第3話 目覚まし時計の子守歌?

 ここは、空の上。

 運命の赤い糸製造工場。

 今日は、面接。


 僕は、工場の調査部門責任者。

 人間なのに、

 生きているのに、

 天界の、

 この工場で働いています。

 とても可愛いけど、ちょっとドジな天使の妻と小さな翼の子供たち。

 僕は、今日も張り切るお父さんです。

 今日は、工場に面接希望者が訪ねて来ました。

 

時乃ときの鈴鳴すずなり君?変わった名前だね?」


 工場で働きたいと面接に来た男の子は、まだ小さな子供に見えました。


「僕は、目覚まし時計です。なのに気がつくと魂を持っていました」


 付喪神というやつだろうか?


「君は、作られて何年?」


「3年ほどだと、思います」


 付喪神でもないようだ。


「天に来る前は、どんな生活だったのかな?」


 元、目覚まし時計の鈴鳴くんのお話は、悲恋の物語だった。


 鈴鳴くんの持ち主は、若い女性。

 社会人3年目のハリキリガール。


 でも、少しお寝坊さん。

 学生時代。

 朝の苦手な彼女の失敗は、ほとんどが遅刻と寝ぼけ眼のため。

 ハリキリガールの彼女。

 社会人になってから、そんな失敗はしないと決意。目覚まし時計を買いました。

 それが、鈴鳴くん。


 ハリキリガールは、可愛い彼女。

 寝癖の髪すら、愛しく思う。

 持ち主に、恋する目覚まし時計。

 彼女オンリー、

 カクヨムオンリー?

 の、鈴鳴くん。

 どうやら、彼女を愛し過ぎ、間違って心が生まれてしまった様です。


 鈴鳴くんは、お仕事を一生懸命頑張ります。


 月曜、火曜、水曜は、力いっぱいベルを鳴らす

鈴鳴くん。

 でも、木曜日の彼女は、お疲れ気味。

 金曜日の彼女は、起き上がる事すら、大変そう。

 

 大好きな、

 大好きな持ち主の彼女。


 少しでも、心地よい朝を届けるため、鈴鳴くんは、歌の練習を始めました。


 元々、彼の声は、鈴を転がす様な美声。

 頑張れば、カラオケ採点満点も夢じゃない。

 目指せ!

 四天王にトップセブン。

 巨匠の柱時計先生、よろしくお願いします?

 何点だ?

 何点だ?

 100店満点。

 鈴鳴くんには、射程内。


 しかし…。


 目覚まし時計の彼の声は、いつまで経っても、


『ジリジリリ』


 なかなか、歌をうたえません。


 それから、半年。

 歌唱力養成ギブスに、柱時計先生の猛特訓。

 血のにじむ努力の末、彼のカラオケ採点は、満点に。


 持ち主の彼女の木曜の朝が、ツラい顔になった時、翌日の朝の金曜日。


 持ち主の愛する彼女の朝に、慰めと、安らぎを。

 鈴鳴くんの精いっぱいの愛を込めて、歌をうたいました。


 歌ったのは、子守歌。

 

 ん?

 

 彼女は、その日遅刻しました。


 

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