第40話 王女様の興味


俺が食堂に着いたとき、俺の目の前にはこの世界では一度も食べた事のないような、豪華な食事が並べられていた。


「お~!すげ~!!」


あまりの豪華さに、俺はさっきの戸惑いの感情などどこかに飛んで行ってしまい、そのまま料理のテーブルに向かって一直線で歩き出す。


「待ってください!食事は逃げたりなどしませんからっ!!」


俺を案内した兵士はそう言って、食堂の中を素早く歩き出す俺を追いかける。

しかし俺は、兵士の引き留めなど一切気にすることなく、テーブルに置かれている料理を順番に頬張っていく。


(あ~豪華な食事サイコー!!)


俺は今、おいしい料理を食べれるという幸せにどっぷりと浸かっている。

今までこの世界で食べたことのない料理、食材が次々と並んでいるのだ、テンションが上がらない方がおかしい。

俺は自分の思うがまま、料理を口へと突っ込んでいく。


しかし、そんな俺の幸せな時間も束の間、


「ケイン殿ケイン殿!!今回の依頼の魔物はどのようにして倒されたのですか?」

「ケイン殿はいつも今回のような感じで依頼を受けるのですか?」


急に、食事を楽しんでいた俺の周りを、兵士や大臣らしき人が囲ってしまい、俺に次々と質問を投げてくる。


「え~っと、それはですね...」


俺は早く食事に戻りたいと思い、来た質問をできるだけ素早く返していくのだが、


「次は私だ!」

「いや、今度は私だって!!」


返しても返しても、俺への質問は人が変わるだけで一向に終わる気配がない。


(あ~あ、だからこういった豪華なパーティはめんどくさくて嫌なんだー!!)


俺は質問を返しながら、心の中でそう叫ぶ。

結局人生はうまいことばかりじゃないってことだな。



それならいっそ、パーティごと早く終わってくれればいいのに...



-------------------------------------



「あ~あ、どっと疲れた...」


俺は名残惜しくも、豪華な食事を素早く済ませると、王城の廊下を肩を落としながらゆっくりと歩く。


「コミュニケーションってのはめんどくせ~な。特に陰キャな俺からすると、こんなのたまったものじゃないわ」


前世からあまり初対面の人と話すことがなかった俺としては、今回のようなコミュニケーションの場というのは苦痛の場でしかない。

結局俺は、せっかくの王城での料理を3分の1も楽しめなかった。


それならもともとここに来るんじゃなかったと、後悔の念がよぎる。


今回の機会で、俺はコミュニケーションがより苦手になりそうだ。


「とりあえず今日のところはさっさと寝るか...」


落胆した表情のまま俺は歩いていると、そのままある扉の前に到着する。


「たしか、ここだったよな」


俺はそう言って周りを確認する。


なんと王様は今回のために、一晩だけだが、しっかり寝床も用意してくれていた。

扉は豪華そうだし、中もさぞかし豪華なベッドが置かれていることだろう。


(まぁ、今日は王城のベッドで眠れるんだ、食事の件はこれでチャラとするか...)


俺はそう思い、扉をゆっくり開けようとすると、


「ねぇねぇ、カイン様!」


俺の名を小さくつぶやく女性が一人、


「ん?あなたは!?」


女性の姿は遠くにあり、夜でまわりも暗くてよく見えなかったが、声とシルエットで大体わかる。


「おっ、王女様!?どうしてここに?」


俺の前に映るシルエットの正体はなんと王女様。

王女だから王城にいるのは当然として、なんでこんなところにいるのやら。


「あの、カイン様。ちょっとお時間よろしいですか?」


俺の問いのあと、王女様は俺にゆっくりと近づくいて、そんなことを聞いてくる。


「は、はい。全然大丈夫ですけど...」

「よかった、それならとりあえず私の部屋へと来てはくれませんか?」

「!!!」


俺の返事に喜びの表情を見せると、王女様は急に俺を自分の部屋へと誘ってきた。

真っ暗な夜に自分の部屋へと誘ってくる、俺はそんな状況に少し変な想像をしてしまうが、


(いやいやいや、どう見ても王女様、俺と同い年くらいじゃないか。変な想像はよすんだ俺!!)


どう見ても王女様は10歳前後の見た目をしているため、俺は自分にそう言い聞かせて、冷静さを取り戻す。


「えっ、ええ大丈夫ですよ」

「あ~よかった。ではこちらに...」


そして俺は、王女様の案内で王族の部屋に行くという、人生で1度あるかないかという経験をすることになってしまう。


「着きました、こちらです」


王女様はまた一層豪華な扉の前に止まると、そう言ってゆっくりその扉を開ける。


(お~!!)


そして中に入ると、そこにはさすがは王女様と言えるような豪華な家具がたくさん置かれており、ベッドも白いベッドカーテンがかけてあって、とても大きい。


「どうぞカイン様、こちらにお座りください」


そして王女様は俺に、きれいで豪華な椅子をすすめると、俺もお言葉に甘えてその豪華な椅子におもいっきり腰を掛ける。


(お~、ふっかふか!!)


ここに置いてあるどんなものも、俺としてはテンションの上がるものばかり。

なんやかんやで俺今、めっちゃ楽しんでいる。


俺がそんな感じで王女様の部屋というものを堪能していると、


「あの、それで本題なんですけど...」


王女様も椅子に座ると、俺にそう言って場の空気を一気に変える。

そして、数秒の間、沈黙の時間が流れると、


「食堂でのカイン様のお話、私にも聞かせてくれませんか?」


王女様はそんな、俺としてはなんて事のないお願いをしてきた。


「えっ!?お話?」


思っていたのと、あまりにも違う話の内容に俺は思わずそう聞き返す。


「ですから、私にもカイン様の今までの冒険のお話をしてください」


聞き返しても、同じ返事が返ってきてしまったため、俺は少し返答に困ってしまう。


「えっと、どうして今そんなことを...?」


俺は恐る恐る王女様にそう聞いてみると、


「だって、お食事の際は兵士の方や大臣がカイン様を独占してしまったので、私は何の話も聞けなかったんですよ?だから今のすきを狙って聞いてみたいな、と」


あ~、そういうこと。


まぁ、その時聞けなかったことを後で聞くというのは別に悪いことじゃない、むしろいい方だ。


しかし、王女様が一人でよくわからない大人を夜に自分の部屋に招き入れるというのはいかがなものか...


「あの、さすがにそれで俺を自分の部屋に入れるなんて、すこし危険だなと思わなかったのですか?」


そのよくわからない大人が俺だったからいいものを、今回の行動は普通に危ない。

10代の小さな女の子で王女ならなおさらである。

しかし、


「いえ、大丈夫です。私、人を見る目だけはありますので!!」


王女様はなぜかそんな、何の根拠もない自信を持ってしまっている。


こりゃ普通に危ないわ。

教育係の人でもいるのなら、王女様にしっかりとした教育をしてほしいものだ。


「まぁ、話は分かりました。でも次からは、今回みたいによくわからない大人がいても、気軽に声をかけちゃいけませんよ」

「はい、わかりました!」


王女様はそう元気よく返事をするが、本当に分かったのだろうか。

俺は、そんな疑いを持ちながら、


「じゃあ前回の依頼の話でもしましょうか」


俺は王女様にさっき食堂で話した話をはじめる。


「へぇ~この世界にはいろいろな魔法が存在するのですね」


俺が話を始めると、王女様は終始、俺の話に興味を持って聞いてくれており、普通に俺としてもうれしくなってしまう。


すると、俺も調子に乗ってしまい、


「実は、俺の故郷にはという乗り物があってですね、馬車なんかよりずっと速いんですよ!」


前世の時の俺の話を、遠い遠い大陸の話として話してしまった。


「私の知らないところでは、いろいろなものがあるんですね!」


そしてそんな話すらも、王女様は楽しそうに聞いてくれている。

まぁ、人に楽しんでもらえたなら何よりである。


そんな感じで、ずっと俺の話だけをしていると、


「あっ、もうおこんな時間!!そろそろ寝ないと」


王女様は俺が話をする前に逆さしておいた砂時計の砂が、全部落ちているのを見てそうつぶやく。


「カイン様、今回はありがとうございました」


すると王女様は、そう言ってお礼を言うと、


「いえいえ、王女様に楽しんでいただけたのならよかったです」


俺もそう返事をして立ち上がって、部屋の扉を開ける。

すると、


「あ、あのっ、カイン様」


急に王女様は、俺を呼び止め、


「また、お城へと来てはいただけませんか?まだ、お話を聞いてみたくて...」


俺にそんなお願いをしてくる。

まぁ相手は王女様だ、おそらく王都どころか城にすら出られない生活をしているのだろう。


そう考えると、俺としても自分の話でよければ何度だってしてやりたい。


「まぁわかりました、私は大体夜には冒険者組合にいますので、その時にでも迎えの人を送ってください。すぐに行きますので」


だから、俺はそう言って、王女様のお願いを快諾することにした。


「ありがとうございます。カイン様のお話、楽しみにしておきます」


すると、王女様は感謝の言葉を述べると、


「では、また...」


俺はそう言って、そっと部屋の扉を閉めるのだった。







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