第46話 緊急事態!!
正直言って、僕は回復魔法のことについては全く分からない。
どんなものがあって、それぞれにどんな効果があるのかなんてさっぱりだ。
しかし、ケインやイルルは違う。
イルルのお母さんが亡くなってから、ケインとイルルはずっと回復魔法の開発を行っていた。
それに、ケインがまだイヨの村にいた時も、村で病気の人が現れると変装をしてその人の前に現れ、あっさりとその人の病気を治しては、颯爽と立ち去っていくという生活をしてきたのも僕は知っている。
僕からしたら、あの二人に治せない病気があるのなら、もう誰にも治せないのではないかと思う。
それくらいケインとイルルの回復魔法はすごい。
そして僕はそう思うからこそ、今回のアリアの病気もケインに任せるしかないと思う。
たとえ神様が見捨てたとしても、アリアがそのまま生き続けるためにも...
「いったい、いったいどうすれば...」
そしてアメリアは、相変わらずアリアの病気が分からず、頭を抱えている。
「あのっ、もしかしたらケインが、」
僕は頭の中で考えていたその意見を口にしようとした、その時、
「コンコン!」
いつも聞くのとは違う、明らかに大きいノック音が部屋に響いた。
「なんだ?入っていいぞ!」
アメリアも急な大きな音に驚いた様子でそう返事をすると、
「しっ、失礼します!!」
中に入ってきたのはふつうアメリアの家にいるはずのない、いつもより豪華な装備をした騎士団の騎士だった。
「なっ、なんでお前が私の家にいるんだ!?」
アメリアとしても予想外のことだったらしく、さっき以上に驚いている。
「すいません、アメリア様。先ほどこの方が、緊急事態だからどうかアメリア様に会わせてほしいとせがんできたものでして...」
するとそのあと、違うメイドが申し訳なさそうに、そう言って騎士の後ろから顔をのぞかせてきた。
「はぁはぁ、自分のやっていることが失礼なのは、はぁ...わかっているのですが、どうしても...っはぁ、アメリア様に伝えたいことがございまして」
よくよく見てみると、騎士は急いでここまで来たのか、息を荒げながらしゃべっている。
「なんだ?とにかく話を聞かせてくれ」
戸惑っていたアメリアも騎士の焦っている様子をくみ取ったのか、冷静を取り戻すと、伝えたいことについて聞いていく。
「そっ、それが、この王都に大量の魔物の軍勢が進行しているとの連絡が入ったんです!」
「「なっ、なんだって!!」」
その重大な報告に、アメリアだけでなく思わず僕まで大声を上げてしまう。
「わっ、分かった。とりあえず話は話しながら聞く。とりあえず指揮権のある騎士を全員城に集めるんだ!!」
「はいっ、すでに指揮官級の騎士を城に集めている最中です!」
「分かった、私も今すぐ行く」
アメリアはそう言うと、急いで立ち上がり、
「用ができた。おそらく数日戻ることはないからそのつもりでいてくれ」
「かっ、かしこまりました」
メイドさんにそう言い放つ。
「あの、申し訳ないんですが、アラン様も城に来ていただけますか?」
そしてそのあと、僕にそんなことを言ってくるので、
「何を言っているんだよ。初めからついて行く気だよ」
もともと行く気満々だった僕は、当然のようにそう返事をする。
「...ありがとうございます」
そしてアメリアは僕に深々と頭を下げると、僕とともに駆け足で部屋を飛び出す。
騎士の態度から、おそらく急いで向かわなければならないのだろう。
とにかく、一刻を争う事態なのは間違いない。
しかし、
「お姉ちゃん!!」
後ろから大きな声でそう呼ぶ声が一つ。
アメリアは呼ばれるがまま後ろを振り向くと、
「お気を付けて...」
アリアはそう小さくつぶやいた。
そしてアメリアはそれに応じるように小さくうなずくと、顔を正面に向けなおし、
「アラン様、急ぎましょう」
「うん!」
今度こそ部屋を飛び出す。
とりあえず僕としては、早くケインと合流したいところだ。
僕たちはそのまま家を出ると、急いで城へと向かうのだった。
--------------------------------------
「全員、集まっているな?」
「今確認しました。指揮権を持つものは全員、この会議室に集まっています」
僕はあのあと、そのままアメリアについて行くと、まずはこの広い会議室に到着した。
そしてそのまま待っていると、戦闘態勢と瞬時にわかるような装備を身に着けた騎士たちがぞろぞろとこの会議室に集まってきた。
そして今、
「よし、これより軍議を開始する!」
この王都の明暗を分ける会議が始まろうとしていた。
軍議が始まると、まずはアメリアの口から現在の状況を整理する。
「まずは総数だ、報告では魔物の軍勢はどのくらいだと聞いている?」
「はい、偵察隊の報告によると魔物の発生地点はここより北北東で数は約1万。そして種類はゴブリンからキマイラまで様々だと聞いています」
「な...なるほど」
その回答を聞くと、アメリアは急に頭を抱えだした。
僕としては、1万という大きな数にあんまりピンと来てないこともあってか、逆に冷静になってしまっている。
しかし、アメリアの反応からとても厳しい状態にあるのは確かなのだろう。
「こちらも数は1万だ、このままだと削り合いになってしまうぞ!!」
そしてアメリアのその一言から、場の空気は一気にざわめきだした。
僕としては、同じ数なのだから一人一体の魔物を倒せばいいのだから楽勝なのではと思ったのだが、実はちゃんとした理由があるらしい。
実際、僕としても初めて知ったのだが、魔物の軍勢は魔王がいるこの大陸の南からだけでなく、召喚魔法を用いて指定の位置に送ることができるらしい。
そして今回も実際に王都から北北東という、明らかに魔王領とは真反対の位置に魔物の軍勢が送られている。
また、サキト王国は周りを別の国々で囲われているため、直接的に魔王領から責められることはない。
しかし、ほかの国々に守られている分、違う国が魔王軍と戦うことになった場合、毎回援軍を送るという約束を結んでいるらしい。
そのため、後々ほかの国に送る援軍のことも考えて、今回の戦いで騎士団員の多くを失うわけにはいかないらしい。
そんな背景もあり、会議室では不穏な空気が流れていると、
「あの、その軍勢はあとどのくらいで王都にやってくるのでしょうか?」
団員の一人がより詳細な情報についての質問をする。
すると、ほかの団員の口から、とんでもない情報がでてきた。
「それが...あと1時間にはもう王都の門の前に来てしまうと」
「「「1時間!!」」」
その回答に、僕だけでなく、ほかの団員達も大声で出して驚いている。
「おい!なぜそれを言わなかった。こんなところで軍議をしている場合ではないではないか!!」
「そっ、それが私としてもついさっき入ってきた情報でして...」
アメリアもあまりの衝撃に大声でさけんでいる。
「仕方がないっ!!急を要する事態だ。個人個人の部隊は王都の門の前に待機させているな?そして私たちもすぐにそこに向かう必要がある。とりあえずみんな、いつも通り防衛の配置に着けっ!」
そしてアメリアは臨機応変にそうみんなに叫ぶと、
「みんな不安な気持ちがあるのは分かるが、安心しろ!今回は神様より魔王討伐の命を受けた救世主アラン様がついているんだっ!!」
檄を飛ばすためなのはわかるが、急に僕の名前を出してきた。
「「「オォーーーー!!!!」」」
そして、やはり救世主という名はすさまじく、さっきの不安な空気が急にやる気の満ち溢れた空間へと変貌した。
(聞いてないよ、アメリア~!!)
僕は心の中でそう思いながらアメリアの方を向くと、アメリアはこっちを見て苦笑いを浮かべながら、僕に向かって小さく頭を下げる。
(まぁ、やる気が出たのならそれでいいんだけどさ)
しかし僕は、士気の上がった騎士たちが急いで城を出ていくのを見届けながらもう一つ、重要なことを思い出した。
(あっ、ケインのこと探すの忘れてた...)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます