第8話:冒険者二人組
「どうしてそんなに強いんですか!?」
どうやら転移者のようで、ルナティの一撃を見て憧れたのだろう。
「私の強さか」
「そうですっ! 僕もお姉さんみたいに強くなりたいんですっ!」
「お、俺も、強くなりたいっす!」
いい展開だ!
そこで俺の店で買ったチートだと言うんだ、ルナティ‼
「努力だ」
ズコー。
なんでだよ!?
打ち合わせ聞いてたの!? 聞いてないよね!?
「チートだって言うんだよ! ルナティ‼」
「むっ……、努力という名のチートだ」
「違う、そうじゃないぃぃぃ‼」
ああああああぁぁぁぁぁぁ。
せっかくのチャンスがああああぁぁぁぁぁぁぁ。
「……ルナティに言わせた時点で駄目でしたね」
「ほんとだよ! 俺たちの頑張りが無駄じゃん!」
「俺たちじゃなくて、わたしでしょ!?」
痛いっ!?
ふゆりんに頭をぶたれた!
ルナティにもぶたれたことないのに!
「……それで、どうするんですか? このままでは終われないでしょう?」
そうだな。最低でも誰か一人にチートを買ってもらわないと、飯が食べられない。三人仲良く餓死する未来だけは避けなくては。
取りあえず、駄目元で彼らに話を持ち掛けようか。俺はルナティに話しかけた冒険者二人組に近づく。
「カッコいいお兄さんたち、チートいりませんか?」
「チート、ですか? ……なんだろう、この匂いは……」
そう言って鼻をつまみながらこちらを見てくる転移者。普段魔物と戦っているくせに、血の匂いは苦手なのか。貧弱な者たちだな。
「匂いは……彼女が醸し出しております」
「おいっ!? わたしのせいにするんじゃない!」
黙って責任を負ってくれ。事件や問題を犯した時、首を切られるのは一番下って決まっているだろう?
「チートはいりませんか? 今ならお安くしますよ!?」
こういうこともあろうかと、俺はメニュー表を持ってきていた。それを転移者たちに渡し、すぐ契約できるよう契約書も出しておく。
「チートか……俺たちそんなにお金持っていないんだけど」
「将来の為の投資ですよ! ほら、うちのルナティみたいに強くなりたいんですよね!?」
全員の視線がルナティに集まる。
今度こそ気の利いたことを言うんだ‼
「コツは殺意だ」
ズコー。
「なんでだよ!? 一緒に餓死したいのか!? そうなのか、そうなんだよな!?」
「私はガンナーと一緒なら構わない。来世も共にあろう」
「なんで死んだ後想定なの!? 一緒に現世で生きようよ!?」
「貴方たち……本当に仲良しですね」
仲良しでも心中は嫌だぁ……。
死にたくないよー……俺はまだ死にたくない……。餓死なんて悲しい未来にぶち当たりなくないよ……。
「それでどうですかチート! お兄さんたちカッコいいですから似合いますよ!」
「切り替えはやっ。鬱一歩手前くらい落ち込んだ顔してたのに、もうポーカーフェイスの笑顔に切り替えてるっ」
死にたくないからこそ、生きる為にやるべきことをやるんだよっ。
俺は必死の営業スマイルとオーラで無言の催促をする。
「……質問していいですか?」
「はい、どうぞ」
転移者たちは、笑いながら言ってきた。
「これ、不良品チートしか売ってないですよねwww 身体能力向上する代わりに一週間動けなくなったりとか、土を湿った土に変えるとか、ちゃんとしたチートが一つもないwww」
チッ……。
まともな転移者か……黙って俺の肥やしになればいいものを……。
「しかも値段ヤバ過ぎでしょwww クソチートなのに値段高すぎて人間性疑いますwww」
「おい見ろよこの契約書www。どうみても詐欺www」
グサッ。
さ、詐欺じゃないもんっ。
普通じゃないだけだもんっ。
「言われてますよガンナー」
「う、うるさいっ! 言われて辛くなんか……ないんだからねっ!」
「本当ですかー? 体がピクピク震えていますよー? まるで生まれたての小鹿みたいにー!」
コイツめ……めっちゃ煽ってくるじゃねぇか……。今までで一番、人をなめた表情してやがる……。
言い返せないのが辛いっ、これが公開処刑ってやつか……。
「こんなチートwww 買う人いないでしょwww」
「ほんとになwww 契約書にサインする奴なんていたら頭おかしいワロタマウテンwww」
「……グサッ」
……おっと、近くから心が抉れたような可愛らしい声が聞こえたぞ?
こんな契約書に黙される奴……ねぇ。
いないよね?
ねー、ふゆりんさん。
「そ、そうですよねー……こ、こ、こ、こんなチート買う人いないですよね!」
「マジでそうさwww クソチートインザビルディングwww」
「ハハハハハ……ハハ……ハァ……」
随分とぎこちない反応するじゃねぇか、俺はふゆりんの傍に近寄り裏声で言う。
「あれー? どうしたんですかふゆりんさん。全身が爆発寸前のマジカルスライムみたいにぷるるんって震えていますよー?」
「そ、そ、そ、そんなことぉ、ないですよー! ガンナーはいつも面白い冗談を言うんだからー!」
うんうん、誰が冗談だって?
俺は笑顔でふゆりんの頬をつねる。
「面白いのはお前のリアクションだけどな!」
するとふゆりんも笑顔を造って俺の頬をつねり返してきた。
「うるさいですねぇ……。元はといえば、ガンナーが不良品チート売っていたのが悪いんじゃないんですか?」
「なんだと……?」
「「ぐぬぬぬぬ……」」
全力で頬を引っ張る。ふゆりんの分際でデカい口利いてんじゃねぇぞ‼
「あのー……この人たちはなにをやっているんですか?」
「気にするな、いつものことだ」
「は、はぁ……もう行きましょうか。」
「おう。これ以上話すことないしな……そういえば知っているか? 最近チート販売業者が狙われてるって……」
去って行く転移者たちの姿がかすかに視界に入るがそんなの無視だ。ここで一回、どっちが上なのか、改めて教えなければいけない。
……いや。一旦冷静になろう。このまま争ってどうするガンナー。ここは大人になるんだ。
「……一回喧嘩は保留にしないか?」
「……仕方ないですね……いいでしょう。目的を見失う馬鹿に成り下がる気はありませんから」
俺とふゆりんはそれぞれつねりを解除して離れる。
「ん? じゃれあいは終わったのか?」
「終わったというか保留だな。今やるべきことはステマをし、どうにかしてチートを売ることだ。喧嘩している暇はない」
「そうか……しかし拳は全てを解決するという名言があってだな?」
「そんなことしたら強い人が勝つ、世紀末の世界になってしまいますよ。わたしは理性的な世界に住みたいです」
「そう、なのか……」
「あまり落ち込むなよルナティ。まだ目的は達成されていないんだから」
どんだけ落ち込もうが後悔しようが、それだけで飯は食えない。生活できない。生きていけない。俺たちは、生きる為にチートを売るんだ、今……ここでっ‼
「よしっ、気持ちを切り替えるんだ。チートを買わせるには、三位一体。俺たちが力を合わせる必要がある」
「はい」「ああ」
「俺たちならできる。全身全霊で、食事を掴み取るんだ‼」
「「「オー‼」」」
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