第48話 あっけない終戦
あの時の戦いは、ケインも一緒に戦ったからなのか、そこまで苦戦したという印象はなかった。
いや、というかむしろ楽勝だった印象さえある。
そして今回、アメリアたちは1万という軍勢だと言っていたが、実際にその軍勢を目の当たりにしてみると、数は前回の戦いとさほど変わりはないように見える。
つまり、前回の軍勢もおよそ1万くらいだったということだ。
(あれ、ということは1万ってさほど恐ろしい数ではないのか?)
前回の戦いの印象から、思わず僕はそんなことを考える。
「おいアラン、何立ち止まってるんだよ。敵来てるぞっ!」
「あぁ、ごめんごめん」
戦闘中だということを思い出した僕は、再び目の前に迫る敵を切りつけ、そのまま軍の中へと突き進んでいく。
そんな僕の行動から、一見自分が剣でたくさんの敵を倒しているように見えるが、全体的に見てみると、実際に多くの敵を倒しているのは僕ではなくケインだった。
ケインの一回の攻撃は魔物を何十体も倒してしまっている。
とても人間とは思えない攻撃だ。
僕も“パワー”や“エナジー”で力、体力を上げて、ふつうの人間以上に戦えてはいるものの、ケインの魔法を使った攻撃は僕以上にすさまじい。
今までケインは僕と一緒に剣の特訓をしていたため、多少剣は使えるものの、実際のケインの戦い方は魔法での攻撃。
そして驚くべきことに、ケインはほとんど生活魔法しか使っていないのだ。
それだけを聞くと、とてもじゃないが魔物なんて倒せるわけはないのだが、ケインが使う生活魔法は生活に使うというレベルを逸脱している。
ただ火を起こすために使われる“フレイム”は何でも燃やし尽くすほどの業火に、ただ洗濯物を乾かしたり、髪を乾かすために使われる“ウィンド”はどんなものでも吹き飛ばしてしまうほどの巨大竜巻に、そして生活用水を出すために使われる“ウォーター”は何でも飲み込む巨大津波にと、ケインが使うだけでただの生活補助の魔法が、災害を起こす魔法へと変貌を遂げるのだ。
そんな魔法を使われては、当然僕の出る幕なんてものはなく、いつの間にか僕はケインの魔法から運よく逃れることができたごく少数の魔物を倒すという、完璧に補助の役に徹してしまっている。
「これじゃあどっちが救世主かわからないな...」
僕は小さくそうつぶやく。
そして僕の目の前には、火事、竜巻、洪水という災害のオンパレードの光景が広がっている。
「ここまでくると、もう僕たちが魔王軍なのでは?」
そんなことを言っているうちに、ケインの魔法は魔王軍全体を襲い切り、戦いはほぼ終わってしまった。
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「ふぅ~、一件落着だな」
魔物の軍勢を倒しきった俺は、満足してそうつぶやく。
先ほどまで俺に牙をむいていた魔物たちは、現在俺とアランの手によって全滅といえる状態になっている。
えっ、なんで俺が王都を出てこんなところにいるのかって?
それについて説明するには、時は数十分前にさかのぼる必要がある。
「王女様、大変です!現在、王都に向かって大量の魔物の軍勢が進行中です!!」
マリン様の部屋で、このような報告を受けた俺は、すぐさま軍勢の場所を兵士から聞きだし、
「よ~し、今から行ってきます。マリン様!待っててくださいね!!」
そう言ってマリン様の部屋の窓をガチャっと開け、そのまま飛び降りようとする。
「待ってくださいケイン様、ここから地面まで何メートルあると思っているのですか!?」
しかしマリン様は驚いた様子でそう言って俺を止めてきた。
まぁ俺としても、マナーとして窓から飛び降りていくなんてこと、あまりしたくはないのだが、
「魔物の軍勢が進行中だ!!騎士団のものは急いで防衛準備に取り掛かれー!!」
部屋の外から聞こえてくる兵士たちの焦った叫びから、一刻を争う事態なのだと判断した俺は、
「大丈夫です、マリン様!なぜなら俺は、」
迷うことなく窓から飛び降り、
「空を飛べますからねー!!」
“飛翔”の魔法を使ってそのまま兵士から聞いた場所へと向かったのだ。
あとはそのまま魔物の軍勢のいるところを見つけ、ただ自分の魔法をただひたすらぶっ放しただけ。
まぁ、予想外のことがあったとするならば、俺としては兵士たちの焦り具合から、何十万という、とんでもない軍勢が迫ってきていると思っていたのだが、実際はそんなことはなかったという点くらい。
実際は、いたとしてもせいぜい一万がいいところだろう。
王都を守る騎士たちも王都の周りにいた人の数から見るに、数は魔物の軍勢と同じくらいであるため、俺からすると楽勝だと思うのだが、なぜあんなに焦っていたのやら...
(まぁ今回は俺とアランで片付けられたし、別にいいか!)
まぁすべてが終わった今、気にする必要はないだろうと、とりあえず一人納得する。
すると、そんなことを考えている俺の隣で、
「ねぇケイン、やっぱり僕いらないよね」
アランがすねた様子でそんなことを言い出し始めた。
「なっ、なんだよいきなり。いるにきまってるだろ、そもそもこれはお前の旅なんだ、俺はただついてきているだけ。俺がいらないと言われるならともかく、お前がいらないなんてことになったら本末転倒だよ」
「でもさ、今回の戦いだって、見てよほら!」
するとアランはそう言って、俺たちが倒した魔物の方を指さした。
「魔物が、どうしたってんだよ」
「見てよケイン、魔物の受けている傷を!!僕がつけたであろう剣の傷を受けた魔物なんかほんのちょっとだよ。ほとんどが黒焦げに焼かれているか、頭を思いっきりぶつけているか、水浸しになっているかのどれかでほとんどがケインの攻撃だよ!!」
アランはそう言って俺に詰め寄ってくる。
「なんだよ、俺ばっかり戦ったのが問題だったのか?それなら次からお前にちょっと活躍の場を譲るからさ...」
「そういうことじゃない!!」
俺はアランの機嫌を直してもらおうとそう言ったが、逆効果だったらしい。
するとアランは急にため息をつきだし、
「僕って必要とされているのかな?」
なぜか急にそんなことを言い出した。
「おいおい、どうしたんだよ。機嫌直してくれよ」
俺としてはアランの真意が分からないため、そんなことを言うしかない。
なんて言えばいいんだろうかと、頭を悩ませていると、
「アラン様~ご無事ですか~」
場の空気を変えてくれる助っ人がこちらにやってきてくれた。
「おぉ!!えっと、確か...アメリアだっけ?」
「あっ、アラン殿?こんなところにいたんですか!?」
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