王都サキトにて
第38話 徒歩って結構意味はあったらしい
「なぁ~やっぱり飛んでいこうぜ~」
何もなくただ広いだけの草原の真ん中で、俺はそうつぶやく。
現在俺たちは“特急”の魔法を使って、王都に向かいただひたすら走っている。
今まで王都には“飛翔”の魔法を使って行っていたため、現在走って王都に向かっているこの時間は、俺にとってただの苦痛でしかない。
「だから言ってるじゃんか、もしも外で魔物に襲われている人がいても助けられるように走っていくんだって」
「それは聞いたけどさ~」
アランはこんなことを言っているが、天命の影響で人の行き来が最低限になっているこの世界で、果たして外に出ている人が何人いるのやら。
外に出ているかつ、魔物に襲われている、そして倒すことができずに死んでしまう状況というごく限られた可能性のために俺たちは走って行っているのか?
そう考えてしまうと、申し訳ないのだが、馬鹿らしく思えてしまう。
しかしそんなときに限って、この移動手段が結果的に功を奏すような出来事が起こってしまう。
「ねぇ、あそこに珍しく人の影がたくさんあるよ」
それは、このアランの一言から始まった。
「んなあほな、こんな草原に人なんて...って確かに、結構な数の人間の魔素の気配があるな」
最初アランの発言に疑いを持ったが、魔素の反応から、それが事実だと認識する。
「どれどれ、“アイサイト”っと...」
俺は魔法で視力を上げて、その人影の方を見ると、確かにこんな草原に珍しく人が数十人くらいでたむろっている。
「はぇ~、珍しいこともあるもんだ」
俺は珍しすぎるこの状況に、思わず声を出して反応する。
しかし、人は人でも、俺たちがよく見かけるような人ではなさそうだ。
「おいおい、結構な馬車を引き連れてんな。どこかの貴族かなんかか?」
その人たちは、きれいな毛並みの馬に誰が見ても豪華な馬車を引き連れているところから、どこかの金持ちなのは間違いないだろう。
近くにいる兵士も結構豪華な装備をしている。
しかし、
「でも、その馬車の周りを囲っている人たちは少し貴族っぽくないなぁ。なんというか、盗賊みたいな格好だな」
「ちょっと待ってよケイン。その状況からして、盗賊で合ってるんじゃないの!?」
俺の冗談交じりのそのつぶやきに、アランが驚いたようにそうつぶやく。
「俺のほうこそちょっと待てよ、この世界に盗賊なんているのか?」
初めて聞く新事実に、俺は驚きの表情を隠せない。
人間みんなが天命を受けているのだから、盗賊なんていう犯罪者はいないと思ってたのだが...
「いるよもちろん、天命に一切従わず自分勝手に生きていることから、神に逆らいし者なんて呼ばれてもいるね」
「はぇ~、初めて知った」
「まぁそういった人は、すぐにみんなにばれて、村や町に入れさせてもらえなくなるんだけどね」
「ちょっと待てよ、それじゃあ俺の場合はどうなるんだ!?」
「まぁケインの場合は少し特殊だからね~」
俺のような、天命をもらっていないから、自分勝手に生きているという場合はどうなるのやら。
別に天命に従っていないわけではないから、セーフなのか?
「まぁそんなわけで、盗賊たちは村や町に入れないから外に出てきた人たちから食料や金品を奪って生きてるんだよ。だから本当に盗賊なら早く何とかしなくっちゃ」
そしてアランはそう言うと、腰に差している剣を抜いてその馬車に向かって走り出す。
こういうところを見ると、本当に勇者って感じだな~。
「行ってらっしゃ~い」
そんなアランを見て、俺はただ手を振って見送る。
「ちょ、ちょっと待ってよ。ケインは行かないの?」
俺の発言を聞いたアランは、走り出していた足を止めて俺にツッコミを入れる。
「俺はわざわざ行く必要なんてないんだよ」
「何言ってるんだよケイン、僕は助けに行くからね!」
のんきなことを言う俺を見て、アランは俺のことは放っておいて、もう一度馬車に向かって走っていく。
そして盗賊らしき人たちの前で止まると、
「おい!お前たちは何をやっているんだ。見たところ盗賊のようだが...」
アランはその人たちに向かってそう叫ぶ。
すると、
「なんだてめぇは!一人で来るとはいい度胸だな。痛い目見たくなきゃどっかに行ってろ!!」
盗賊の頭的存在がそんなことを言うアランに対してそう叫ぶ。
うん、まさしくテンプレである。
「あなたは一体?」
そして次に、アランの発言に馬車を守る兵士の方が反応する。
「話はあとで。とりあえずこいつらを捕まえます」
「おうおう、一人で突っかかってきた挙句、今度は俺たちを捕まえるだ?ほんといい度胸だな。捕まえられるものなら“神に逆らいし者”である俺たちを倒してみろや!!」
そして盗賊のうち2人がアランに向かって襲い掛かる。
しかし、
「はあっ!!」
アランはそんな二人を見事に切り伏せる。
「なっ、なんだこいつ!!」
まぁ、アランならこれくらい楽勝だろう、たぶん全員で襲い掛かってきても大丈夫なのではなかろうか。
それくらいアランは強いことは俺もよく知っている。
「おい!お前ら何やってんだ!くそっ、俺はお前を甘く見ていたようだ、こうなったらお前ら、全員で襲ってしまえ!!」
盗賊の頭っぽい奴はそう言って、アランに向かって全員で襲い掛かる。
そしてそんな時、俺はというと、
「せっかちだね~みんな」
目の前で戦闘が繰り広げられている光景をみて、そうつぶやいている。
「わざわざ血を流すようなことしなくてもいいだろうに...もっと平和的にやろうよ、平和的にさっ」
俺はそうつぶやくと、目の前の盗賊に向かって手を伸ばし、
「“ウィンド”!!」
そう言って、風魔法を使う。
すると、盗賊の目の前に盗賊の人数分の小さな竜巻が、盗賊一人一人を襲いだす。
「うわっ!なんだこれは?」
小さな竜巻は盗賊一人一人を上空へと押し出し。
「うわー!!」
そのまま真下へと突き落とす。
俺が飛ばした距離は大体8m。
その距離から落ちると人間はとんでもない痛みが襲い掛かるだろう。
骨折とかしてるかも...
そして次に、俺は落下した衝撃で痛がっている盗賊たちを、
「“ヒプノシス”」
遠くから魔法で深い眠りへといざなう。
すると盗賊たちは、俺の魔法で一人残らず、眠りについている。
「よしっ、終了っと。これが平和的解決だ」
俺はそう言いながら、ゆっくりアランの元へと歩いていく。
そして俺がアランの隣に立つと、
「ねぇケイン、これ僕最初からいらなかったんじゃない?」
アランがそんなことを言ってくる。
「何言ってるんだよアラン、俺はただアランの援護に回っただけさ...」
「ねぇこれって援護ってレベルじゃないよね?こういうのはさ、主力って言うんじゃないかな?」
冷静につぶやく俺に対して、アランはそうツッコみを入れる。
俺とアランがそんな言い合いをしていると、
「あっ、あのっ!!」
馬車を守っていた兵士が俺たちの声をかける。
「今回は私たちを助けていただき、ありがとうございました。あの時、馬車を守り切れなかったら一体どうなっていたことか」
兵士はそう言うと、俺たちに向かって頭を下げる。
兵士は全員で4人、そして俺たちに向かって感謝を述べているのがおそらく兵士長か何かだろう。
「いやいや、気にしないでください。僕たちはこんな時のためにいるのですから」
「こんな時、とは?」
アランの発言に、兵士長は少し困惑した表情を見せると、
「あ、申し遅れました。僕は今月より救世主に選ばれました、アランと申します」
「きゅ、救世主様っ!!」
アランは自分が救世主であり、自分が人々を助けるのは当然だと説明する。
すると兵士長は慌てた様子を見せ、
「お待ちしておりました、救世主アラン様。私たちはサキト王国の姫、マリン様の近衛兵を務めております。マリン様は天命に基づき、あなた方が来るのをずっと待っておりました」
俺たちにこんなとんでもない情報を伝えてきた。
サキト王国とは、現在俺たちがいる国の名前である。
サキト王国はイヨの村、アワの村などを領地としており、そしていつも俺たちが行っていた王都というのは、このサキト王国の王都である。
(おいおい姫様の近衛兵がここにいるってことは、まさかこの中には...)
俺は恐る恐る、馬車の方に目を向けると、
「ご紹介いたします、この方がサキト王国の姫、マリン様です」
兵士長の言葉に合わせるように、一人の女性が馬車の中から出てくる。
その女性は、きれいなロングヘアーに青髪で、姫様らしい豪華なドレスを身にまとっている。
そして、その女性は俺たちに向かってこうつぶやく。
「初めまして、私がサキト王国の王女、マリンです」
(姫様キター!!)
急な衝撃展開に、俺は驚きを隠せない。
そのまま俺は、びっくりしたような表情をしていると、
「あらっ、まさかあなたは?」
(えっ、ウソ?)
姫様は急に俺の方に目線を向ける。
いやいやそんなはずはない、俺は前の時と姿が違うはず...
しかし姫様は何かを発見したような表情で、アランではなく俺の方に向かって歩いていき、
「カイン様、カイン様ではありませんかっ!!」
「!!」
今の俺ではない、もう一人の俺の名を、姫様は俺に向かって叫んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます