第27話 ケインの決意


「なんか今日は機嫌がいいわね」

「まぁね~」


次の日の昼、俺は家でいつもより気分のいい状態で、昼食をとっていた。


「今日もアラン君たちに会いに行くの?」

「あ~、うん」

「まぁとりあえず、後悔のないよう、思うことちゃんと言ってきなさい」

「う、うん。わかってるよ」


そんなことを言ってくれる母さんに、もう言ってきたよ、とか言うといろいろめんどくさそうなので、とりあえず話を合わせることにする。


「じゃ、行ってくる!」


俺は昼食を食べ終わると、そう言って玄関へと向かい、外へと出る。


「お兄ちゃんいってらっしゃ~い、ちゃんとガツンと言ってくるんだよ~」


家を出る間際、妹のエレンにそう言われたが、果たしてエレンはちゃんとその言葉の意味を理解しているのだろうか...



俺はいつもどうり空地に到着すると、予想通りそこにはイルルしかいなかった。


「やっほ~イルル!」

「あ、やっほ~ケイン君。それで、あの、やっぱりアラン君今日も来れないって...」

「あ~、大丈夫大丈夫、知ってるから」

「!!」


俺はイルルの元気のない態度とは裏腹に、もやもやが晴れたようにすっきりとした態度でそう言うと、イルルは驚いた様子を見せる。


「あっ、やっぱり昨日、アラン君と何かあったの?」

「えっ、やっぱりってのは何?」


イルルは最初から予想していたかのようにそう言ってきたので、俺は質問を質問で返す。


「なんか今日のアラン君、いつもと違って天命を受ける前の時みたいに気分がよくて、『僕は救世主なんかじゃない、勇者なんだ』とか言ってたから、昨夜ケイン君と何かあったのかなって」


(アランの奴、勇者って名前が相当気に入ったようだな)


アランの勇者という名前の気に入り加減に、俺は少し戸惑ってしまう。

それにしてもさすがはイルル、俺たちと長い付き合いなだけはある。

昨日のことも、今日の様子から察したようだ。


「まぁな、とりあえずケインとはけりがついたよ」

「そうなんだ、それならよかった!で、何があったの?」


俺の言葉にイルルは安心したように、ほっと息を吐くと、俺はイルルに昨日あったことを話した。


「へぇ~そういうことがあったんだ」


イルルは話を聞いて納得したようにそう言ったが、次の瞬間、俺の運命を変える一言をつぶやいた。


「でも、ケイン君は行かないの?」

「えっ?」

「だから、ケイン君はアラン君と一緒に魔王討伐にはいかないの?」


盲点だった。

今までアランの運命をどうにかしたいと考えるだけで、俺がアランの運命に寄り添うといった案を考えてこなかった。


「そうか、俺がついて行っちゃえばいいのか」

「それにね、今まで私考えてたんだ。なんでケイン君には天命が降りてこなかったのか...そしてね、私思ったの。ケイン君は神様が想像もつかないようなことをしちゃうんじゃないかって」

「さすがにそれは買いかぶりすぎだよ」


知らない間にイルルの中で俺の株は恐ろしいほど急上昇していたらしい。


「買いかぶってないよ、私小さいころから思ってたよ。ケイン君は大人の人たちが使えないような魔法をいっぱい使えて、そして自分の意志もしっかりしてる。とてもすごいと思ってるよ」


そんなことを言われると俺はすごい人物のように思えなくはないが、一応俺は前世を含め、35年ほど生きているわけだから、知識としても、精神的にも強い方であるというのは当然といえば当然だ。


魔法だって、前世の俺が異世界ものが好きだったから、熱中してたくさん魔法を習得しただけに過ぎない。

そして、意志も強いわけじゃない、この世界の人の意志が弱すぎるだけなのだ。


「だからって俺が行ったところでどうにも...」

「少なくともアラン君はすごく喜ぶと思うよ。それにケイン君はもっと自分の強さを理解した方がいいと思う。ケイン君はこの村の中だけだったら抜きんでて強いということに。たぶんこの世界で1,2を争うくらいじゃないかな」


知らぬ間にイルルの中で俺はとんでもない化け物として見られているらしい。


「まぁとにかく、救世主様、あ...勇者様についていく人にケイン君以上の人はいないんじゃないかな?」


まぁ俺としてはアランの冒険についていくのはやぶさかではない。

俺だって冒険に行ってみたいし。

そしてなんといっても、俺に天命が下っていないというのが大きい。

神から見たら、俺は自由というわけだ、ついていくための環境はばっちり整っている。


しかし、俺はだからこそイルルに聞いてみる。


「でも、イルルはそれでいいの?」


そう、イルルの立場についての問題だ。

イルルからしたら二人の友達がたった一日で急にいなくなってしまうのだから。

俺がイルルの立場だったら、旅立つのを進めるどころか、ケインくらい村にいてもいいじゃんと言いたいくらいだ。

まぁ俺が寂しがり屋っていうのもあるとは思うが...


しかしそんな俺の心配を裏腹にイルルは、


「うん...私ね、天命をもらった時からアラン君の様子を見てきたけど、やっぱりアラン君、ずっと明るくふるまっているようで心の底では寂しそうだったんだ。でもね、昨日のアラン君、前みたいなテンションでずっとケイン君の話をしながら準備してたんだ。それで思ったの、やっぱりアラン君とケイン君は一緒の方がいいって。そして私も、2人で一緒にいる姿を見るのが好きだから...だからね、私はそれで...いや、いいの!」


何の迷いもなく俺にそう言ってくれた。


そんなことまで言ってもらったんだ、俺としては行かないわけにはいかない。


「よし、分かった、俺もイヨの村を出るよ。いっちょアランと一緒に魔王をぶっ倒してくるわ!」


俺は覚悟を決め、意気揚々とイルルにそう宣言する。


「うん、それがいいよ。頑張ってね、ケイン君」

「おう、任せとけ!よ~し、そうと決まったらっ!」


俺は突然思いついたかのように、急に家へと向かって走り出す。

旅立つ前にすべきことがあるからだ。


「ありがとうイルル、おかげで後悔のない選択ができそうだ。アランには俺がついていくこと内緒にしておいてくれ。明日の楽しみにしておきたいから。じゃ、また明日な!」


そして俺は帰り際にそう言ってイルルと一度別れるのだった。



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「ただいま~!!」


俺は大声でそう叫びながら、急いで家に帰ってくると、


「なになにどうしたの?そんなに慌てて、またアラン君と何かあったの?」


母さんがリビングから顔を出してそう言ってきた。


「違うよ、とりあえず父さんは家にいる?」

「え、えぇ。今日は休みの予定だから。家にいるけど...ほんとどうしたの?」

「父さんと母さんに、話があるんだ...」


俺は重い空気を漂わせながらそう言うと、母さんは何かを察したのか、父さんを部屋から呼び出し、家族全員がリビングに集まる。


「ねぇねぇどうしたの?なにかあったの?お兄ちゃんも帰ってくるの早いし」


エレンもとりあえず集まってはいるが、これから何が起こるのかよくわからず、戸惑っている。


「で、話ってなんだ?ケイン」


家族がリビングに集まって数分後、やっと父さんが重い口を広げて、そう言った。

すると俺は待っていましたと、急に立ち上がり、


「父さん、母さん、聞いてくれ。俺、アランと一緒に魔王討伐に行きたいんだ!」


家族に自分に意志をしっかり乗せてそう宣言した。


「・・・」


俺の宣言の後、家族の間で少し沈黙が続いたが、


「やっぱりか、そういうと思った」

「えっ!?」


父さんが、もともと分かっていたかのように、そう言いだした。


「俺もお前くらいの年の時はいろんな夢を見たもんさ。俺の場合は農家になるって天命をもらっちゃったから夢のままで終わったけど、天命のもらってないお前なら、そんなことを言い出すんじゃないかって思ってたさ」

「父さん...」


そして母さんも、俺のすることが分かっていたかのようにうなずく。


しかし、


「だが、そうだからって俺たちとしてはお前を魔王討伐に出すわけにはいかない」


そう簡単にはうまくはいかなかった。


「ど、どうしてっ!?」

「一回冷静になって考えてみろ。お前は別に強いわけじゃないんだ。アラン君のように魔王討伐を確約されたわけじゃない。お前の運命なんて誰も保証してくれないんだぞ!」


まぁ考えてみればそうだ。

俺は今まで家族に、俺が魔法が使えることを一切話していない。

客観的に見て、ただの15歳の大人になったばかりの子供が魔王を倒しに行くなんか言った日には全力で止めるのは当たり前だ。

俺だってその人を全力で止める。


「いくらお前が天命をもらっていないとしてもだ、お前は俺たちの息子だ。お前のことが心配じゃないわけないじゃないか」


なんかそういわれるとなんか申し訳ない気持ちになってしまう。

たとえ、この世界が天命がすべてだとしても、親が子を思う気持ちは変わらないらしい。


「力を証明すればいいんだね...」


さすがに俺も予想はしていた。

ピクニックに行く感覚で魔王討伐に行ってくると言って、じゃ行ってらっしゃいとはならないことはだれでも想像はつく。


だから俺は証明することにした。

俺の強さを。


「2人とも、これを見てくれ」


たった一枚のカードで。


「こ、これはっ!!」

「一級冒険者カード!!」

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