第34話 少年のお願い
「...ん、あれ?」
俺はもぞもぞとベッドから起きると、とりあえずあたりを見回す。
「あ、もう夜になっちゃったの?」
意識を取り戻すと、まずあたりが真っ暗になっていることに気づく。
珍しく徹夜をしていた俺は、完全に時間の感覚がずれてしまっていた。
起きたら夜という違和感に、俺はただ茫然としていると、
「おーいケイン、もう夜だぞ、起きろ~...ってなんだ、もう起きてたのか」
俺を起こすためにアランが、ノックをして中に入ってきた。
「あ~うん、今さっきな」
「それならとりあえずこの部屋から出てきて。村長さんが晩御飯用意してくれてるみたいだから」
アランはそう言うと、まだ少し寝ぼけている俺をベッドから引きずり下ろす。
「なんだよ~今俺寝起きなんだからそう急かすんじゃね~よ!」
俺がそう文句を言いながらも、アランは俺をとある部屋へと連れていく。
アランが連れてきたその部屋には、真ん中に大きなテーブルが一つ置かれており、その上には豪華な食事が並べられている。
「お、ケイン殿、お目覚めになられたのですな?」
そしてテーブルの椅子に、すでに座っている人が3人。
真ん中に座っている人は村長だと分かったが、その両隣にいる人が分からない。
一人は村長と同年代くらいの女性で、もう一人は俺たちと同年代、いやそれ以下くらいの男性だった。
「そういえば、ケイン殿にはまだ言っておりませんでしたな。ご紹介します、ケイン殿から見て私の右に座っている女性がうちの妻で、左が私たちの息子でございます」
(そういえばここって村長さんの家だったな。家族もいて当然か)
奥さんは、金髪のロングヘアーで、その息子さんは、黒寄りの髪色で、低めの伸長をしている。
俺はその二人に軽く挨拶を交わすと、俺とアランは空いている席へと座る。
「村長さん、今日は村を案内していただいてありがとうございました」
「いえいえ、楽しんでもらえたのであれば結構です。本当はケイン殿にもこの村を知ってもらいたかったのですが、また次の機会にでも...」
アランは急に俺の知らない話を始める。
「なんだよ、お前俺が寝ている間、村長さんからこの村のことを紹介してもらってたのか?」
「まぁね、アランがぐっすり寝ていたから、僕だけこの村を楽しませてもらったよ」
アランの奴、俺以上に旅を楽しんでやがる。
俺と違って嫌々旅に出たんじゃなかったのか?
「さぁさぁお二人とも、お腹もすいたことでしょう。ぜひ、お食事をお楽しみください」
村長さんは俺たちの会話を遮ってそう言うと、座っている人が全員、一斉に食事を始める。
今日、昼ご飯をとっていなかった俺にとって、この食事はとてもありがたい。
お腹の減った俺は、いつも以上においしく感じてしまう。
そういったこともあり、俺は楽しく食事をしていると、
「ところで、お二人はどういったご関係なのですか?同じイヨの村の出身とか?...」
村長の奥さんが、興味津々で俺たちに、さまざまな質問をしてきた。
俺たちの関係やイヨの村についてなど、奥さんは様々なことに興味を持ってくれ、俺たちもできる限り答える。
ただし、天命をもらっていないにもかかわらず、俺がアランと一緒に旅に出ているここにいることは内緒で...
そして、俺たちがその質問に答えると、奥さんだけじゃなく、村長さんやその息子も楽しそうにその話を聞いてくれる。
そんなこんなで楽しく食事は進み、食事の時間はあっという間に過ぎていった。
「いや~楽しいお話を聞かせてもらいました。では、もう夜も遅いことですし、お二人とも今日はゆっくりとお休みください」
そして村長さんがそう言ってくれたので、食事を終えた俺たちは、お言葉に甘えて、休むためにさっきの部屋に戻ろうと席を立つ。
その時だった、
「あ、あの!!」
俺たちを止める人が一人、
「そのっ、ぼっ、僕もお二人の旅に連れて行ってはいただけませんでしょうか?」
勇気を振り絞ったようにそう言ってきた人は、村長の息子さんだった。
「おいウィル!お前なんてことを!!」
自分の息子をウィルと呼んだ村長さんは、慌ててウィルの口をふさぐ。
「ふぐっ、やめてよ父さん。僕は一回、いろんな世界を見てみたいんだ!」
ウィルは、全力で村長さんの手を振りほどき、そう叫んだ。
「いい加減にしなさい!!あはは...お二人ともさっきのことは気にせず、ゆっくりお休みください」
村長さんは、もう一度息子の口をふさぎ、今度は全力でウィルの体を封じると、俺たちにそう言ってくる。
俺たちとしても、家族内での揉め事に関わるのもなんだと思い、村長さんの言う通りさっきの部屋へと向かう。
「ふぅ~、今日はいろいろあって疲れたよ」
部屋に入ると、アランはそう言いながらベッドに腰掛ける。
「まぁ俺はさっき寝たばっかだけどな。それにしても、村長さんの息子さんはなんで俺たちの旅についていきたいだなんて言いだしたんだ?」
そして俺は先ほどの、旅についていきたいと言い出したウィルの話を始める。
アランの旅に気軽についてきた俺が言うのもなんだが、アランの旅は魔王討伐の旅だ。
そう簡単に、ついていきたいだなんて言うのも変な話である。
特に、魔物という脅威があるこの世界の人ならなおさらだ。
「さぁね、でもやっぱり僕としてはついてくることはお勧めしないよ。自分からついて行くだなんて言う人は、ケインみたいな化け物で十分だ」
「お前、それは一体どういうことだ?」
俺はそのアランの発言に、敏感に反応する。
「いやいや、別に深い意味はないよ。さっ、明日の朝にはこの村を出たいし今日は早く寝よう?」
アランは俺の質問をはぐらかし、さっさとベッドに入ってしまう。
なに、俺ってそんなにやばい奴に見られてるの?
-------------------------------------
あれから何時間たっただろうか。
アランはベッドに入った後さっさと寝てしまい、現在熟睡中である。
そして、そんなアランの横のベッドで寝ている俺はというと、
(眠れん!!)
俺は心の中でそう叫んでいた。
昼の間に村を徘徊していたアランと違い、俺は昼から夜までの間、ベッドで爆睡していたのだから当然といえば当然である。
しかし、このままだと俺は夜型の体になってしまう。
「とりあえず、散歩にでも行くか...」
俺はひとまず、寝ることをあきらめむくりと起き上がると、外に出ようと部屋を出る。
そして暗い廊下をゆっくりと歩いていると、
「おっ、この部屋って...」
俺は通りかかった、とある部屋に興味を持つ。
そしてその部屋の扉には、“ウィル”と書かれたネームプレートがかけられている。
俺は少し立ち止まって考え込んでいると、意を決したように扉に近づき、扉に向かって小さくノックをする。
「はっ、はいっ!!」
扉の奥ではノックに驚いたのか、夜の雰囲気には合わない大きな声で返事をする。
まぁこんな夜中にノックをする人なんてまずいないため、驚くのも無理はない。
返事を聞いた俺は、ゆっくり扉を開けると、
「あれっ!ケインさん、どうしてここに?」
そこには驚いた様子を見せるウィルが、ベッドの上で座っていた。
「あっ、ごめん。これから寝るところだった?」
「いえっ、さっきまで少し考え事をしていたので、全然気にしないでください」
ウィルの発言を聞いた俺は、安心した様子で中に入り、そっと扉を閉めてこう言った。
「ウィル、だったよね?ちょっと少し、時間いいかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます