第9話:キモ美少年

「駄目でした☆」


 時間にして一時間くらい。転移者たちにチートを売ろうとしたけど、誰一人買ってくれなかった。それに加え大体の転移者は、何故か俺たちを罵倒したり暴力を振るってきたりしてきて、精神の消耗も激しい。


 俺たちの作戦は無駄足に終わった。


「私のせいだ……何度試しても努力のおかげだと言ってしまう……」


「ルナティのせいでもあるけど、俺のせいでもあるさ。責任を押しつけっても仕方がねぇ」


「そんなこと言うならわたしもですよ。なんの力にもなれていない……案を出したのはわたしなんだから、キチンとお二人を導かないといけないのに」


 空気は最悪。このままではいけないというのに……やるべきことは分かっているのに……。


「……おい、どこに行くんだ? ふゆりん」


「ちょっと……木陰で休んできます……」


 頭を抱えながらこの場から離れていくふゆりん。後を追いかける気力は湧かないが、魔物がいる訳だし、一人きりにさせるのは危ないか。


「……ルナティ」


「どうした?」


「ふゆりんを見守ってやれ」


「分かった」


 さて、一人になったのは俺。ステマ作戦は失敗したと言っていいだろう。


 正直チートを買わせる為の案はなにも浮かんでいないが、行動を起こす気持ちはある。


 普段は面倒くさがり屋の俺でも、ここで放棄する程落ちぶれていない……と信じたい。


「はぁ……どうするっかなー」


 天に祈れば案は降りてくるか―?


「クソ女神様……案をよこせ……」


「あ、あのー……す、すいませーん」


「案を……案をよっこせー!」


「き、聞こえていないん、ですか……?」


「俺の人生……完っ!」


「き、聞いて下さいっ!」


 さっきから雑音がうるせぇーなー! 


 ……おっと。なんか見知らぬ人が隣にいる。黒髪で見た目は美少年って感じのイケメンだ。鎧や武器を装備していないし、オドオドしている。ということは転移者ではなさそうだ。


「誰だお前」


「え? あっ、えーっとー……こ、『コンドウ=マコト』って、言います……」


 コンドウ=マコト? 転移者っぽい名前だな。


「て、転移者です……」


 俺の疑問に気がついたのか、質問する前に言われた。


「はぁ……それで、なんの用? チート買うのか?」 


「え、えーっと……そ、それは……」


「……え? なんでお前にやけてんの……?」


 言葉を詰まらせながら、にやけ始めたんだけど。


 え、なんかすっごいキモイ。


 見た目は美少年なのに……喋り方といい、表情といい、関わってはいけないと本能が訴えてくる。関わるのはやめよう。


「……それでは」


「あっ! ちょ、ちょっと待って下さい」


「なに……要件あるならさっさと喋れよ」


「え、あっ……はいっ。さ、さっきの女性たち……知り合いです、よね……?」


「さっきの女性!?」


 誰のことだ? うーん……俺なのだとしたら当てはまるの二人しかいないけど……。


「ルナティとふゆりんのことか?」


「な、名前はっ、分からないですけど……金髪のカッコいい女性と……青と白の、臓物ついてた女性ですぅ……」


「ということはルナティとふゆりんだな。それがどうしたんだ?」


「あの人たちとは……つ、つ、つ、付き合っているんですかっ!?」


 顔を近づけるな、すんごいキモいぞお前。


 キモ美少年をなんとか引き剥がす。やっぱりコイツと関わっていはいけない。早く逃げよう。


「付き合ってない……それじゃあさよなら」


「ああ! ちょっと待ってよぉ! ど、どうやったら可愛い子を侍らせられるんですか!?」


 侍らせる? 


 言い方もう少しなんとかならないのか。失礼だろうが全く。


 しかし……俺についてきてくれる理由か……。


「魅力だな」


「み、み、み、魅力ですか!?」


「なんでお前は逐一噛むんだよ。そうだよ魅力だ。だからじゃあな」


 こんなキモイ奴と話してられるか。時間の無駄だ時間の。


 それよりも、チートをどうやって売るかの方が大切だ。


 チート、チート、チート……ん?


 ちょっと待てよ俺。魅力、魅力か……。もしかしたら……利用できるかもしれない。コイツはなんかキモいけど、俺たちの救世主になってくれるかもしれない。


「おいお前」


「はっ、はい! な、なんでしょうか!?」


「どうして俺にそんな話を聞いてきたんだ?」


 質問を受けキモ美少年は、指で赤くなった頬をカキカキし始めた。


「せ、拙者」


「拙者!? ……痛いな」


「拙者を馬鹿にしないで下さいっ!」


「ああもう分かったよ。黙ってるからさっさと話せ」


「せ、拙者は……童貞です。じょ、女性とお付き合いした経験もなく、て、転移した今も女性とは縁がないんです……。だ、だからっ! ど、ど、どうしたらそんなに女性にモテるのか気になって……拙者、女性とイチャイチャするのが……夢なんです……」


「……うわぁ……ガチすぎる……」


 転移者の中にはこういうガチタイプもいるから驚きはしないんだが……見た目と反比例して中身が最悪だ。そのうち犯罪犯すぞコイツ。ルナティとふゆりんには、絶対近づかせてはいけないな。


 俺は本能を我慢して、キモ美少年の両肩を掴む。


「お前にいいこと教えてやる」


「は、はいっ顔近っ……、な、なんですか?」


「確かに魅力は大事だ。だけど魅力は磨ける。その助力も俺ならできる」


「ほ、本当ですか!?」


「そうだ! だからチートを買うんだ‼」


「は、……はい?」


 ポカンとするキモ美少年。脈絡がないから戸惑っているのだろう。


「チートはカッコいいんだ。だからモテる」


「は、はぁ……で、でも、拙者モテていないですよ……?」


「それはお前が買ってきたチートがクソなものばかりだからだよ! 俺のチートを買えばぜぇぇぇぇったい、モテる‼」


「で、でもっ詐欺だって他の転移者が言いふらしていた……」


 クソがッ‼


 そういうことか! どうりでみんな馬鹿にするような目でみたり、詐欺だ詐欺って言ってきた訳だ‼


「いいかよく聞け! 俺はさっき詐欺をやめたんだ‼」


 そもそも俺は詐欺だって認めてないけどな‼


「え、えぇ……ど、どう信用しろと……?」


「だから! 今からお前にとっておきのチートを買わせてやる!」


「と、とっておき……」


「それが……この爆発チートだ‼」


 俺は裏メニュー表をコイツに渡す。


 裏メニュー表というのは、普段表に出さないチートたちがラインナップされている、特別なメニュー表のことだ。


「爆発チート……攻撃力……5万!? す、数値おかしいおかしくないですか!?」


「おかしくない、適正だ。値段も適正で三十万ゴールドするけどな」


 攻撃力は文字通り攻撃を示す値だ。もし攻撃力300の攻撃をそのまま受ければ、純粋にHPが300減ることになる。俺のような一般的な男性のHPは大体1500前後くらいだ。つまり……一般男性三十三体分を始末できる威力を持っているということだ。


「こんだけ強いチートがあれば大体の魔物は倒せる! そうすればモテモテ間違いなしだ‼」


「ふぁ、ふぁ……す、すごい……で、でも値段が……」


「このチャンスを逃してどうするんだ!? お前は一生キモイままでいいのか!?」


「キ、キモくないですけど」


「お前は一生童貞のままでいいのか!?」


「ど、童貞は嫌だ……童貞は嫌だ‼」


「そうだろう!? お前がチートを買えばみんな幸せで終わる‼ 分かったか!?」


「は、はいぃ……チート、買わせてくださいぃ……」


「言ったなお前」


 言質取ったからな。


 俺はすぐさま契約書を出し、キモ美少年の腕を掴んだ。


「な、な、なにするんですかぁ!?」


 そして無理やり契約書にサインさせる。


 契約書は購入者と販売者、両人の承認が必要だが、コイツは買うって言ったのでその問題はクリアされている。そうなれば、後はサインするだけで取引完了だ。


「よしっ! ……これでこの爆発チートはお前のものだ」


「は、はいぃ……。さ、三十万……三十万……」 


 終わったことだ、うじうじ言うんじゃない。お前も一応男だろうが。あんまりうじうじされるとキモさも相まって殴りたくなっちゃうぞ♡


 チートを購入してもらった以上、俺はコイツにひたすら金よこせと請求するだけの関係になったが……どうせだし続ぎが気になるな。


「強いチートを購入したんだし、試しに使ってみればいい」


「た、試しですか?」


「そうそう。試運転だな」


 よさそうな魔物はどこのどいつだ? エクス狩場―にいる魔物ならどれでもイチコロのはずだから、一番デカい魔物に行くべきだよな。ということは……アイツか。


「あそこにオークがいる‼ エクス狩場―では最強の魔物だ‼ アイツを倒せばみんなお前にメロメロだぞ!?」


「メッ、メロ、メロ……! わ、分かりました‼ 行ってきます‼」


 即座に駆け出して行った。


 チョロいな。ふゆりんといい勝負をする。


「拙者は……ハーレムを築き上げるんだぁー‼」


 キモ美少年はオークに向かって突進する。そしてチートを発動したことで光の球が全身に集まり……、



 ――ドガァーーーン‼


 大きな音を立てて、キモ美少年が爆発した。

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