第30話 アランの旅立ち
「あ~よく寝た~」
僕はベットの上で大きく背伸びをする。
今日が救世主としての新たな旅立ちということもあり、昨日は早めに布団についた僕は、とてもすっきりした状態で、朝を迎えることができた。
それに天気は、雲一つない晴天ときたもんだ。
今日は本当に僕にとって、絶好の旅立ち日和といえるだろう。
僕はすっきりした様子で、リビングへと向かうと、
「あら遅いわよアラン、早くご飯食べちゃって!!」
お母さんとお父さんはとっくに朝食を取り終えており、テーブルには僕とイルルの分の朝食のみが残っている状態になっていた。
しかし、リビングにはイルルはおらず、まだ寝ているのかと考えていると、
「ただいまー!!」
イルルの声が部屋からではなく、玄関から聞こえた。
「ちょっとイルル遅いわよ、2人とも早く食べちゃって!」
「うん分かった、いただきまーす!」
急ぎ足でやってきたイルルはすぐさま椅子に座り、僕と同じく朝食を取り始める。
「イルル起きるの早いね、今まで何やってたの?」
「あ~まぁちょっと...ね。それより家の前見た?村の人がたくさん集まってきてるよ!」
「えっ、もう!」
僕が勇者になったということは、村のみんな知っているとはいえ、少し盛り上がりすぎではないだろうか。
ここまでみんながノリノリだと、当の本人である僕の方のテンションが下がってしまうというものだ。
「ご馳走様!!」
僕は急いで朝食を取り終えると、すぐさま今まで準備していた荷物を僕の部屋から運び出す。
荷物といっても、これから冒険に出かけるわけだから、大きなリュック一つを背負い、僕がいつも使っている剣を腰につけていくだけ。
荷物も準備し終わり、あとは出発するだけとなった。
しかし、それなのにもかかわらず、なぜかそわそわしてしまう自分がいる。
そんなことをしていると、僕は急に古い記憶を思い出す。
(懐かしいな、5年前にケインが王都に1泊2日で行くぞって言った時も、荷物準備で来てるのに出発する前にそわそわしたっけ...)
やはり人生の転換期の際は、なぜか今までの人生を振り返ってしまうらしい。
特に楽しかった、よかったなと思えるような思い出を...
そんなこんなで僕が感慨にふけっていると、
「アラン君...」
イルルもそわそわした様子で、僕に話しかけてきた。
「あの、これ受け取って。私が作ったお守りなんだけど...」
イルルはそう言って僕にブレスレットのようなものを差し出してきた。
「いいの?ありがとうイルル、大切にするよ」
僕としては、そんなイルルのプレゼントを受け取らないわけもなく、そう感謝を述べながら笑顔で受け取る。
そのブレスレットは、ただのベルトに丸い貨幣のようなものがくっついており、そこには謎の文様が刻まれていた。
ブレスレットを受け取った後、僕としては本当にすることもなくなり、ついに出発の時が訪れる。
(いよいよか...)
僕は様々な感情を抱えたまま、
「じゃ、いってくるよ」
家族3人に、そう言うと、
「しっかりと神様の言うことを聞いて、頑張ってくるのよ」
「アランなら大丈夫だ、しっかり魔王を打倒してきなさい!」
始めに両親2人が、そして後に続いて、
「アラン君、私は冒険には行けないけど、2人で頑張ってきてね」
イルルがそんな言葉をかけてくれる。
イルルの2人でという言葉に引っ掛かりはしたものの、僕としてはこんな時に何か言うのも野暮だと思い、気にしないでおく。
「それじゃ、行きますか!!」
僕は玄関の扉の前でそう言うと、ゆっくりと扉を開ける。
いつもより重く感じる玄関の扉をゆっくりと開けた時、僕が最初に感じたのは、人が密集していることによる騒がしさだった。
「うわ~、これみんな僕のために来てくれたのか!?」
家の外には、村中の人全員がいるといってもいいくらいの人が集まっていた。
みんな救世主である僕のために集まってくれたのだろう。
(こんなに人がいたんじゃ、ケインの顔も見られそうにないな...)
しかし、この様子を見て、最初に僕が感じたのは、うれしさより、最後にケインに会えないという寂しさだった。
一昨日の夜に、ケインに言いたいことは全部吐き出しはしたが、やはり最後には少しでも会いたかったという思いが残ってしまう。
(まぁケインには言いたいことは言ったし、最後に会う必要もないか。それに最後に会っちゃうと、別れるのが嫌になっちゃいそうだし...)
僕は自分自身にそう言い聞かせながら、村の外へ向かって歩き出す。
「がんばってこいよ~アラン」
「救世主様、いってらっしゃ~い」
「魔王をしっかりと打つ果たして来てくれー!」
僕が人ごみをかき分けながら進むと、いたるところでそう言った激励の声が聞こえてくる。
そんな様子を見ていると、本当に神様の影響力の高さというものに驚かされる。
今まで夜にだけ、魔法を使ってこそこそ村の外へ出ていた今までの自分がウソみたいに感じる。
人ごみから抜け出すと、僕の目の前には村の出口がくっきりと映った。
そして村の人たちは、村の出口に向かっていく僕の背中を見て、大きく手を振ってくれている。
これで本当に最後...目の前の門をくぐれば、魔王討伐の旅が始まる。
僕は様々な感情を抱きながらも、決意を固め、門番の人にも見送られながら、村を出ていく。
「始まったな、長い長い冒険が...」
僕はそのまま歩き続ける。
いよいよ始まったのだ、僕の魔王討伐への冒険が...
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現在僕は、村を出たところにある森の中を、ただまっすぐに進んでいる。
冷静になって考えてみると、今までこっそり村の外へ出てきた僕にとって、村を出ただけじゃ、冒険の新鮮味が感じられなかった。
「これじゃ、いつもケインとしていたこととあまり変わらないじゃないか...」
僕は小さくそうつぶやく。
やはりどうしても、今までの思い出が、僕の頭の中を支配してしまう。
今は思い出すべきではない、大事な大事なその思い出を...
結果的に、僕が旅立つ前も旅立った後も、真っ先に考えているのは、ケインのことだった。
こんな時に、いや、こんな時だからこそ、自分にとって大事なものを考えてしまうのだろう。
今まで当たり前だったものが今はない、その現状がどんだけ恐ろしいことなのか今になって気づかされる。
「やっぱり、一人は寂しいな...」
僕は不覚にも、旅立ってだってすぐにもかかわらず、下を向きながら、こんな弱音を吐いてしまった。
こんなことでは、自分としても幸先不安になってしまう。
(これは本当にやばいな)
自分としても、さすがにこれはまずいと思い、とりあえず下を見ずに、前の方をまっすぐ見る。
すると、
「えっ、あれって...」
僕は最初、目の錯覚だと思った。
目の前に映るその光景が...
僕の心はついにここまでやばくなってしまったのかと、一瞬冷っとしたほどだ。
しかし、何回見ても変わらぬその光景に、僕はいよいよ信じざるを得ないと自覚する。
目の前に映る、いるはずのないその人の存在を...
その人影は、僕の方を見たかと思うと、急にダッシュでこっちのほうに近づいてくる。
「えっ、えっ!」
僕は、その人影が近づいてくるにつれて、自分の気持ちが不安から安心へと置き換わっているのを感じた。
そしてその人影が僕の前に止まると、大きな声で僕にこう叫んできた。
「おいアラン!お前来るのおせーんだよ!!」
どっからどう見ても僕の目に映るその姿は、ケインそのものだった。
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