んでくれない……」
今度はふゆりんを掴み上げでシェイクしだした!? 物理的に咀嚼した人参を食道
へ通そうとしている‼
「こんなところか……」
そういうとふゆりんを手放すルナティ。ドサッ、とふゆりんが再び床の上に落ちた。
「……ルナティ。どうか俺に行動理由を教えてくれ……」
「ガンナー。今一度ふゆりんのステータスを確認してみるんだ」
「ステータス……?」
名前:友成冬凛
HP:48/390
「って、HP回復してる!? こんな短期間で!?」
「そうだ。人参に含まれた生命力がふゆりんの元へ帰ったのだ」
「帰った……? 生命力が……? ……っ、まさか!?」
「そのまさかだ」
そういうことだったのかっ‼
「この人参、ふゆりんの生命力を吸収して光っているのかっ‼」「ふゆりんは人参の化身だったのだ」
「――って違うんかいっ‼」
この流れで違うこと有り得る!? 絶対一緒の答えになる流れだったじゃん‼
「そういうことか‼ ガンナー、やはりお前についてきて正解だった……」
「……はぁい」
感動したらしく、俺の両手を掴んでくるルナティ。その満面の笑みが眩しいよ。そこにある人参より眩しいよ。
「……まあいいや。じゃあ残りの人参を食わせるか。そうすれば起きるはずだ」
咄嗟にチートを引っ張り出してきたせいでちゃんと効果を見ていなかった。今度からはちゃんと効果を確認してからにしよう。
黄金の人参を再びふゆりんの口元へ近づける……。
「……は?」
その時だった。
ふゆりん自体が突如発光し始め、打ち上げられた魚のように跳ね始めたのだ!
「何だよぉお、もおおお‼ またかよぉおぉぉおおおおっ‼」
さっきから意味不明過ぎるんだよおおぉぉぉ‼ どうしてこうなるんだよおおぉぉぉっ‼
「はぁ……マジでどうしてこうなった。副作用……とかか? これじゃあ残りを食わせるのはやめた方がいいか……」
発光して細かく痙攣しながら跳ねている少女。この光景を見て残りを食べさせる気にはならない。
「しかし……そうなるとふゆりんがこのままということになる」
「ああ。ふゆりんのチートを利用できないとなると、これ以上稼げない……ってことか……」
より稼ぐつもりで新しくチートを買わせたのに、真逆である最悪の結果となってしまうなんて。素直に受け入れるしかないか……。
「ふむ……」
「……? どうしたんだ、ルナティ」
押さえつけて、ぶにっ、と腹部辺りに指を押し込んだ。
すると……、
「うわっ!? なんか出てきたっ‼」
透明でヌメヌメした液体がふゆりんの手から噴出してきた。
これはローションだな……。
「どうやら適切なツボを押せばチートを発動できるみたいだ。ほら」
そう言いながらルナティがふゆりんの背中を押すと……、
――バンッ‼
今度はクラッカーが鳴った。
どうやら本当にツボを押すとチートが発動するらしい。
「ツボを押すだけでチートが発動するって、どういう原理だ? これ」
試しに俺も真似してみると、ローションが勢いよく垂れた。
……床、ローションまみれになっちゃった……。
「まあ、原理なんてどうでもいいか。ふゆりんには申し訳ないけど、これで訪問販売を継続させてもらおう」
ふゆりんのことは心配だが、死なないようだししっかりと利用させてもらう。お前
が知らぬ間に犠牲になることで俺たちの食事が確保できるんだ。
ルナティに未だ発光し続けているふゆりんを担いでもらい、次の家へと向かう。結構な数の家を回ったので、空はもう暗くなっていた。
おかげでふゆりんがランタン代わりになるという、まさかの活躍を見せつけられながら、俺たちは次の家の扉を叩いた。
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