第6話:マジカルスライム


「閑話休題。本題に入るぞ。作戦を教えてくれ、ふゆりん」


 伝えておいた方がいいことは全部伝えた。そうなればここに来た目的に取り掛かろう。俺たちには時間があまり残されていないのだ。


「はい。まあでもやることは簡単です。ルナティが……一応わたしも活躍して、ガンナーの店で買ったチートのおかげだって言うんです。いわゆるステマみたいなことをするんです。そうすれば評判があがるでしょう?」


 なん……だと……? 


 本気で言っているのか……?


「ふゆりん……お前」


「な、なんですか……?」


 お前って奴は……。


「天才かよ‼」


「…………は?」


「見直したぞ‼ てっきり、俺はチョロくて情緒がおかしい穀潰しだと思っていたけど、勘違いだったんだな‼」


 感激のあまりにふゆりんの両肩を掴んで左右に揺らす。


 使い道のないお荷物じゃなくて、救世主だったとは……。


 俺は信じてたよ……お前が凄い奴だって……。


「わたしそんな評価されていたの……?」


「私はふゆりんのこと、なんとも思っていなかったぞ」


「それわざわざ言う必要ありました? わたしにとってプラスにもマイナスにもなっていないんですが……」


 評判さえあげれば、俺たちも億万長者……貧乏生活とはおさらばできる。まさにビ

クトリーロード‼


「そうと決めたらやるぞ‼ 働いてこいお前らぁ‼」


「ああ分かった」「はぁ……自分で言い出したことなんでやりますよ」


 意思を固めた俺たちは、草原の奥へと進んでいく。


 エクス狩場―は大きい。草原だけでなく、森や湖など、複数の場所を纏めてエクス狩場―と言っているからだ。


 草原部分は駆け出し向けの雑魚い魔物、例えばスライムくらいしか生息していない。だから転移者の数も少ないが、森の方へ行けば沢山の魔物と転移者がいる。


「うわー凄い人の数……みんな戦ってる……」


 ゴブリン、コボルトに、オーク。森の中にある開けた場所には多種多様の魔物が生息していた。そんな彼らに、武装をした転移者たちが襲い掛かっている。


「素材や経験値が美味しいと有名な狩場だからな。この場にいる人間のほとんどが転移者なはず」


「もしかしたらふゆりんの知り合いがいるかもしれない」


「せっかくファンタジー世界に来たのに、前世の知り合いと会いたいとは思わないですけどね」


 そういうものなのか。


 俺だったら、知己にあったら嬉しいけどな。


 ……まあ友達ほぼいないけど……。


 そっ、そんなことはいいんだっ!


 悲しい事実よりも、輝かしい未来の為、俺たちはステマ大作戦を実行する。

その為には……。


「よし、じゃあふゆりん、魔物を倒してこい」


「えぇっ!? いきなりですか!? ルナティが先の方がいいですって! わたし魔物と戦ったことないんですよ?」


「私はどっちでも別に構わないが」


 余計なことを言うんじゃないぞルナティ。脇腹をつねってやる。


 こういうのは年功逆序列っていうじゃないか。


「大丈夫だって。狩場言うてもここら辺の魔物はそんなに強くないから」


「そ、そうなんですか……明らかにデカい魔物とかいますけど……」


「そりゃオークは二メートル超えてるけど、別の魔物に挑めばいいだけの話だろ? 頭悪いんか?」


「……ガンナーは人をイラつかせないと気が済まないんですか……?」


 そんなことはありませんよ?


 あっ、膝蹴らないでお姉さん。


 痛いっ‼ 思ったより痛いっ‼


「自分で提案していてあれですけど、いざやれって言われると緊張してきた……」


「……平気な顔して話進めやがって」


 蹴られた膝をさすりながら、ふゆりんに非難の目を送る。しかしふゆりんは俺の方を見ない。視線に気がついているだろうに。こんちくしょうめ‼


 文句を連ねても意味がなさそうなので、魔物の方を注視する。強過ぎず弱過ぎない魔物を見極める為だ。


「いい魔物は……っと……おっ」


 目に留まったのはある一匹のスライム。普通のスライムは青く半透明な色をしているが、そのスライムは赤、青、黄など、色んな色が混ざった見た目をしている。不気味とした印象を受ける、気持ち悪い色合いだ。


 面白そうなのいんじゃねぇか……。


 そうだ……いいこと思いついちゃった。


「……あれとかよさそうだな『マジカルスライム』」


「なんですかその魔物。普通のスライムとなにが違うんですか?」


「色が違うだけ。ほら、あれ見ろって」


 疑問符を浮かべるふゆりんの為、俺はそのスライムを指刺した。


「なんか……色んな色が混ざっていますね。沢山の絵の具をぶちまけて混ぜている途中みたいな」


「普通のスライムよりは強いけど、魔物の中では弱い方だから丁度いい」


「わ、分かりましたっ……わたしの初陣……」


 ふゆりんはナイフを手にマジカルスライムへ進んでいく。俺はその場にとどまって、ルナティに耳打ちする。


(ルナティ、手を出すなよ?)


(なんだと……? 歩くときに手を動かせないのか……)


(実際の手じゃなくて、干渉するなってことだよ! 文豪レベルの解釈するなっ)


 どう文脈を捉えたらその解釈になるんだ……? 一周回ってちょっと憧れるよ!?


 視線を戻すと、ふゆりんがマジカルスライムの前に立っていた。足がプルプル震えているな。


「頑張れー! ふーゆりーん! 殺せー‼」


「頑張るんだぞふゆりん。コツは殺意だ」


「ここは闘技場かなんかですか!? 過剰な声援しかないんですけど!?」


 何事にも勢いは大事だ。


 ふゆりんは全身に力を入れ、ナイフを振りかぶる。


「わたしだって……やればできるんだっ! えいっ‼」


 そして、ナイフを振り下ろした。



――ベチョ。


 結果、ふゆりんに向かって臓物が飛び散った。

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