第31話 さぁ、冒険の始まりだ!!


「遅い!!」


村を出て数時間、今の俺の心情を表すならその2文字で十分だった。

現在俺はアランが旅立つために、村を出てくるのをずっと待っている。


そう、ずっと待っているのだ、ずっと、ず~っとである。

かれこれもう2時間は経過しようとしている。


「ねぇマジで何やってんのあいつ、もう俺限界なんだけど!!」


昨夜は旅立つ準備のために徹夜をし、今はケインに会うためにずっと森の中で待機している。


(なんか俺の待遇悪くないか?)


さすがにここまでくると、俺もそう思わざるを得ない。


これが本当に冒険への旅立ちのシーンなのだろうか?

どんなシナリオライターでも、こんな仲間を待つために、旅立ちが1時間ほど遅れてしまうシーンなんて書いたりはしないだろう。


「あーもうやってらんねぇ!!」


俺もさすがに堪忍袋の緒が切れる。


現在の俺のコンディションは最悪極まりない状態だ。

頭は痛いわ、イライラするわ、そしてとにかく眠い!!


徹夜明けという最悪の状態では、イライラが限界を迎えるのも時間の問題だった。


今までやらない方がいいと思っていたが、イライラが通り越してしまった俺は、使わないでいた禁じ手を使うことにする。

俺は、あたりで一番高い木によじ登ると、


「“アイサイト”!」


そう叫び、自分の目に魔素を集中し始める。


すると、なんということでしょう、今まで村の門がかすかに見えるくらいの視力だったのが、今では村の奥の方まで見えるではありませんか。


視力をコントロールできる魔法“アイサイト”を使った俺は、アランの様子を遠くから見ることにする。


はたから見れば完全にストーカーだが、ここは幸い誰もいないことだし、良しとしよう。


俺はその視力を上げた目で、アランの家に目を向けると、アランはまだ家に出ていないことを確認する。


「あのやろっ!まだ家出てね~のか!!」


ここまで待っても、家を出ていない様子を見て、俺はさらにイライラが増す。


「なんなんだよ、もう!これなら少しでも寝ておけばよかった!!」


現在のアランの状況を確認することで、俺は後悔の念がよぎり始める。


そしてそのあと数分くらいたったくらいだろうか、急に村の様子が一変する。

さっきまで、ただアランの家の前で立っていた村人が、急に手を上げたり、拍手をし始めた。


「おぉ、やっと来たか...」


今まで待ちわびた光景を見て、俺はやっと安堵の表情を浮かべる。

家の前の扉に、やっとアランの姿が見えたのだ。


そしてアランは、のんきに村の人に頭を下げながら、村の門へと歩き出す。


「ちんたらやってるんじゃね~よ!早く来いよ!!」


今の俺は完全に短気になっていた。


さまざまことにイライラし、ついにはアランの村人に対する対応の遅さにすら、腹が立ってしまっている。


ただ、村の人にあいさつしているだけなのに...


アランはなぜか、感慨深そうな表情を浮かべているが、俺にとっては知ったこっちゃない。

村から出てきたら、真っ先に文句を言ってやる!!


俺はそう思うと、上っていた木からぴょんと飛び降りて、アランがここにやってくるのをただただ待つ。


アランは感傷に浸っているだろうが、俺としてはそんなムードなんか関係ない、ここは一発ガツンと言ってやる!!


そして、アランが村の門から出てくるのを確認すると、俺はすぐさまダッシュでアランの元へ駆け寄る。


そして今までのイライラをのせて、こう言った。


「おいアラン!お前来るのおせーんだよ!!」


そんな俺の行動に、アランはただ無言でこっちを見ている。


そのままずっと無言でいるアランを見て俺は、アランも俺と同じく、気でも狂ったのではないかと思っていると、


「ケ、ケイン、どうしてここに...?」

「あっ」


俺はアランに、俺も旅についていくことを言っていなかったことを思い出す。


そう考えると、今までの俺の行動は、待ち合わせの約束をしていないにもかかわらず相手が来るのを待っているストーカーと同じだった。


「あ~はは...」


そのことに気づいた俺は、急に冷静になって薄笑いを浮かべる。

そしてしばらくの間、無言の時間を過ごすと、


「待ってたんだよ、お前が来るのをよ...」


俺は少し恥ずかしそうにそうつぶやく。


その時にはすでに、アランが来なかったことへのイライラより、勝手に自分で勘違いしていたことによる羞恥心が勝っていた。


そして、


「俺もお前の冒険についていくことにしたから...よろしく」

「えっ!!」


今になって、俺も冒険についていくことを、当の本人であるアランに伝える。


自分で言うのもなんだが、これは報告が遅すぎる。


アランも急にその事実を突きつけられて困惑しているのか、無言のまま動かない。

すると、


「えっ!?」


急にアランの目から、小さな涙がこぼれ始めた。


「おいおい、どうしたんだよ急に!報告するのが遅かったのは悪かったって。だから機嫌直せよ。別にいいだろ!俺が何しようと。俺天命もらってないわけだし...」


涙を流すアランを見て、俺も戸惑ってしまい、アランに謝っているのか、言い訳しているのかよくわからないような言葉を発してしまう。


しかし、そんな時間をしばらく過ごしていると、


「ほんとに、僕についてきてくれるの?」


アランが一言、そうつぶやく。


「なんだ、俺がいると邪魔か?」

「いや、そんなことない...うれしいよ、とっても」


アランはそのまましばらく、涙を流しながら立ち尽くのだった。



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「落ち着いたか?」

「う、うん、もう大丈夫」


アランが涙を流し始めて数分後、やっと落ち着いてきた様子を見せ始める。


「でもケイン、本当にいいの?僕の天命に付き合ってもらっちゃって」

「別にいいんだよ、ちゃっちゃと魔王を倒して、はやくイヨの村に戻ろうぜ」

「ケインなら、本当にちゃっちゃと倒しちゃいそうだね...」


なぜか知らないが、イルルだけでなくアランにも、俺が化け物か何かに見えているらしい。

自分で言っておいてなんだが、そんな簡単に倒せちゃったら苦労はしないのではないだろうか。


アランは気持ちを切り替えるようにふぅと大きく息を吐くと、


「でも、ほんと心強いよ、これからもよろしくね、ケイン」


そう言って手を差し出してきた。


「あぁ、よろしく」


そして俺もそう返事をして固い握手を交わす。

すると、


「あれっ、そのブレスレットって...」


アランが俺のつけているブレスレットに興味を持ち始める。


「あぁ、これは今朝村を出る前にイルルからもらって...ってお前もつけてるじゃん!!」


俺は、自分のつけているブレスレットに目をやると、アランも同じようなブレスレットを持っていることに気づく。


「なんだケインももらってたのか。僕もイルルからもらったんだよ」


イルルは今日のために俺とアラン二人分のブレスレットを用意してくれていたらしい。


また俺とアランでお揃いのブレスレットとは...イルルも粋なことをしてくれる。


このブレスレットに強大な魔素が込められていることは、とりあえずアランには黙っておこう。


「それじゃ、イルルのためにも早く冒険を始めるとしますか!」


俺はこの流れで、自分の足をイヨの村から反対の方へと向ける。


やっと始まる、俺とケインの、新たな冒険の旅が...


それは俺にとって、何者にも縛られない、自由な非日常の始まりでもある。

この瞬間は、人生においてとても大きな1ページとなるだろう。


「うん、始めよう。僕たちの冒険を!!」


俺とアランはすっきりとした表情を浮かべながら、そのまま歩き出す。



さぁ、俺たちの冒険の始まりだっ!!


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