第7話:内臓祭り


「…………は……?」


 ナイフがマジカルスライムを切りつけた瞬間、マジカルスライムが自爆し、臓物が飛び散ったのだ。ふゆりんはドロドロとした内臓を全身に浴びていた。


「ハハハハハッ‼ 予想通りwww」


 見事にはめられてやんの‼


 人を騙すのって楽しいなぁ‼


「……どういうことですか……? ガンナー」


「……へ? マジカルスライムは中途半端な攻撃を受けると自爆して臓物をまきちらすんだよ。自分がやられるくらいなら自爆してやるって。ふゆりん乙っ!」


「……つまり、自爆すると知っていて襲わせたと……? また私をはめたんですね!?」


 怒りでプルプルと震える度に、体についた臓物が落ちているぞふゆりん。


 あ、あと臭いからあんまり近寄らないでね?


「もはやお家芸。滑稽だなぁ。ねールナティ」


「お家芸……憧れるな……」


「お前だって戦闘狂のお家芸があるだろうが……」


 聞く人を間違えました。


 俺の気持ちを理解できる人、急募。


「ちなみにマジカルスライムって名前は略称だから。本名は『うふふマジカルっ! 内臓爆発飛び散りスプラッシュマウンテンスライム』だから」


「名づけ親誰だよ!? わたしをこんな目に合わせやがって‼」


「そんな目に合わせたのは俺だけどな。……あー、あとマジカルスライムの臓物には特別な匂いが含まれていて、敵だと思ってどんどん襲って来るから! ガンバ‼」


「な、なにを言って――」


 ドドドドドドドドド……。


 音と共に奥から大きな影が近づいてくる。


「あっ、あれは……」


 影の正体。それは大量のマジカルスライムたちだった。


 彼らはふゆりんに向かって真っすぐ直進してくる。


「ま、待って――」


 スライムに言語は通じないので、ふゆりんの声は届かない。つまり彼らは止まらない。


「キャアアアァァァ‼」


 逃げ出すふゆりん。しかしマジカルスライムたちも後を追いかける。


 ここに人間対スライムの追いかけっこが始まった。


「頑張って逃げろよー‼」


「ふざけ……んなよっ‼」


 口が悪いでございます。無駄なことを言って体力を減らす前に、逃げた方がいいと思います。


 それにしても……なんと壮観な光景だろうか。


 一人の少女を追いかける、大量のマジカルスライムたち。


 片方は死ぬ気で逃げており、もう片方は敵討ちと対象を殺そうとしている。追いつかれれば、死、だ。


 見てる分には最高に楽しい。


「ひぃひぃ……やばい……キツイ……」


「ほらほら! もっと早く走らないと追いつかれるぞ!?」


「コツは殺意だ」


「……ルナティ、お前の脳みそはBOTなのか?」


 お兄さん、相棒として少し心配です。


 お仕置きとして、両脇腹を十秒間つねってやろう。

 

――ベチョ。


 ……ん?


 あれ……?


 視界が急に真っ暗になった。


 それと……顔に生暖かいなにかがついていて……生々しい血生臭い匂いがする……。


 まって、これって……。


 頭を縦に勢いよく振り、視界を晴らす。俺の前に落ちていたのはマジカルスライムの臓物だった。


「ふゆりんっ!? なにをしやがった‼」


「なにって、見ての通り臓物を投げたんですよ‼」


 なんてことをするんだ! 


 この人でなし‼


 それに……臓物が付着したってことは、匂いもついてしまうって訳だから……。


 ドドドドドドドドド……。


「俺の方も来ますよねー‼」


 知ってました―――!


 マジカルスライムに追いつかれないよう、急ぎ走って逃げる。


「お隣失礼します」


「ちょっと! こっちに来ないで下さいよ‼」


「ニホン人は規則正しく団体で行動するのが得意って聞いているけどなぁ‼」


 俺はふゆりんの隣に移動し、一緒にマジカルスライムの軍から逃走する。振り向くと、不気味な色合いのゼリーモンスターが、勢いよく跳ねながら近づいて来ていた。


 走れっ。


 俺の体、走れっ‼


 追いつかれたら……死ぬっ‼


 臓物の塊に蹂躙されるっ‼


「クソがっ……ふざけんなテメェ‼ なんで俺を巻き込みやがった‼」


「わたしだけ不憫な目にあってたまるかぁ‼」


「不憫キャラはふゆりんだけでいいんだよぉぉぉぉ‼」


 人には得意分野っていうものがあるだろう!?


 俺は人をはめるのが得意なんだよ! 


 こんな損な役回りやってたまるかぁ‼


「なんでわたしをはめるの!? 作戦はどこにいったの!?」


「お前が襲われているところをルナティに一網打尽にしてもらって、そこでステマしてもらうつもりだったんだよぉ‼」


「わたしが襲われるステップいらないでしょ! ねぇ! いらないでしょ!?」


「いるかならないのか、決めるのは俺だぁ!」


 あ、足が……限界……。


 普段外に出ない、面倒くさがり屋検定八段の俺では、コイツらから逃げきるだけの体力は……ないっ。


 もう駄目だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼‼‼


「助けてルナティィィィィィ‼」


「――ああ、任せろ」


 ルナティが剣を抜いた。


 それから一秒も経たず、後ろから聞こえていたぽよんぽよん、という音が消える。

振り返ると追いかけてきた約三十匹のマジカルスライムが、一匹残らず殺されていた。


 ルナティの強力な一撃なら、マジカルスライムが自爆する前に倒せる。軽傷(臓物を食らった)で済んだ。


「ぜぇぜぇ……助かった」


「はぁはぁ……あとで……覚えておいてください」


 もう記憶にございません。


 ですので闇討ちはおやめください。


「……ん。誰かが近づいて来ているぞ?」


 こんなタイミングに一体誰だ?


 ルナティが向いている方から、武装した見知らぬ男二人組がやって来た。

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