アワの村にて
第33話 はじめての村
俺たちが森の中を突っ走ること数時間、
「はい、森の出口にとうちゃ~く」
やっと森の中を抜け、いつも見慣れた広大な平原にたどり着く。
「なんか僕たち慣れてきてるよね...」
やっと冒険の旅に出かけることができたにもかかわらず、今まで通ってきた道が見慣れているところばかりであるため、イマイチ新鮮味に欠けてしまう。
「そういえばさぁケイン、僕たちってアワの村って一回も行ったことないんじゃない?」
アランは、森を抜けたところにある村を指さしながらそうつぶやいた。
「まぁ確かに、今まで行く用事もなかったもんな~」
俺も、アランに賛同するようにそうつぶやく。
イヨの村と王都の間に位置しているアワの村、俺たちにとっては休憩にもってこいの場所ではあるのだが、今まで中に入ったりするといったこともなく、いつも通り過ぎていた。
しかし、それには理由がある。
「まぁ、そもそも俺たちが行こうとしても入れないからな」
何度も言うがこの世界は天命がすべてだ。
人間たちは天命に言うことに従い、この世界を生きている。
まさに、俺たちがアワの村に行かなかった理由はそれだった。
そう、この世界のどの村や国においても、入り口には門番が立っており、その門番にはこの場所にどんな人が何人来るのかなどを、天命が教えてしまっているのだ。
そのため、アワの村に行くという天命が下っているどころか、今まで天命すらもらってこなかった俺たちが、アワの村に行っても門前払いされてしまうのがオチなのだ。
すると、その事実を聞いたみんなはこう思うのではなかろうか。
じゃあなんで王都には俺たちは入れてるの?と、
一見ややこしそうな事情がありそうだが、理由は簡単だ。
この質問の答えは、俺の持っている冒険者カードが握っている。
「王都だったら、冒険者カードを見せるだけで中に入れるんだけどな~」
冒険者組合のある王都では冒険者の出入りがとても激しい。
そのため、いちいちどんな人が来るのか確認できない王都では冒険者カードを見せるだけで中に入れるのだ。
こういった理由もあり、今回も俺たちは中に入ることなく、アワの村を通り過ぎようとした、その時。
「ねぇケイン、せっかくだから今回はアワの村に行ってみようよ!」
アランがそんなことを言い出した。
「何言ってんの、だから俺たちじゃ中に入れないって」
そんなアランの言葉に俺はそう反論するが、
「ふっふっふ...あらケインさんお忘れですか?今私にはこの世界を救うために旅に出ているのですよ?」
「わお!忘れてた」
そのアランの一言で俺は納得するのだった。
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「「こんにちわ~」」
俺とアランはアワの村の門の前に立ち、門番の人にそうあいさつをする。
「君たちは?今日は誰も来る予定はないはずだが...」
すると門番の人は、俺たちにそう言って警戒の態度をあらわにする。
いつもの俺なら、この時点であきらめて、回れ右をして去っていくのだが、今回はちゃんとした大義名分がある。
だから俺は、門番に向かって大きな声でこう言ってやった。
「何を言っているのですか、あなたはこの方をご存じないのですか?何を隠そうこの人は、神様によりこの世界の救世主として選ばれたアラン様でありますよ!!」
「な、なんですと!!」
門番の人は俺の発言で一気に態度を変えると、
「す、少しここでお待ちくださいっ!!」
慌てた態度で村の中に入っていく。
「あぁ~気持ちいいな、これ!」
「ケ、ケイン、これ僕すごく恥ずかしいんだけど...」
気持ちよさげにそうつぶやく俺を横目に、アランは顔を赤くしてこう言うのだった。
―数分後―
門番の人が慌てた様子で、俺たちのもとに駆け寄ってくる。
「先ほどは失礼しました。どうぞお入りください。村長がお呼びです」
門番の人はそう言うと、俺たちのために村の門を開けて中に入れてくれた。
「救世主ってのはすごいんだな!!俺初めてお前が本当に救世主なんだって実感したよ」
「こんなので実感してほしくないよ...」
俺はハイテンションでアランにそう言うが、対するアランは逆にテンションが低めだ。
俺たちは門番の人に案内されるがまま、周りの家より少しばかり大きな家へと到着する。
「ここが村長の家です。どうぞお入りください」
そのまま流されるがままその家に入ると、大きな客間らしき部屋に案内される。
「少ししたら村長が来ますので、そのままお待ちください。では、私はこれで」
門番の人はそう言って部屋を出ていく。
数分の間、ただ何かをするということもなく、アランと小話をしながら待っていると、扉の奥からノックの音がして、中に入ってくる男性が一人。
「あなた様が救世主様でありますな?」
その男性は俺とアランの顔を見ると、アランの方が救世主なのだと瞬時に判断し、アランの方を見て、そう尋ねる。
その男性は、身長は160センチくらいで、黒髪だが白髪も結構目立つ50歳くらいの男性だった。
「は、はい、そうです」
「申し遅れました、私はこの村の村長をやっております。救世主様がイヨの村で誕生したことは天命より教えていただきました。どうぞご見知りおきを」
村長は、丁寧に頭を下げて、そうあいさつを行う。
(神はアランの顔の特徴とかも教えちゃってるのか?)
顔をを見ただけでアランが救世主だと判断できてしまうのは普通にどうかと思う。
こんなんじゃ、アランのプライバシーもへったくれもありゃしない。
「は、初めまして、僕が救世主に選ばれたアランといいます。そして隣が僕の仲間の...」
「ケインです、よろしくお願いします」
俺たちも村長のあいさつ返すように丁寧に頭を下げて挨拶を行うと、
「それでアラン様方は一体この村にどのようなご用件で?」
村長は話を変え、俺たちの目的について尋ねてきた。
「あ~えっと、その...」
今回俺たちはこの村に、救世主という体で来てしまった。
今さら興味本位で来てみました、なんてとても言えない。
「あの、北の森を抜けた時にこの村を発見しまして、とりあえず休憩にと...」
俺は村長にとっさの思い付きで出た、苦し紛れの言い訳をすると、
「なるほど、確かにイヨの村とこの村の距離は結構なものですからな。何泊もかけてここまでいらしたのでしょう。本当にお疲れさまでした」
村長がそう言って俺たちにねぎらいの言葉をかけてくれる。
言えない、実は魔法を使って、たった数時間でここまで来てしまったなんて...
「さぁさぁ2人とも、お疲れでしょう。とりあえず今日は家の部屋をお貸ししますのでゆっくりと休んでください」
村長はそう言って俺たちをとある部屋へと案内する。
その部屋は、日本で言うと少し贅沢して泊まるホテルの部屋くらいの大きさで、大きなベッド2つににテーブルと椅子、そして小さなタンスが置かれている。
「今日はこの部屋をお貸しします。この部屋では基本何をしてくれてもかまいませんので、今日はここでゆっくりとお休みください」
「いいんですか!?ほんと何から何まですいません」
アランは村長に感謝を述べると、
「別に気にしないでください、神様より、救世主様が現れたら丁重にもてなすようにと言われておりますので」
村長はそう言って謙遜し、部屋を後にする。
「救世主様ってのはスゲーんだな...」
今まで、救世主といっても俺はもともとアランを知っているため、あまり重要性というものを感じてこなかったが、今回の一件でそのすごさをを実感した。
「ひゃっほ~い!!」
俺は部屋に置かれた2つのベッドのうち、一つに向かって思いっきりダイブする。
すると、
「あ~やべっ。急に眠気が...」
ベッドに飛び込み、少しリラックスした俺は、急に今まで積み重なった眠気が一気にやってくる。
「アラン、ごめん。俺限界やわ。とりあえず夜になったら起こしてくれ」
魔法で突っ走ってきたこともあり、現在の時刻はまだお昼時である。
俺はアランにそう言い残すと、今まで徹夜をしていた俺は、一気に夢の世界へと行ってしまうのだった。
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