第47話 ケインの突っ走り
「アメリア、ケインのこと見なかった?」
会議が終わり、騎士たちがぞろぞろと城を出て戦闘準備に入る中、僕はまだ部屋に残っていたアメリアに対してそう質問する。
「ケインとは確かアラン様のお仲間の方でしたね。私は見ておりませんが...」
するとアメリアは申し訳なさそうにそう答える。
「う~ん、まだ王女様のところにいるのかな~。ちょっと僕ケインのこと探してくるからアメリアは先に行ってて。あとで僕も行くから」
「分かりました」
戦いになるのならケインの力もあった方がいいだろうと、僕はアメリアにそう言ったあと、ケインを探しに王女様の部屋へと急ぎ足で向かう。
「ケイン、まだ王女様に自分がカインだって話してないの?もう一時間以上もたつのに」
僕はそう言って、焦りながら廊下を早歩きで移動していると、途中で重要なことを思い出す。
「あれっ、そういえば王女様の部屋ってどこだ?」
前からお城に来ていたケインならともかく、初めて来た僕としてはどこにどの部屋があるのかなんてのは知らない。
その上、
「あれれ、そもそもここってお城のどのあたりだ?」
急いで歩き回ったせいもあってか、現在位置までも分からなくなる始末である。
「あ~あ、もう迷っちゃった」
人を探しているのに、僕の方が迷子なってしまった。
この後、どこに行けばいいのか分からず、しばらくの間立往生をしていると、
「救世主様~!!」
奥の方から、誰か僕を呼ぶ声が聞こえる。
そして僕はその声の方に向かってとりあえず走ってみると、そこには、
「あっ、王女様ではないですか!」
「やっと会えました。救世主様!」
急いでいる様子の王女様の姿があった。
僕が王女様の部屋に行く前に、先に本人のほうから来てくれた。
しかし、廊下で会った王女様は、なぜか魔物の軍勢におびえているというより、
「き、聞いてください救世主様!!ケイン様、とってもすごいんですよ!」
なんだか楽しそうだった。
「どうしたんですか王女様!?そんなに浮かれた様子で。今は魔物の軍勢が迫ってきていてそれどころじゃ...」
「それですよ!それっ!!」
「えっ?」
とりあえず王女様を落ち着かせようと僕はそう言ったが、その一言から王女様はより気分が上がり、そのままことの詳細を教えてくれた。
「先ほどですね、私の部屋に魔物の軍勢が迫ってきているっていう報告を受けたのですが、ケイン様ったら報告を受けた後、すぐさま私の部屋の窓を開けてそのまま王都の外の方へ魔法で飛んで行ってしまったんですよ!!」
「はぁ!?」
さすがケインだ、報告を受けてからの行動が早い。
まぁ早いに越したことはないのだが...少々早すぎではないだろうか。
「あの時のケイン様、すごかったな~」
王女様は、さっきのケインの行動を思い出して楽しそうにしている。
そしてまた、
「あれっ、ということは僕が一番最後ってことじゃ...」
王女様の報告から、一番行動が遅いのは間違いなく自分であると僕は理解する。
「あのっ、お城の出口ってどこにありますかね?」
「えっと、この先を左に進んで目の前にある階段を降りると正門ですね」
みんなに追いつこうと、僕は王女様に城の出口を聞くと、
「ありがとうございます。僕もすぐにケインの後を追いかけますので、失礼します」
王女様にそう告げて、すぐさまお城の外へと突っ走る。
「はい、救世主様もお気をつけて」
王女様の言う通りに進み、とりあえずお城を出ると、
「久しぶりに使うな~“特急”っと」
僕自身としては、使うのは久しぶりになる、“特急”の魔法を使うとすぐさま王都の北門へとそのまま突っ走る。
「やばいやばい、肝心の僕が一番最後になっちゃったよ~」
魔王軍の襲来に戸惑っている王都の住人たちをうまくすり抜けると、僕は最短ルートで王都の北門へとたどり着いた。
「あれっアラン様、早いですね。もうケイン様は見つかったのですか?」
そしてたどり着いた先には、たった数分前に別れたばかりのアメリアがいた。
「ね、ねぇアメリア、ケイン見なかった?」
僕は急いでケインのところへ行こうと、アメリアにケインの場所を聞いてみるのだが、
「えっ、こちらにいらっしゃるのですか?私は見ておりませんが...」
アメリアとしてもケインの居場所は分からないらしい。
そして周りの兵士にも聞いてみても、誰も見たという人はいない。
「あれ~どうしちゃったんだろう?」
王女様の話と合わないこの状況に、しばらく立ち止まって考え込んでいると、
「な、なぁ、魔物の軍勢来るの遅くないか?会議の時は一時間って言ってたんだよな。ということは、もうここから魔物の姿が見えてもおかしくないんだけどな」
王都の外で魔物の軍勢を待ち構えている騎士団の団員の一人がそうつぶやいているのを耳に入る。
(あれっ、まさかケイン...)
その話の内容から、ケインの場所を察した僕は、
「アメリア、今から僕先に魔物の軍勢の方に行ってみる」
「えっ!!」
アメリアにそう言い残し、ふつうの人間の足では到底追いつけないようなスピードで魔物の軍勢がいるという方向へと突っ走る。
「お待ちくださいアラン様!!」
しかしアメリアは、さすがに危ないと思ったのか僕を必死で呼び止めてくる。
僕はそんなアメリアの言葉を無視し、そのまま北北東へと向かうのだった。
--------------------------------------
「おぉ~アラン、やっと来たか」
まっすぐ北北東へ突っ走っていった先で、僕が見たものはケインと、
「ね、ねぇ、今大変じゃない?」
「いやいやそんなことないよ。こいつらそこまで強くないし」
「いや、でも数が数だよ」
現在進行形でケインと戦っている魔物の軍勢の姿だった。
まさかとは思ったが、本当に先走ってケイン一人で魔物と戦っているなんて思ってもみなかった。
しかしケインはこんな1万という軍勢を何でもない様子で魔法を使って応戦している。
「まぁ、確かに大変ではあるかな。だからアラン、お前も前みたいに手伝えって」
「はいはい分かってるよ、そのために来たんだからさ」
ケインの言葉に僕はそう返事をすると、腰に差している剣を抜き、戦闘態勢に入る。
そして、
「はぁーー!!」
僕もアランと負けず劣らずのスピードで、魔物たちを次々と倒していく。
僕が剣でケインが魔法、そのスタイルは前も同じであった。
そう、前もである。
実を言うと、こういった魔物の軍勢と戦うのはこれで2回目であった。
1回目があったのは今から一か月前、僕がまだ何の天命も受けていなかったときのことだった。
あの時の僕とケインは久しぶりに王都へ向かおうと、ケインの“飛翔”の魔法で空を飛んでいた。
「ねぇ、あそこってあんな数の魔物いたっけ?」
すると、僕は王都に行く途中にある平原にいた、普段は見かけないであろう大量の魔物を指さしながらそう言うと、
「いやいや、あれって魔物が多いとかのレベルじゃねぇだろ!あの密集度合いからして、どう考えても軍隊だぞ」
ケインは僕に向かってそうツッコんだ。
「えっ、うそ!あれで戦争するってこと?」
戦争なんて経験してこなかった僕としては、初めて軍と呼ぶものを見た。
ケインが軍と呼ぶ、その魔物たちは全員南南西の方角を向きながらゆっくりと前進している。
「あの方角って...王都の方だよね」
そしてここから南南東は王都の方角だ。
「あぁ、詳しくは分からないがこのままだと王都にたどり着いてしまうのは間違いなさそうだな」
するとケインはそうつぶやくと、
「よし、アラン戦闘だ!!こいつらが王都に到着する前に倒しきるぞ!」
「えっ、うそ、今からっ!!」
急にケインがそう叫び出し、自分自身と僕を魔物の目の前に着陸させる。
そして、
「さぁ、いくぞアラン!」
「ちょ、早いよケイン!待ってよ~」
ケインはテンションマックスで魔物の軍勢に突っ込んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます