第44話 アランとアメリア


「ケイン、遅いな」


ケインが王女様に呼ばれて早数十分。

ケインは帰ってくることなく、僕はずっとこの部屋で一人ぼっちの状態が続いている。


「こんなに広いと、かえって一人だと寂しくなっちゃうな...」


自分の家と比べ、明らかに広く豪華なこの部屋は、今抱いている孤独感をより誇張させてくる。


そして僕は何もないまま、ただ椅子に座って目の前にある部屋の扉を見つめていると、


「コンコン...」


ずっと待っていた、扉のノック音が聞こえてきた。


「はーい、どうぞ~!」


誰かが来たということで、僕は少し上機嫌で扉に向かってそう返事をすると、


「失礼します」

「あぁ、あなたは...」


部屋に入ってきたのは、僕たちの新しい仲間になってくれるという、アメリアという人だった。


「2度目となりますが、先月の天命より救世主様の仲間として魔王討伐の旅に加わらせていただくことになった、アメリアと申します」

「僕が救世主のアランです。よろしく」


僕たち2人は改めてあいさつを交わす。

てっきり入ってきたのはケインかと思ったが、よくよく考えてみれば僕がいるこの部屋にケインがノックをするはずはないなと一人で納得する。


ここまで帰ってくるのが遅いということは、結局ケインは王女様に自分がカインだと言うのをためらっているらしい。

別に長い付き合いなのだから言ってもいいだろうに...


僕とアメリアがあいさつを済ませると、アメリアはあたりをきょろきょろと見渡し、


「あの、救世主様のお仲間の方は?」


僕にそう聞いてきた。


「あ~ごめんごめん、今ケインは王女様に呼ばれててさ。たぶん帰ってくるのにもう少し時間かかると思う。用があったのなら僕だけでも話聞くけど?」


アメリアの疑問に僕がそう答えると、アメリアはさっそく本題に入っていく。


「ではさっそくなのですが、救世主様は...」

「あ~、アランでいいよ、救世主って呼ばれるの結構恥ずかしいし」


自分から話を促しておいてなんだが、僕はアメリアの言葉を遮ってそう訂正する。

さすがにこれからアメリアが僕を呼ぶたびに“救世主様”なんて呼ばれるのはさすがにこっぱずかしい。


「そして、これから僕を名前以外で呼ぶときは“勇者”とでも呼んでくれ!」


それに僕としても救世主と呼ばれるより、以前ケインがつけてくれた勇者という名前で呼んでくれた方が僕としては好ましい。


「は、はぁ。ではこれからアラン様と呼ばさせていただきます」

「まぁ、勇者とは呼んでくれないか...で、なんの話だっけ?」


とりあえず呼び名の話はこれくらいにして、僕はもう一度アメリアに尋ねる。


「その、アラン様たちはこれから今すぐにでも王都を旅立つおつもりですか?」

「まぁ今から旅立つつもりはないけど、どうしてそんなことを?」


僕は質問の意味が分からず、とりあえずアメリアの真意を尋ねる。


「はい、今すぐにでも旅立つようなら王都を出るついでに自宅に寄って旅の準備をしたいと思いまして」

「あ~そういうことね。全然大丈夫だよ。ケインも結構疲れてたし、たぶん今日くらいはここに泊まることになると思うから」


さすがに今日までずっと、何時間もかけて馬車に揺られてここまで来たというのに、すぐに旅立つなんてことはしない、というか精神的にできない。


「ならよかったです。時間があれば今すぐにでも自宅に向かおうと思っていましたので。とりあえず準備が終わり次第、またここに戻ってきます」

「うん、行ってらっしゃい」


アメリアはそう言うと用事が終わったのか、後ろを向いて扉のレバーに手をかける。


(いや、待てよ...)


そしてその時、僕はふと思った。

このままずっとこの部屋にいても、ケインが帰ってくるまでずっと暇なのではないかと。


(さすがにこの部屋にずっとは嫌だな~)


そんな感情が僕の脳裏にふとよぎる。


「では、失礼しました」


しかし僕がそんなことを思っているうちに、アメリアはそのまま部屋を出ていこうとしていたので、


「あっ、ちょっと待って!」

「はっ、はい。なんでしょう?」


思わず引き留め、僕はアメリアに向かってこう聞いてみた。


「それ、僕をついて行っていいかな?」



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「へぇ~アメリアってお城からこんなに近いところに住んでるんだ~」

「えぇ、まぁ。我々騎士団はいつでも城に向かうことができるよう、城のすぐそばに居を設けていますので」


僕は現在、お城を出てすぐそばにある、建物で密集している通路を通っている。

周りを見てみると、アメリアの言う通り、このあたりにいる人たちは騎士の風貌をした人ばかりだ。


「それであの、どうして私なんかの家に行きたいだなんておっしゃったのですか?」


今まで城下町にしか行ったことがく、初めてお城の近くに来てテンションが上がりながら周りを見ている僕の隣で、アメリアはそんなこと聞いてくる。


「まぁ~、あのまま部屋にいてもよかったんだけど、あのまま一人ぼっちってのもちょっとね。ケインもしばらくは帰ってこなさそうだし...あっ、ひょっとして迷惑だった?それだったらごめん。嫌だったら別にいいんだけど」

「いっいえ、そんなことはっ!ただ私の家なんかに来て楽しいのかな、と」

「いやいや、一人ぼっちでいることに比べたらアメリアと一緒にいてくれた方が断然楽しいよ」

そして僕は笑顔でそう返したのだが、


「そ、それならいいのですが...」


アメリアは少し乗り気ではないらしい。


まぁそれはそうか、いくら救世主だからって初めて会った人を家に上げるのはどう考えても抵抗はあるよね。

今さらながら少し後悔の念がよぎってしまう。


「着きました、ここです」


そして僕がそんなことを考えているうちに、僕たちはアメリアの家に到着する。


「へぇ~、やっぱり騎士団長なだけあってほかのところと比べると大きな家だねぇ~」


アメリアが指さしたところは、家というよりちょっとしたお屋敷だった。

さすが、王都に住んでいる位の高い人は住む家が違う。


「いえいえ、そんなことは...さぁどうぞお入りください」


アメリアは僕の言葉をサラッと流して、さっそく僕を家の中へと案内する。


「おじゃましま~す...ってわお!やっぱり中も豪華だねぇ~」


そして、家の中が外観と同じくらい豪華なのは言わずもがな。

その上、


「おかえりなさいませアメリア様」

「「おかえりなさいませ!」」


家にはメイドやコックといった使用人が何人もいるときたものだ。

僕の生活環境と明らかに異なっている。


「うん、ただいま」

「あら、アメリア様。そちらの方は?」

「あぁ、紹介するよ。以前私が言っていた、救世主のアラン様だ」

「あ、どうもアランです」


メイドの一人がそう聞いてきたので、アメリアと僕はそう答えると、


「まぁ、あなたが救世主様!?」

「おぉ!!あなた様が」

「初めまして、救世主様!!」


使用人の方々は急に盛り上がって僕を歓迎してくれる。

やはり救世主という名は、様々なところで影響を及ぼすらしい。

まぁ何はともあれ、歓迎してくれるというのはうれしい限りだ。


一方アメリアは、僕に向かって、


「あの、非常に申し訳ないのですが、これから私は旅の準備に取り掛かるので、一人この場を離れてもよろしいでしょうか?」


申し訳なさそうな表情でそう言ってくる。


「いやいや、ここに来たいって言ったのは勝手な僕のわがままなんだから気にしないで。逆にごめんね、気を使わせちゃって...」


僕自身としては別に偉くもなんともないのに、アメリアにここまで気を使わせてしまうと、逆に僕の方が申し訳なくなってしまう。


「いえいえ、そんなことは...今回はそちらのメイドにこの部屋を案内させますのでゆっくりしていってください」


そしてアメリアはそう言って丁寧にお辞儀をすると、迷わずとある部屋へと向かって歩いて行った。


(アメリア、めっちゃへりくだってるな~)


今までのアメリアの僕に対する対応に、思わずそんなことを思っていると、


「さて、アラン様、でしたよね?これから私がこの部屋を案内いたしますのでついてきてください」


俺の話し相手が切り替わったかのように、急に近くのメイドさんが僕に向かってそう言ってくる。


「あっ、はい。よろしくお願いします」


僕としては今までを含め、周りの僕に対する対応が明らかに貴族のようであるため、どうしても違和感を覚えてしまう。


なんか田舎の村出身の僕からしたら変な感じだな~


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