第51話 さぁ、俺の出番だ!


「バタン、」


アリアの部屋を出た俺たちは、そのまま廊下に出るとアメリアは重い口を開く。


「あの、非常に申し上げにくいことなのですが...」


俺としては、その言葉を聞いた時点でアメリアが何を言おうとしているのか想像することができた。

もし俺がアメリアと同じ状況ならば、救世主一行に向かってこう言うだろう。


「私は、こんな気持ちのままお二人の旅に参加することは出来ません」

「...」


アメリアがその言葉をつぶやいたとき、俺だけでなく、アランでさえも驚くことをせず、ただ黙ってアメリアの言葉を聞くだけだった。

おそらくアランもアメリアがそんなことを言ってくると想像できていたのだろう。


「私が言っていることは天命に背く行為であることは重々承知です。しかし、こんな私のままお二人の旅に同行しても、二人にご迷惑をかけてしまうだけです。ですから、私のことは気にせず、旅を続けてください」


この言葉を聞いたとき、正直言って俺はうれしかった。


何も言っているんだと思うかもしれないが、考えてみてほしい。

自分の妹のことが心配だから俺たちの魔王討伐の旅に行くことができないというのだ。

そして、天命第一のこの世界ではとても珍しいことなのは言うまでもない。


天命よりも妹のことを優先したアメリアのその行動は、俺にこの世界にもこんな人がいてくれるんだという安心感を与えてくれた。


「なるほど、魔王討伐ではなく、あくまで妹のことを優先したいと...」

「・・・」

「ちょっと、ケイン!!」


俺は確認のためにアメリアに嫌味っぽくはなってしまったが、そう聞いてみる。


「...はい」


するとアメリアは、一瞬戸惑いはしたものの、思いが強かったからなのか迷うことなくそう答える。


「ケインはアメリアに何てこと聞いてるんだよ!!アメリアは気にしなくていいよ、僕たちはそのまま二人で冒険を続けるから」


アランは俺にそう言いながら、アメリアにそうフォローを入れ始める。

しかし、俺はそのあと、


「ありがとう」

「えっ?」


アメリアに向かってそうお礼を言った。


「ど、どういうことですか?」


そんな俺の行動にアメリアは戸惑いの様子を見せ、そんなことを言ってくる。


「ありがとう、そう言ってくれて。俺はとてもうれしいよ。天命だからという理由ではなく、自分がしたいと思ってとったその行動。俺はとても好きだ」


そんな俺の言動にアメリアどころかアランまで戸惑いの表情を見せ始める。

俺はそんな二人の姿を見て、


「あとは俺に任せとけ」


そう言って、アメリアの肩に手を乗せると、そのまま何も言わずアリアの部屋へと戻っていく。


「メイドさん、少しお隣よろしいですか?」

「えっ、」


俺はアメリアの代わりにアリアの手を握っているメイドさんの隣に立ってしゃがみ込むと、


「すいませんアリアさん、ちょっと失礼しますよ~」


俺はベッドに横になっているアリアの上に手を乗せて深く深呼吸をし、


「“サーチ”!」


俺は自分の魔力をアリアの中に流れ込ませ、アリアの病気の原因を探る。


「ケイン様、いったい何を?」


俺の後にアランとともにアリアの部屋に入ったアメリアは急な俺の行動に戸惑っているものの、


「大丈夫、きっとケインが何とかしてくれるから...」


アランがアメリアの肩に手を乗せ、そうつぶやく。


「さてさて、アリアの病気の原因はっと...」


俺は前のようにアリアの体から病気の原因を探る。

すると、


「なっ、なんじゃこりゃ!?」


俺がアリアの肺のあたりを散策していると、大量の細菌が潜伏していることを発見する。


「原因が分かったのケイン?」

「あぁ病名は分からんが、おそらくこの病気の原因はこれだ。あとはっ、」


そして俺は魔法を切り替え、


「“リムーブ”!」


アリアの中にある病原菌を取り除く。


「オッケー!そして最後に“リリース”してからの~、みんな俺から離れてっ!!」


そして俺はみんなを俺から遠ざけ、ある程度のスペースを確保すると、


「“リリース”からの“フレイム”!」


俺は何もないところでそう叫び、自分の手から病原菌と炎を思いっきり放出し、菌を焼き殺す。


おそらく菌というものが認識されていないこの世界において、俺のやっていることは何もないところに炎を思いっきりぶっ放す、謎の行動でしかないだろう。


この部屋にいる人は全員、何が起こっているのか分からないのか、口をあんぐりさせている。

あまりにも一瞬のことだったのだ、無理はない。


「...」


そして急な俺のおかしな行動に、誰も口を開けることができないでいると、


「お...終わったの?ケイン?」


静まり返った空間に、最初にアランが俺に話しかける。


「まぁな」


そして俺は少しやり切ったかのようにそう答える。


「ケ、ケイン様、いったい何が...?」


しかしアメリアは何が起こったのか分かっておらず、戸惑いの表情を保っている。


当然と言えば当然、なぜなら俺はいろいろ魔法を使っていたにもかかわらず、アリアの容体は変わっているように見えなかったためである。


「まぁ、そう簡単によくなるわけないよな。でもっ、病気のもとはもう取り除いたから、あとはアリアの体調がよくなるのを待つだけだ」


俺はアメリアにそうつぶやくと、ゆっくりアリアの部屋を出る。


「まぁあとで様子を見させてよ。明日の朝にまたここに来るからさ」


最後に俺は帰りざまにそうつぶやき、家の玄関へと向かうと、


「ちょっとケイン、僕を置いて行かないでよ!」


アランも一緒にアメリアの家を出る。


「......」


そして、アリアの部屋には様々な空気が入り混じった、謎の空間が残るだけだった。


















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