第28話 それぞれの過ごし方


「一級冒険者カード!!」


俺は自分の力をたった一枚の冒険者カードで証明することにした。


何年も前から俺は一級冒険者になっているが、実は一級冒険者ってのは案外すごい存在らしい。

王都に数人しかいない、数少ない人材だ。

そして俺たち一級冒険者は、大きな仕事を引き受ける分、ほかの冒険者と比べ少なからず自由が利きやすい。


だから俺は、今みたいに王都に行く日数が少なくても、何も言われることなく過ごせている。

自由に生きたい俺にとってはベストな職業というわけだ。


とりあえずこのカードで俺の強さは証明できる。

少なくとも、救世主についていく仲間にふさわしいくらいの強さは証明できるだろう。


「このカードは一体...それに名前がカインっていうのは?」

「それは俺の偽名だよ。実は俺、今まで隠れて王都で冒険者をやっていたんだ」


俺はそれから今までの冒険者としての俺の経緯をすべて話した。

両親が俺を外に出しても生きていけるのだと、そう思えるように。


俺がすべてを話し終えると、


「はっはっは!!ケインは前からいろいろできる方だとは思っていたが、まさかここまでとはな!」


父さんはすっきりしたようにそう言う。


「それなら俺としては文句はない。天命がない、おめえに行きたいという意思がある、そして強さまで証明されたんじゃ、俺には何も言えんよ」


確かにここまで突拍子のない事実を何度も聞かされたんじゃ、もはや何も言えないのだろう。

そこまで、今の俺の状況はありえない、都合のいい状況だったのだ。


「...」


しかし母さんは、俺の話を聞いた後、ゆっくりと考え込んでいる。

そして、


「ケイン、それで後悔はないんだね?これから無を出て、どんな状況になろうとも、やっていく覚悟があるっていうんだね?」


母さんは一度、重い空気を漂わせながら俺にそう確認をとってきた。


「うん、これが俺の意志だ。覚悟はできている」


俺がはっきりとそういうと、


「はぁ...分かったわ。なら私はもう止めない。でも、男なら言ったことしっかりとやり遂げてきなさいよ!!」


母さんはそう言って俺が行くことを認めてくれた。


「天命のことは気にしないで。村の人にはケインは父さんの跡を継ぐために、王都の農業学校に行ったとでも伝えておくからっ!」


そして母さんは、俺が旅立った後のことも考えてくれた。

本当に母さん様々である。


「それにしても、今までケインには驚かされてばっかりよ。おそらくケインにはほかの人にはできない何かやるべきことでもあるのかもしれないわね...」


そしてそのあと、母さんは今まで何も言わずただ俺たちを眺めていたエレンに話しかけ始める。


「エレン、よく聞いて、お兄ちゃん、救世主様と一緒に世界を救いに行くんですって」

「え、ほんと!?お兄ちゃんすごいね!!」

「そう、すごいわよね。それでね、だからお兄ちゃんこの家をしばらく離れなくちゃいけないんですって。エレンはそれでもいい?」

「え~、いなくなっちゃうの?それはいやだ!」

「うん、エレンの気持ちはわかるわ。でもねエレン、お兄ちゃんは私たちのために行ってくれるの。エレンはお兄ちゃんの邪魔をしたい?」

「...それはもっとヤダ!!」

「でしょ?だから嫌だとは思うけど、明日、お兄ちゃんを元気よく送り出してあげましょ!」

「う~ん...分かった!」


なんか、あまりよくわかっていないエレンを母さんがうまく言いくるめた感じになってしまい、2人に申し訳ない。


そしてエレンは俺の方を向いて走り出すと、俺の前で止まり、


「頑張ってきてね、お兄ちゃん!!」


そう言ってくれた。

やばい、なんか本当に申し訳ない気持ちになってくる。


まぁとにもかくにも、そういうわけで、家族に認めてもらうことには成功した。


「あっ!こうなったら早く準備しなきゃ!!」


あとはアランと同じく出発の準備をするだけ。

俺は急いで階段を駆け上がり、


「やばいやばい、これは徹夜だぞ~!」


そう叫びながら、すぐに準備に取り掛かるのだった。



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「あっ、前より月が欠けてる」


私はなにか小さな発見をしたかのように、そうつぶやく。

現在私は、部屋の窓から月を見ている。


「確かに...前までは満月だったんだけどな~」


アラン君と一緒に。


アラン君の旅立ちの準備も朝には終わり、あとはアラン君が明日旅立つだけ。

そしてアラン君がイヨの村にいる最後の夜、アラン君の部屋で、私は一緒に月を見ている。


「いよいよ明日出発だね...」

「うん...」


二人の間でしんみりとした雰囲気が流れる。


「そういえば、ケイン君と仲直りしたんだって?よかったね」

「あ、ケインから聞いた?」


私がケイン君の話を持ち出すと、アラン君は急に眼の色を変えてケイン君の話をし始めた。


「やっぱりケインの奴はすごいよ。僕に持ってないものをたくさん持ってる...」


アラン君は、ケイン君の話になるといつも楽しそう。

こんなアラン君を見るたびにいつも思う。

やっぱりアラン君はケイン君と一緒にいてほしいと。


「いやいや私から見たらアラン君もずっとすごいよ。アラン君も、私の持ってないものをたくさん持ってるし」

「僕なんて大したことないよ。勇者だって僕なんかよりケインの方がよっぽどふさわしい」


アラン君はアラン君で、もっと自分に自信を持った方がいいと思う。

魔法ではケイン君に勝てなくても、剣においてはやはり、ケイン君より強いのは確かなのだから。

アラン君が、目の前にある理不尽な運命に打ち勝ちたいと、ずっとケイン君と努力してきたのは、私が何より知っている。


「そういえば、私たち、知り合って何年だっけ?」

「確かあの時はケインの誕生日の後くらいだったから、もう5年になるね」

「そっか~もうそんなに経つのか~...じゃあ、アラン君とケイン君は知り合って何年になるの?」

「そっちは僕が7歳の時だから...もう8年かな」

「へ~そんなに前から知り合ってたんだ!その時は2人で何してたの?」

「確か、ただケインに合わせて魔法の練習してたっけな」

「私と出会う前から変わらないじゃん」


明日別れてしまうというのもあって、2人で思い出話に花が咲く。


「時間っていうのは、あっという間だね~」


そんな話をしているからこそ、時間の流れの速さに驚かされる。


「魔王討伐も知らない間にパパっと終わっちゃうかもよ~」


私は冗談交じりにそうつぶやく。


「はは、さすがにそれはないでしょ...でも、そうだといいな...」


明るい雰囲気にさせようとそう言ったのに、かえって暗い雰囲気にさせてしまった。

とにかく話を変えようと、


「あ~あ、私の天命はどうなっちゃうのかな~」


私は天命の話を持ち掛ける。


私からすると、2人の友達のうち、1人が天命なし、もう一人が救世主に選ばれるという突飛な現状から、来年の私自身の天命がどうしても不安になってしまう。


「僕としては、イルルには何気ない日常を送ってほしいな」

「だからね、アラン君、そう言ったって何が起こるかなんてわからないんだよ。救世主様の仲間に任命されて、アラン君についていくかもしれないよ」

「はは、それはそれで心強いな...でもやっぱり、みんなには僕みたいな運命をたどってほしくないよ」


(天命を受けていないにもかかわらず、自分から進んでアラン君についていこうとしている人がいるんだけどな...)


とりあえずケイン君のことについてはケイン君に言われた通り、明日のお楽しみってことで、言わないことにしておく。

明日、びっくりするアランの顔が目に浮かぶ。


いや、びっくりじゃなくて、うれし泣きの可能性もあるかもしれない。

とにかく、明日が楽しみだ。


「じゃ、私はもう寝るよ。おやすみ、アラン君」

「あぁ、おやすみ、イルル」


私はそう言って部屋を出ていこうとすると、


「イルル!」


アラン君が私のことを呼び止め、


「ケインのこと、よろしくな...」


こんなことを言ってきてしまった。


「う、うん......任せてよっ!!」


なので私は何も考えず、ただ満面の笑みで、そう言うのだった。













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