第50話 事態急変
庶民の俺たちだとほとんど経験することのない宴会の席を、俺とアランは何とか乗り越え、今俺たちはアメリアを加えた3人で、静かな城の廊下を歩いている。
「もうすっかり外は暗くなってしまいましたね」
アメリアは城の外の景色を見ながらそんなことをつぶやく。
城の外に映る夜景は、日本に住むみんながいつも見ている景色とはちょっとばかし違う景色だった。
イルミネーションといった、人工的な光の美しさというものはないものの、ちょっと上を見上げると、どんなにあたりが暗い場所に行っても見ることができないような、きれいな星々がうつっている。
(昔の日本も、こんな感じできれいだったのかな...)
自分としても、似合わないのは分かっているが、あまりの星の美しさに思わず感慨にふけってしまう。
みんなも同じような気持ちになったのか、しばらく立ち止まって3人できれいな星空を見ていると、
「あれっ、そういえば、アメリアってどこに住んでるんだ?もう結構夜も遅いけど」
ムードを壊すのは悪いと思いつつも、気になってしまった俺は、アメリアにそう尋ねてみる。
「あぁ、そのことなら心配ありません、家は城を降りてすぐそこですから」
「アメリアの家ってすごいんだよ~。ケインが王女様のところに行っている間に行ってきたけど、僕たちの家なんかよりもよっぽど大きい豪邸なんだから!!」
アメリアは俺の質問に答えるように自分の家の場所を言うと、急にアランは高揚しながら俺にそんなことを言ってくる。
「へぇ~、それはぜひ一回見てみたいな」
アランの言葉で少しアメリアの家に興味を持った俺は、明日にでもちょっと覗いてみようかと思っていると、
「タッタッタッタッ」
今まで静かだった城の廊下に、素早い足音が聞こえてくる。
「ん?これは...」
しかも、その足音はだんだん俺たちの方に近づいてくる。
「なんだなんだこんな夜更けに、火事でもあったのか?」
冗談交じりに俺はそんなことを言っていると、その足音の正体はそのまま俺たちの目の前の方へとやってきた。
「メイドさん...か?」
あたりは暗く、月の光だけでとらえたその姿は、今までこの城では見たことのない服装をしたメイドさんだった。
「...えっと」
俺はその見知らぬ姿に戸惑うだけだったが、
「あれっ、あの人って」
アランのその言動からして、どうやら知っている人らしい。
「はぁはぁ...」
そのメイドさんは、俺たちの前で立ち止まると、息を整え、焦った表情で急にこう叫びだした。
「アメリア様、大変です!!アリア様が、アリア様が...」
「なんだ?どうした!?アリアに何かあったのか?」
メイドさんがそうつぶやくと、アメリアまで焦りだし、俺の知らない名前を出し合っている。
「アリア様が今、熱、咳ともに急にひどくなって、今にも死んでしまわれるようなご様子でっ!!」
「縁起の悪いことを言うなっ!今から家に戻る。とりあえずアリアの様子を見てからだっ!!」
アメリアとメイドさんはそんなことを言いながら走り出し、そのまま家へと帰ろうとする。
「お、おいっ、アリアってのは誰なんだ?」
俺としては状況が分からず、焦った様子でアメリアにそう尋ねると、
「アリアってのは、アメリアの妹さんだよ」
アメリアの代わりに俺の隣にいたアランは急にまじめな顔をして俺の質問にゆっくりと答える。
「今回の魔物の一件ですっかり忘れてた。実はケイン、アメリアの妹さんの状況、イルルのお母さんの時と同じ状況かもしれないんだ」
「なに!?」
そのアランの一言から、俺は態度を急変させる。
「詳しくは歩きながら話す、とにかくケインも今からアメリアの家に来てくれない?もし、アリアの状況がイルルのお母さんの時と一緒でそのまま死なせたりなんかしたら、僕は悔やんでも悔やみきれない!!」
アランの態度からおそらく本当のことなのだと認識した俺は、
「分かった話せ。まずは妹さんの様子を見に行かないといけないなっ!」
アランとともにアメリアとメイドさんの後を追って、アメリアの家へと向かうのだった。
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「アリアっ!!」
アメリアの家に到着すると、アメリアは迷うことなく一つの部屋の扉を勢いよく開ける。
そしてアメリアはベッドに横になっているアリアと呼ばれている人の手を強く握りしめ、
「アリア、大丈夫か!?気をしっかり持つんだ!!」
そう叫んで、必死に呼びかける。
アメリアが呼びかけているその人は、ついさっき軽く事情を知っただけの俺から見ても、とても大丈夫だと呼べるような状態ではなかった。
高熱なのか、たくさんの汗を流し呼吸は非常に荒く、間隔をあけて大きな咳も出る。
誰から見ても、アリアの状態は今を必死に生きようとする姿そのものだった。
「その人がアメリアの妹のアリアって人だよ」
「あぁ、見れば分かる」
俺とアランは、必死にアリアの手を握っているアメリアの後ろで二人の様子を見ている。
「くそっ、なんでアリアがこんな状態なのに天命は何も言って下さらないのだ!!」
アメリアは誰に言うともなく、上を向きながらそう叫ぶ。
「おいっ、まさかアリアに何の天命も来ていないって言うのか!?」
今まで冷静にこの状況を判断し、対処しようとしていた俺だったが、アメリアのその言葉に思わず俺までも声を上げてしまう。
あれから俺は天命という言葉に敏感になってしまっているらしい。
「...うん、先月も治療院に行くようにと天命をもらってないらしいんだ」
アメリアは今の状況に戸惑ってしまっているせいか、俺の質問に何の反応もしないので、代わりにアランが俺の質問に答える。
「なるほどな...」
アランの言葉を聞いて、俺は静かな怒りがわいてくる。
誰かにというわけではない。
この怒りは無理な場合は切り捨てるという天命に対して向けているのだ。
そのため、しいて言うなら神様に怒りを向けていると言える。
その上今のこの状況も、イルルのお母さんが亡くなってしまった時と同じく、ただ俺とアランが後ろで見ている状況であったため、余計心に来るものがある。
「お姉ちゃん、だっ、大丈夫だから。私のことは、ごほっごほっ、気にしないで。私、待ってるから。救世主様と、一緒に魔王を倒してくれるの...ごほっ、だっ、だから気にしないで、行ってきてよ」
今まで苦しくて何も言葉を発さなかったアリアだが、苦しいのは変わりないもののアメリアに心配かけまいとして、苦しいながらも必死にアメリアにそう言っている。
アメリアはその様子を見て、何か返事をするというわけでもなく、静かに震えている。
「...二人とも、少しお時間よろしいですか?」
そしてしばらくすると、アメリアは急に後ろを振り向いてきて、俺たちにそう聞いてくる。
「別にいいけど、どうしたんだ?」
急にアメリアが俺たちの方を向いてきたことで驚いた俺は、話の内容を聞こうとそう尋ねると、
「とりあえず部屋の外へ。お二人にとって非常に重要なお話なのです」
アメリアは覚悟を決めたような表情をしながら、俺たちにそう言ってきたのだった。
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