第43話 ばれていた隠し事


「ま、魔素っ!!」


俺は大声を上げながら、思いっきり座っていた椅子から立ち上がる。


「はい、実は私、生まれつき人の中にある魔素の流れを読むことができるんです」


驚いている俺をよそに、王女様はそんなことを軽々しく言ってくる。


「人の中にある魔素って、人によって本当に様々なんですよ。魔素の量はもちろん、魔素の質、流れ方なんかは本当に人によって違っていて、見ていて面白いんです」

「は、はぁ...」


なんてこった。

魔素を認識できる能力は、俺が今まで魔法の特訓を重ねてきたことで得ることができた、俺だけの能力だと思ってたのに。

俺以外にも能力を持つ人がいただけではなく、生まれつき持っているだなんて...


俺は現実の恐ろしさというものを強く実感してしまう。


王女様は俺に自分の能力をしっかり伝えようと詳しく説明しようとするのだが、同じ能力を持っている自分としては、聞くまでもない内容だ。


「だから私、人を認識するときは見た目ではなく、魔素で判断するんですよ。もちろん、ケイン様だって」


そしてそのことから、俺は完全に認めるしかなくなってしまった。


「それにカイン様のような大変大きく、質の良い魔素、今まで見たことがございません。どうやったら見間違えるようなことがありましょうか」


王女様は俺のことをはじめからカインであると確信していたということに。

王女様はそう言うと、俺の方をじっと見てくる。

もう隠しきれまい。


「なるほど、最初から確信していたということですね」

「あら、ケイン様は私の言うことを疑いはしないのですね」


王女様はいたずらっ子のような表情で俺にそう言ってくるが、魔法で見た目を完璧に変えているにもかかわらず気づかれていた時点で、すでにあきらめるべきだったのかもしれない。


それに王女様が言う、俺が大きく質のいい魔素を持っているというのも我ながら実感できる。


「まぁ私も魔素を感じ取ることができますので...」

「えっ、そうだったのですか!!」


俺がそう言うと、王女様は俺がカインだったことよりも、俺にも魔素を感じ取れる能力を持っていることに驚いているらしい。


「そうでしたのなら、最初から言っていてもよかったかもしれませんね。そうすれば、私に隠し事をしようとなんて思わなかったでしょうし」

「ま、まぁ...」


王女様はそう言いながら、俺に近づき少し頬を膨らませている。

どうやら王女様は俺が今まで隠し事をしていたことに対してご不満があるらしい。


「それで、なぜ変装をして救世主様と一緒に旅をしておられるのですか?誰にも正体を見せることなく」


そして王女様は、そのまま俺の真意を聞こうとそう言ってきたので、


「まぁ王女様にならいいでしょう、でも絶対に誰にも言わないでくださいよ」

「わかりました、絶対に誰かに言ったりはしないと誓いましょう」


俺は諦めて今までの経緯を話すことにした。



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「なるほど、そういったことが...」


俺はそのあと、王女様に今までの経緯を話した。

もちろん、転生してきたとか、俺に天命がないというのだけは抜きで。


とりあえず設定としては、小さいころから俺は魔法を使って変装をして、遊びで王都に時々行っていたが、今年になって友達のアランが救世主に、俺がその仲間として魔王討伐をするよう天命が下ったため、今回王都にやってきたということにした。


これなら辻褄は合うだろう。


これで王女様も納得しただろうと思ったのだが...


「ということはカイン様がケイン様に変装しているのではなく、ケイン様がカイン様に変装していたということですか?」

「まぁ、そうなりますね」


俺がそう答えると、王女様はなぜかそう言いながら少し怒った表情をしている。


「では今回だけでなく、初めから私に正体を隠していたということになるじゃないですか!」


どうやら王女様は騙されていたのは今回だけではなく、今までずっとだったという事実に怒っているらしい。


まぁ知り合いにずっと騙されていたなんて知ったら、怒るのが普通か。


「それに関してはすいません。今まで村の友達以外、誰にも言ってこなかったものでして」


俺はそう言って謝るものの、王女様はそのまま畳みかけてくる。


「それにケイン様は実は15歳だって言うじゃないですか!今まで年上だと思っていたのに、同い年だったなんて!」

「えっ!王女様も今年で15歳だったんですか!」


そして俺が、王女様と同い年という事実に驚いているのも束の間、


「えっ、今まで私の年齢も知らなかったんですか?」

「あっ」


俺はまた、王女様を刺激してしまったらしい。


「お互い信頼し合ってしていたと思っていたのは私だけのようですね、がっかりです」

「すいません、すいません。本当にすいません!」


王女様はそう言って急に気持ちがしぼんでいってしまったため、俺は全力で今までのことを謝る。


よくよく考えてみれば、俺はただの冒険者で、相手は王女様だ。

身分なんて全然違い、今まで王女様のご厚意で仲良くさせてもらっていたにすぎない。


少し今までの行動は無礼だったと、今になって自覚する。

身分がどうこうとか考えてこなかった人生を前世では送ってきたため、今までそこまで深く考えてこなかった。


(あ~どうしよ、そのまま窓から空飛んで逃げちゃおうかな)


身分の違いというものを考えてしまった今の俺は、思わずそんなことを考えてしまう。


「本当にすいません。なんでも言うことをお聞きしますので、どうか許してください」

「なんでも...?」


(はっ!!)


俺はまた変なことを言ってしまったと、後悔の念がよぎる。


「へぇ~、なんでも...」

「あ、あはは」


今さら今のはなしでとは言えない。


王女様は少し微笑んだ後、そのまま少し黙り込むと、下を向いて考えるそぶりを見せ、


「なら、これから私のことを名前で呼んでください」

「はい?」

「だから、これから私のことを名前で呼んでくださいますか?そうしてくれたら許してあげます」


少し微笑んでそう言ってきた。


なんとも変な要求をしてくる王女様。


「それくらいなら全然かまいませんけど...それでいいんですか?」


俺は王女様の真意がよくわからずそう確認するが、


「いいんです!それに、私にとってはとても重要なことなんですから」

「は、はぁ」


王女様ははっきりとした口調でそうつぶやく。


まぁ、確かに王女様はみんなから名前で呼ばれることはめったにない。

みんな王女様などと肩書で呼んでいる。

少し寂しい感情でもあったのだろうか。


まぁとんでもない要求をされるよりかはよっぽどましであり、俺としてはとても助かるというもの。


「じゃあさっそく呼んでくださいますか?」

「あっ、はい...えっと、マリン様?」

「はいっ、許してあげますっ!」


俺が王女様の名前を呼ぶと、王女様は満面の笑みで俺の肩に手を置き、そうつぶやく。

まぁ、許してくれたのならとてもありがたい。


しかし、名前を呼んでもらうことがそんなにうれしいことなのだろうか。

女心というものは本当によくわからないものだ。


「結構時間を使わせてしまいましたね、そういえばお時間の方は大丈夫ですか?後でアメリアが部屋に来てくれるとか言っていましたが...」

「あっ!!」


そして、話がまとまったことで、やっとこれからの予定を思い出す。


やばいやばい、今までの経緯とか話してたら、もう一時間ぐらい経ってしまったぞ!

もうアメリアも部屋に来ているかも、というか来ているだろっ!


「そうだった!これから部屋に戻りますので失礼します」


俺は急いで回れ右をし、部屋の扉に向かって歩いてく。


「すいません、お時間結構使わせてしまって」

「いえいえ、結局は僕から始まったことですので、お気になさらず」


そして、俺がそう言いながら扉のレバーをつかんだ、その時、


「コンコン」


扉のノック音が鳴り響く。


「わっ!」


目の前でのノックに驚いた俺は、反射的にレバーから手を離すと、


「どうぞ」


俺の後ろでマリン様が扉に向かって、そう返事をする。


「失礼しますっ!」


そして返事を聞き、扉を開けて中に入ってきたのは城の兵士だった。


しかし、いつもと様子が異なり、明らかに焦った表情をしている。


「どうしたのですか、そんな慌てた様子で」


マリン様も、兵士の焦った様子に気づき、そう尋ねると、兵士は俺を悪い意味で突き動かしてしまう、とんでもない事実を述べるのだった。


「王女様、大変です!現在、王都に向かって大量の魔物の軍勢が進行中です!!」

「えっっ!!」

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