第37話 現実的な道


次の日の朝、俺は眠いままの状態で起きることになった。


「ほら~ケイン起きてってば~!!」

「ごめん!もうちょっと、もうちょっとだけ!!」


まぶしい朝日が差し込む中、俺はアランにたたき起こされている。

結局、その願いもむなしく、俺は仕方なく起きることにする。


「もぉ~、昨夜何やってたの?昨日あんなに寝てたじゃん!?」

「昨日寝すぎて逆に眠れなかったんだよ~」


俺は眠い目をこすりながらそうつぶやく。

俺たちがアワの村に帰ってきたときには、もうあたりは少し明るくなっており、寝たといっても、たかが1、2時間程度しか眠れなかった。

眠くて当然である。


「さっ、もう旅立つんだから早く準備して!!」

「えっ、もうアワの村出ちゃうの!?」

「村長さんから朝ご飯をいただいた後すぐにね。だから今のうちに荷物まとめるくらいのことはしておいてよ?」


アランの言葉で、俺はしぶしぶ荷物を片付ける。


「救世主様~、朝食の準備ができましたぞ~!」


すると、遠くから村長さんの声が聞こえる。


「準備できたって、さぁ早く行くよ」

「へいへい...」


俺はアランの後ろに並んで、昨日食事をした場所へと向かう。


「おぉ、お二人ともおはようございます。昨日はよく眠れましたかな?」

「はい、とても。昨夜は泊めていただきありがとうございました」


アランはそう言って村長さんに感謝の言葉を述べる。


(俺はよくは眠れなかったかな~)


俺はそんな余計なことを考えながら席に着く。

座って目の前を見ると、そこには服装が違うだけで、それ以外は昨日と同じの村長の奥さんと、明らかに昨日より疲れた表情をしているウィルの姿があった。


(眠そうだな~ウィルも...)


俺はウィルに向かって申し訳なさそうに小さく頭を下げると、ウィルは全然大丈夫だというような表情で俺の方を見る。


今朝の朝食は、昨夜と違い話し込むといったことはなく、合間合間にちょっとした小話をはさみながら、素早く食事をすすめる。

そして、


「ごちそうさまでした!では、荷物の片づけに戻りますので失礼します」


俺たち2人は食事を終えると、すぐに部屋に戻る。

そしてただ、俺たちは黙々と片付けを再開する。


「ねぇ、もうちょっといてもいいんじゃないの?」


俺は自分の荷物を布袋に入れながら、アランにそうつぶやく。


「まぁいてもいいんだけど、さすがにこの後昼ごはんや晩ごはんまでいただくわけにはいかないよ」

「まぁ、そりゃそうか」


アランの発言に納得すると、俺はそのまま片づけを続ける。


「よしっ、準備完了っと」


俺はそう言って、いつでも出られるというサインをするかのように扉に向かって立つ。

すると、


「ねぇケイン、僕の荷物もその布袋に入れてくれない?」


アランは俺に、そんなことを言ってきた。

アランは、自分の荷物をリュックの中にうまく入れ込んでいるが、俺の方はというとなんでも入る布袋に必要なものだけポンポン入れている状況だ。

明らかに俺の方が楽をしている。


「まぁ、確かに重いリュックを背負いながら冒険ってのも普通にきついしな、別にいいよ」


俺はそう言ってアランの荷物も魔法の布袋に突っ込む。


「ありがとう、ケイン。よし、じゃあ行こうか」


俺たちは部屋を出て、村長さんに挨拶をしに向かう。

俺はアランの後ろをついて行くと、アランはそのままとある部屋へと向かう。

そしてアランは、とある部屋の前で止まると、その扉に向かって軽くノックをする。


「はい」


声を聞いて、アランはその扉を開けると、そこには村長さんの姿があった。


「村長さん、今回は本当にありがとうございました。僕たちはこれから王都に向けて旅立ちます」

「そうですか、少し名残惜しいですが、救世主様の使命を邪魔するわけにもいきません。どうか、魔王を討ち果たしてきてください」

「はい、お任せください!」


アランと村長さんはそんな会話をし、固い握手を交わす。

そして俺もそれに続いて村長さんと握手を交わす。


「では、行ってきます。今回は本当にありがとうございました」


俺とアランは部屋を出ると、そのまま玄関へと向かう。

玄関に到着し、アランがその扉に手をかけた、その時、


「ケインさん!」


後ろから、俺名前を呼ぶ声が一人。


「あぁ、ウィル。ごめん、挨拶するの忘れてたわ」


声の主はウィルだった。


「ケインさん、昨日は本当にありがとうございました。ほんの少しですが、この世界のことを知れましたし、それよりなによりケインさんと過ごして時間とても楽しかったです」

「お前は今でも、俺らと一緒に旅に出たいか?」


俺は昨日のウィルのお願いについて再度聞いてみる。


「いいえ、僕分かりました。僕がどれだけ恵まれているのかを。村長の息子という立場をよく理解することなく、ただ自分とは違う道に進んでみたいという好奇心でしか行動してなかったんです。今回でそれがよくわかりました。僕はこれから大好きなこのアワの村でしっかりと生きていきます」

「・・・そうか」


ウィルの言葉を聞いて、俺は何も言うことはないと、アランに変わってそのまま玄関の扉を開ける。


「じゃあな、ウィル。また機会があったら遊びに来るわ。そしたら二人でまた夜更かししようぜっ!!」

「はいっ、必ず」


俺はそう言って村長さんの家を後にする。


「ねぇケイン、昨日の晩、何があったの?」


アランは村の出口に向かう際中、俺にそんなことを聞いてくる。


「まぁ、ちょっとな...」

「ちょっとじゃないでしょ!絶対二人でどこか行ってたよ絶対。だから今日ケイン眠そうなんだよね?」


アランは俺のあいまいな答えに、すかさずツッコミを入れてくる。


「まぁまぁ、落ち着けよ。俺はただ昨夜のウィルのお願いが少し気になってただけで...」


それから俺は、昨日のことをアランに包み隠さず話す。


「なるほど、またケインみたいな考え方なんだね、ウィルって子」

「そうなんだよ、同士がいたと思ってすこしテンション上がったんだけどな~。俺のせいで考え方がアランみたいになっちまった」

「僕みたいってどういうことさ。現実的って言ってほしいもんだね」


俺は、ウィルに夢を見せようと思って王都に連れて行ったのだが、結果的にはスラムなどを見せてしまったせいか、ウィルを自分の手で現実的な思考に変えてしまったらしい。


俺たちはそんなことを話していると、そのまま村の出口に到着する。


「あっ、これは救世主様。もうこの村を出発するのですか?」

「はい、そんなにゆっくりしているわけにもいきませんから」


アランは門番の人にそう言うと、俺たちはそのままアワの村を出発する。


「はぁ~、もっと俺みたいに好奇心旺盛な奴はいないのかよ。このままだと、俺が変な奴みたいじゃないか」

「アランはもともと十分、変な奴だよ」

「おいアラン、それは一体どういうことだ」


俺とアランは、そのまま王都へと向かっていく。

ここから王都までは、イヨの村からアワの村とほぼ同じ距離だ、道のりは長い。


昨夜“飛翔”を使って軽々と飛んできた俺としてはどうしても思ってしまう。



えっ?この道今から歩いていくの?







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