第39話 王城への招待
「カイン?カインって確か...」
「いやいや!何を言っているのですか?王女様?」
俺はアランの発言を大声で遮り、王女様の発言を否定する。
しかし、そう否定はしたものの、確かに俺は、以前王女様に会ったことがある。
それに、会った時に王女様に悪い印象を持たれたわけでもない。
だがあの時、俺は王女様の言う通りカインの姿で会っていたため、今ケインの姿で俺がカインだとばれるわけにはいかない。
「私は救世主様の仲間として一緒に旅をしている、ケインと申します。決して、カインなどという名前ではございません」
「えっ、でもこの気配は...」
俺がそう否定するも、王女様は疑いの目を無くそうとしない。
「ねぇねぇケイン、これってどういうことっ!?」
それにアランまでも俺に疑いの目を向けてくる。
実は俺は、都合の悪いことにアランに以前王女様に会ったことを話していない。
あ~あ、やっべ~。
「姫様、どう見てもこの方はカイン殿ではありませんぞ。姿が全然違います」
動揺している俺をよそに、兵士長はそう言って俺がカインではないと否定してくれる。
しかし、今カインの姿をとっていない俺としては、みんなはそう考えるのが普通だと思う。
何で王女様にはバレたのやら...
「さあさあ救世主アラン様、ここで立ち話するのも何ですし、一度城へとお越しください」
兵士長は話を変え、俺たちを王城へ連れて行こうと、俺たちを馬車へと招く。
「王城か〜、僕行くの初めてだな〜。誰かさんは知らないけど」
「ハハハ...」
するとアランは俺に向かって、嫌味を含んでそうつぶやいた。
「とりあえず、ケインには後で話があるからね」
「へいへい...」
そしてアランはそう言って馬車へと乗り込む。
あ〜あ、あとで以前王女様に会ったことを問い詰められるんだろうな〜。
それに、
「カイン様ではない?でもやっぱり...」
王女様もまだ俺がカインだと疑ってるっぽい。
(何だよ、みんな俺とって都合よくあってくれよ〜!!)
俺はそう思いながら、馬車に乗り込み、昨夜行った王都へともう一度向かうのだった。
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さて、時は数年前にさかのぼる。
俺が王女様に初めて会ったのは、俺がまだイヨの村に住んでおり、夜にこっそりと、カインに扮して王都を行き来していた頃のことだった。
そしてその日もいつも通り、夜にカインの姿で王都の冒険者組合にいた。
「カインさんカインさん、実はですね、なんと今回この国の王様からカインさんへ王城への招待状が来ているんですよ!」
「えっ!俺なんかやらかしたっけ?」
そんな時、冒険者組合の受付の人から、こんな事実を突きつけられた。
王様からの呼び出しというパワーワードから、俺は思わずネガティブに考えてしまう。
「違いますって、招待状って言ったでしょ!実は王様の方から、前回の依頼の達成のお礼がしたいそうなんですよ!」
「えっ!あんな依頼でお礼が出るの!!もう報酬はもらってるんだけど」
実は俺は以前、王様直々に出された、突如現れた魔物の群れを討伐するという依頼を受けたことがあった。
俺としてはどうってことない依頼だったのだが、王城に招かれるということは結構重要な依頼だったらしい。
「で、でもいきなり王城ってのはな~、ちょっと心の準備が...」
俺はそう言って否定的な意思を見せるのだが、
「え~、でもせっかくのチャンスですよ!行ってみませんか?」
冒険者組合としてはなかなかない機会だからか、受付の人は妙に強く王城に行くことを勧めてくる。
「それにほら、さっき王城の方にカインさんがここに来てるって言ってきたから...」
「えっ!!おいおいなんだお前は!?」
俺が受付の人と話していると、後ろから俺の肩をたたいてくる、豪華な鎧を着た兵士が一人。
「あなたがカイン殿ですね。王様より連れてくるよう言われておりますので、ご同行願います」
兵士の方はそう言って俺の手をつかみ、引っ張っていく。
「お姉さん!もともと俺に選択権なんてないじゃないか!!」
「行ってらっしゃ~い、楽しんできてくださいね~」
俺は兵士の方に引っ張られながら受付の人に文句を言うと、そう言って手を振ってくる。
(あんにゃろ~、あとで文句言ってやる!!)
そして俺はそのまま兵士の方に手を引っ張られ、外で馬車に乗せられて、王城へと連れていかれる。
そして王城に着き、俺は馬車から降りると、
「さぁこれからカイン殿を王様の元へとご案内いたします。私についてきてください」
俺は兵士の方の案内で王城へと入っていく。
すると中は、さすが王城というべきか、上にはきれいなシャンデリアが飾られ、下にはきれいな絨毯が敷かれている。
こういったところを見ると、また俺は、異世界に来てしまったのだと思わされる。
「ささっ、カイン殿。ここから先が謁見の間でございます。先に王様がお待ちですので、どうぞ中へとお入りください」
兵士はとある大きな扉の前で止まると、そう言ってゆっくりとその扉を両手で開ける。
すると中には、左右手前に多数の兵士たちが、奥の方には大臣らしき人が数人と、王女様が立っており、そして中心の玉座には王様らしき人が座っていた。
そして俺は、そのまま招かれるがまま中へと入ってしまったが、当然ながらそういった場合の作法とかは一切身についていない。
俺は雰囲気に合わせて、真ん中に敷いてある赤い絨毯をゆっくりと歩き、たぶんこのあたりだろうというところで止まり、
(これでいいよね?これでいいよね?)
そう思いながら、ゆっくりと王様に向かってひざまずく。
「陛下、ご命令通り冒険者カイン殿を連れてまいりました」
すると俺を連れてきた兵士は、そう言って王様に報告する。
「うむ、ご苦労だった。さてお主、名をカインと言ったな?」
王様はその兵士に言葉をかけると、話を俺の方へと向ける。
「は、はい、カインです」
俺は戸惑いながらそうつぶやくと、
「うむ、カインよ、以前私が出した魔物の群れの討伐の依頼、よくぞ受け、それを見事達成してくれた」
王様はそう俺に感謝の言葉をかける。
「いえいえ、私はただ目の前にあった依頼を受けただけでございます」
俺は王様にどう喋ればいいのかよくわからず、しっかりと言葉を選びながらそう返事をする。
「いや、私が依頼を出したのが月の中頃であったゆえ、受けてくれるのはみなが天命を授かる翌月以降になると思っていたのだぞ。よく、天命を授かる前に、自分から率先して依頼を受けてくれた、礼を言う」
確かに、ほかの冒険者は月初めにもらう天命に従って依頼を受けるため、月の中頃以降に依頼を出しても、受けるのはたいてい翌月以降にはなる。
よって、この時期に依頼を受けるのはせいぜい正義感の強い奴か、それとも俺みたいな天命のもらっていない奴かのどっちかに限られる。
だから王様としても、俺のことは天命をもらう前に率先してみんなのために動いた素晴らしい人間か何かに見えているのだろう。
まぁいいように見られるのなら、そのまんまにしておこう。
「さてカインよ、今回お主をここに呼んだのは、ぜひともその感謝を形にしたいと思ったからであってな、今回こちらで宴会の場を用意したのだ。大層なパーティーとかではないゆえ、ぜひ羽を伸ばしてゆっくりと食事を楽しんでほしい」
そして王様はそう言って片手を上げると、
「陛下、お食事の用意はできております」
急に扉の前にコック長らしき人が現れ、そう言ってきた。
「うむ、カインよ、料理は食堂に用意してある。ぜひそこで料理を楽しむとよい」
王様はそう言って立ち上がると、部屋にいる全員が部屋を出ていく。
「さっ、カイン殿、食堂はこちらです」
そして、先ほどの兵士がまた俺を食堂へと案内する。
「は、はぁ...」
俺としては、たった数十分で起こったとてつもない急展開に、一向に戸惑いの感情がなくならない。
このまま流れに乗る感じでいいのだろうか?
(まぁよくはわからないけど、おいしい料理が食べられるのならそれでいっか!!)
とりあえず考えてもしょうがないため、そう割り切ることにし、俺はそのまま兵士について行くのだった。
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