第35話 よふかしのたび


「あっ、先ほどの話ですか?」


まだ俺は何も言っていないにもかかわらず、ウィルは話の内容が夕食での出来事だと瞬時に判断する。


「まっ、話す内容と言ったらそれだよな。で、なんでウィルは俺たちの旅について行きないなんて言ったんだ?」


ウィルの発言を聞いた俺は、前置きで何かを話すのも変だと思い、すぐに本題に入る。

するとウィルは深呼吸を一つすると、その理由についてゆっくりと語りだす。


「実は僕、来年で15歳になるんです。天命をもらっているお二人ならお分かりだと思いますが、来年僕に天命が下るんです。でも、村長の息子である僕がもらえる天命はおそらくこの村の村長でしょう。でも、僕の人生これで終わりたくないんです。一度アワの村を出て、この世界を見てみたいんです」

「おおっ!!」


するとウィルの話を聞いた俺は、驚きのあまり少し大きな反応をしてしまう。

そして、驚くとともに少し安心もしてしまう。


理由は簡単、なぜならウィルの考えが俺の考えにあまりにも似ていたからだ。


(そうだよな、15歳って大体こんな感じだよなっ!!)


今まで俺の知ってる同年代の人といえば、アランとイルルの二人くらいしかいなかったため、この世界の15歳ってみんなこんな現実的なのかと思っていたが、ウィルの話を聞いて安心する。


「そうですよね、魔王を討伐しようとしているお二人に、ついて行きたいだなんて、安直でしたよね...すいません忘れてください」


しかし、俺の反応にウィルは俺が怒っているとでも思ったのか、急に謝りだした。

ほんとは逆なんだが...


「いやいや、別に怒ったりしてないから、頭を上げて!」


それから、あまりにウィルが謝りだすので、俺もあわててウィルを止める。


「あっ、すいません」


俺が謝るのを止めると、ウィルは少し落ち着いた様子を見せ、


「あの、それで別のお願いなんですけど、今までの旅の話とか聞かせてくれませんか?夕食の際は、イヨの村の話しかしてませんでしたので...」


次に今度は大きく妥協したのか、俺にここまで来た経緯について聞いてきた。


(おいおいなんだよそれは!妥協じゃね~かよ。それに旅って言っても、ただ走ってきただけなんだけど!)


俺たちの強さをもうすでに知っている森の魔物たちは、自分から襲ってくることもないため、ただイヨの村からアワの村までを走ってきただけの俺たちは、本当に冒険らしい冒険をやっていない。

ましてや、人に話す内容なんてとてもとても...


それに、ウィルが話だけで満足しようとするのも、俺は納得したくない。

ウィルとは初対面だが、俺の抱えていた悩みを持つウィルに、俺は何もしないでハイさよならなんて、したくなかった。

ウィルには一度でもいいから、何とか外に連れ出してやりたいものだ。


「なぁウィル、」


そこで、俺はウィルに一つの提案をする。


「これから俺と夜更かししない?」



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「そうそうもうちょっとゆっくり開けて。静かにね」

「静かにって、扉を開けるときはどうやったって音出ちゃいますよ」


俺とウィルは現在、玄関の扉の前に来ている。

ウィルを先頭に俺たちは、玄関の扉をゆっくりと開けて、家の外に出る。


「よっし、外には出れたな~!」


俺は解放されたかのようにぐっと背筋を伸ばす。


「それで、どういうことなんですか?夜更かしってのは?」


ウィルは改めて俺にそう聞き返す。


「どういうことって、そのまんまの意味だよ。これから俺と二人で王都に行かないか?」

「おっ、王都に!!」


俺の提案を聞いたウィルは激しく仰天する。


「王都って今からですか?アワの村から王都までどれだけかかると思ってるんですか!?」

「えっ、15分くらい?」

「はっ!?」


今まで飛んで王都まで言っていた俺と、今まで村の外に出たことがないウィルでは、距離の感覚が大きく違っていたようだ。


「いいからいいから、いろんな世界を見てみたいんだろ?ならとりあえず今からでも王都へ行ってみようぜ!」

「ケインさん、さすがに王都までは一晩じゃつきませんって、うわっ!!」


ウィルの言い分を無視すると、俺は急にウィルの腰に手をやり、お姫様抱っこをする。

幸い、深夜ということもあり、村で起きているのは門の外にいる門番くらい。

行くなら今だ。


「さぁ、四の五の言ってないで、さっさと行くぞ」

「なんなんですか?いきなり!!」

「さぁ行くぞ!“飛翔”!!」


俺は魔法の名前を叫ぶと、魔法の壁が俺たちを覆いだし、そして大きく飛び出した。


「うわー!!なんですかこれ!!」

「静かにしろ!門番の人に聞かれたらどうするんだ!!...って声が聞こえないようにバリアー張ってるから大丈夫か」


急に空を飛んで驚いているウィルとは対照的に、俺はバリアーを張ったことで声が漏れることがなく、少し安心する。


「どうよ、始めて空を飛ぶ気分は?この魔法、俺が開発したんだぜ!」


俺はウィルに自分が開発した“飛翔”の魔法を声高らかに自慢する。


「どうですかじゃないですよ!?そういったことは事前に言っておいてください!」


俺は魔法に対して驚いてほしかったのだが、ウィルは少し別のことで驚いているらしい。

だが、


「でも、ここからの景色とてもきれいですね~!!」


ウィルも空を飛ぶことに関しては案外気に入ったらしく、興味津々でゆっくりあたりを見回す。


(この時の相手がかわいい女の子だったらな~)


楽しそうにしているウィルとは別に、俺はこんな煩悩の塊みたいなことを考えてしまっている。


しかし、男が人をお姫様抱っこした状態で、空を飛びながら夜景を見るこの状況でそう考えない方がおかしな話である。


「おい、そろそろ到着するぞ」

「えっ!もうですか!?」


ウィルが景色を楽しんでいるのも束の間、超スピードで空を飛んでいた俺たちはもう王都に到着する。


「おいウィル、これから門をくぐって王都に入るのちょっとめんどくさいから、そのままツッコむぞ!」

「はいっ!?」


俺は着陸するときに、“トランスペアレント”の魔法を俺とウィル2人にかけると、そのまま王都の中に入れるように着陸を始める。


「えっ?急に僕の体がって、ケインさん!?どこに行きました?ってほんとにそのまま入国するんですか!?」


ウィルは今、いろいろ驚くことがありすぎて、戸惑ってしまっているが、俺はすべて無視し、そのまま俺たちが透明な状態で王都の中心へとツッコむ。


「わーーーーーー!!」


バリアを張っているから大丈夫だとはいえ、もう少し静かにしてくれないだろうか。


俺は、高度に合わせてゆっくりと着陸を行う。


「おい、着いたぞ!」

「え~と...」


ウィルはいろいろありすぎてついに思考が停止してしまっている。


「あっ!!えっと、あの、ここはどこですか?」

「だから王都だって。さっき言ったろ?」

「えっ?ほんとに王都なんですか?本当に十数分で来ちゃいましたけど...」


ウィルはやっと現実に向き合い、今の状況を把握する。


「そう、ここが王都だ!お前が今まで見ることができなかった景色が、ここにはある!」

「へぇ~、ここが...」


そしてウィルは、物珍しそうにあたりを見回し始める。


「あの、ちょっと景色全体を珍しそうに見まわすのはやめてくれる?田舎からきた観光客みたいでちょっと恥ずかしい...」

「実際に田舎から来たんだからしょうがないじゃないですか!あのっ、あっちも見ていってもいいですか?」

「お、おいっ、ちょっと!」


軽い興奮状態になったウィルは、俺のことは気にせず、先先いってしまう。


まぁ俺も最初に王都に来たときはこんな感じだったし、しょうがないか...

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