フタナノ地方編

第32話 で、これから何するの?


俺とアランの、魔王討伐への旅が始まった。


そして俺たちは現在、イヨの村とは反対の方角である南を向いて歩いている。


村を出たあとは、魔物と戦って経験値を得ながら、次の村を目指していく。

やっとRPGっぽくなってきた。


あとはそのまま、シナリオ通りに物語を進めるだけなのだが、俺はその時、重要なことをについて考えてないなかったことに気づく。


「えっと、アラン...それで、俺たちってこれからどうすんの?」


そう、俺は物事を進めるうえでとても重要なことである、目的を一切考えていなかった。


俺は今まで、イヨの村を出るまでしか考えておらず、「アランについていけば何とかなるでしょ」という楽観的な考えでここに来ていた。


我ながら適当な考えだなと、今さらながらに実感する。


本当のRPGなら、イベント的なものが発生したりして、やることが決まったりするのだが、残念ながらここはゲームの世界ではない。

勝手に目的が湧いて出てくるわけではないのだ。


それに俺たちは、すでに結構な数の魔物と戦ってきており、レベルが1というわけでもなく、もう結構いいレベルだ。

そこまで魔物と戦う必要もない。


そのため、俺としては本当に、まず何をすればいいのかわからないという状態なのだ。


「おいケイン、それはさすがに適当過ぎない?...」


隣のアランも、俺の場違いな発言にあきれた様子を見せる。


さっきの冒険の始まり的なムードも、もうとっくにどこかに行ってしまったらしい。


「うん、その、ごめん」


俺もあまりの自分自身の計画性のなさに、ただ謝ることしかできなかった。


「まぁ僕もケインには何も言ってなかったから、分からなくて当然といえば当然だけどさ...でも何するか分からないのに、よく僕についていこうと思ったね」


アランは俺の考え方自体に疑問を持っているが、そういったところはおそらく、前世の影響が色濃く出ているのだろう。

分からないならとりあえずやってみるか精神で何とかなってしまう、日本ならではの発想だ。


この世界だと、間違って一回でも魔物に遭遇してしまったら死んでしまうような世の中なので、そこに大きなずれが生じるのは仕方がない。


「まぁいいや...じゃあとりあえず、これから僕の言うことをよく聞いてケイン」


アランは何かをあきらめた表情をすると、俺にこれからすることを説明し始める。


「とにかく、僕たちがするべきことは、まず仲間集めだ!」


そしてアランは、はっきりとそう発言するが、


「へぇ~、面白そうじゃん。でもコミュ力とかないから俺は無理だわ。アラン、任せた!」


仲間集めという、いかにもコミュ力が必要そうなイベントを聞いて、俺はすぐにアランにバトンを渡す。


「投げやりになるのが早すぎるよ!もうちょっと頑張る気持ち持とうよ!」


するとアランがまた俺にあきれた表情をしながら、そうツッコむ。


「それにケイン、安心してよ。もう仲間になる人の内容は天命でもらってるし、そしてその人たちも僕たちの仲間になるっていう天命をもらっているはずだから、あとは会いに行くだけでいいはずだよ」

「あっ、もうそこまで決まってるのね...」


めんどくさがりつつも、「仲間集め」という面白そうなワードに少し興味を持っていた俺だったが、そこまでガチガチにすること決まっていると、気持ちも冷めてしまった。


さすがは天命、そういったところには抜かりがない。


でも話の内容的に、なんか出会い系みたいだな...


「えっ、じゃああとは俺たちが仲間になる予定の人のところに迎えに行けばいいってこと?」

「そう、そゆこと。とりあえず最初の仲間は王都にいるらしいよ。まずはそこに行ってみようよ」


俺の質問にアランがそう答えると、何とも言えない違和感を覚えてしまう。

なんか冒険というより、前からすることが決まっている修学旅行みたいな気分だ。


「あ~そうなの?じゃあ早く行こうぜ」


さっきまで冒険を楽しもうと歩いて進んでいたが、急に俺は投げやりになり、もう飛んで行ってしまおうと、“飛翔”の魔法を準備し始めるのだが、


「あ、待ってケイン!神様に外に出ればどこにでも魔物がいるから、襲われている人がいないか観察しながら進むように言われているんだ。だから歩いていこう」

「おいおいなんだよその制約は!?別に俺は縛りプレイがしたいわけじゃないんだぞ!」


俺の抱く冒険に対するイメージとのあまりの違いに、俺は少しイライラし始める。


「しょうがないじゃん!僕たちは勇者一行なんだから。みんなを助けながら冒険を進めていかないと」

「お前、なんでも勇者だからっていう理由で許されると思うなよ!」


なぜか俺はいつもよりイライラしている気がする。

気のせいだろうか...


「そういえばケイン、なんか目にクマができてるけど、大丈夫なの?」

「あっ」


そのアランのつぶやきに俺はあることを思い出す。


(そういえば俺、寝てないんだった)


さっきまで立て続けにいろいろあったため、この事実を完全に忘れていた。


俺は昨晩、一睡もしていないことを思い出すと、急に眠気が襲ってきたような気がしてきた。


「やばいアラン、俺今めっちゃ眠たい。俺昨日一睡もしてないんだった」

「えっ!何やってるんだよケイン、旅立ちの時くらいちゃんと寝なよ!!」


こいつ、一発ひっぱたいてやろうか。


アランの旅立ちに合わせるために急いで準備したのに、この言われてしまっては、さすがに腹が立ってしまう。


「やばい、きつくなってきた...アラン、とりあえず森を抜けよう。“別に特急”くらいは使ってもいいだろ?」


俺は早く森を抜けようと、“特急”の魔法を使っていいかを聞いてみる。


「まぁ、それくらいなら...」


するとアランは、俺の様子を見かねてか、しぶしぶ了承する。


「よし、そうと決まったら早く魔法で突っ走るぞ!!」


俺はそう言って自分に3つの魔法を重ね合わせた“特急”の魔法を使用する。

しかし、


「あ、あのっ、ケイン...」


アランが静かに俺の名を呼ぶと、


「僕、剣の特訓しすぎて、あまり魔法を使わなくなっちゃったもんだから、5年前より僕の魔素量落ちちゃってて、あまり自分の魔素を使い切りたくないかな~って...」

「おい」


俺に衝撃的な告白をしてきた。


「お前何やってんだよ、これから魔王倒すんだろ。こんなところで自分の魔素出し渋ってどうするよ!!」

「だって“特急”って結構魔素使うじゃん、この後魔物と戦うかもしれないし、使い切りたくないよ」


確かに“特急”の魔法は3つの魔法を同時に使用するため、ほかの魔法と比べると結構な魔素を消費する。

その上、それを目的地に合わせて何時間も使い続けるため、消費量がでかいのは分かる。


しかし、この広大な土地を徒歩で冒険するのはあまりにも無謀すぎるぞ。


「これは後で特訓だな...とりあえず今回はお前の分も魔法をかけてやるから、まずこの森を抜けさせてくれ」

「ごめーん、ほんとありがとう」


俺はアランに魔法の特訓をすることを約束させると、今回はとりあえずアランに魔法をかけてやることにする。

宿題を見せてもらった時の友達のようなノリだが、まぁとりあえず今回は良しとしよう。


俺はアランにも“特急”の魔法をかけると、俺たちは俺を先頭に、一気に走り出す。


「“特急”を使うのなんてひさしぶりだー、ひゃっほ~い!!」

「遊ぶな!早くついてこい」


俺は久しぶりの“特急”にテンションが上がっているアランに尻目にかけながら、まっすぐ前に向かって突っ走る。


早く森を抜けださなければ。

俺が今かなえたい願いはたった一つ。


(なんでもいいから早く寝かせてくれっ!!)


ただそれだけなのだ。





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