第25話 アランとの決別


「アラン、お前今まで何やってなんだよ!」


久しぶりに会ったアランに、俺はまず事の詳細を問い詰める。

ひとまず、本人の口から詳しい内容を聞きたかったのだ。


「イルルから聞いてるだろ。僕、救世主に選ばれちゃったんだ...」


静かにそう答えるアランに対し、俺は疑問の念を抱いた。


(なんだこのアランの態度、まるで別人みたいじゃないか)


言葉で表現しずらいのだが、外見などではなく、表情やしぐさ、立ち姿などがいつものアランと違う。

そう、一言で言うならば、“冷たい心を持った人間”、そういった感じだ。


さすがに何年もともに日常を過ごしているため、間違うといったことはないのだが、あまりのアランの態度の違いに俺は一瞬自分の目を疑った。


しかし次のアランの発言に、今度は耳を疑うことになる。


「今日はケインに、お別れを言いたくて来たんだ」

「は?お前それどういう...」

「アラン君、やっぱり」


当たり前のようにそう言ってくるアランに、俺はとりあえず何を聞けばいいのか分からなくなっていた。


「僕、明後日にはこの村を出るんだ。天命でなるべく早く旅立つようにって、言われているから...」


そう、いつもこれだ。

俺たちの日常にひびを入れてくるのはいつも天命。

神は俺に何か恨みでもあるのだろうか。


「おい、お前はそれでいいのかよ!このままの生活がいいってお前言ってたじゃねーか!!」


俺はとりあえずアランの気持ちを聞こうとそう問い詰める。


「何を言ってるの?僕たちは神様の言う通り、天命に従って生きる。それが一番さ...」

「っ!!」


何も考えず、ただ天命に従って生きる、俺が思うこの世界の人の一番嫌いなところだ。


そんなところを、俺の一番身近な存在であるアランの口から発せられたことに、俺は衝撃を隠せない。

先日のアランとはとんでもない違いだ。


「お前っ!ふざけんなよ!!今までお前は何を見てきたんだ!ないもできないまま終わるのが嫌なんじゃなかったのかよ!なんだ?お前は自分の人生を決める権利すら守れないのか!!」


俺は感情に任せて、アランの胸倉をつかみながらそう叫ぶ。

しかし、


「ケイン、僕には救世主になるという素晴らしい天命をもらったんだ。僕はその命に従って魔王を討ち果たさなきゃならない」


アランは俺の感情なんかに影響されることなく、ただただ言葉を連ねる。


「なんか、変な空気にさせちゃってごめんね。僕、そろそろ行かないと。まだ準備が終わっていないんだ...」


そしてアランはそう言うと、また会えるんじゃないかと思えてしまうほど、あっさりと家に向かって歩き出す。


そして帰り際に、


「バイバイ...」


それだけ言って帰っていった。


それから俺とイルルはただ茫然と立ち尽くすのみ。

予想外のアランの対応に俺は終始、戸惑いの感情でいっぱいだった。


「お前、ほんとどうしちまったんだよ...」



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いつもなら晩御飯時に帰る俺たちだが、アランが帰った後、何も手につかなくなった俺たちは早めに家に帰ることにした。


「ただいま」

「おかえりなさ~い!」

「おかえり。今日は早いのね。何かあったの?」


家に帰ると、エレンと母さんがそう言って出迎えてくれた。


「......」

「何かあったのね...まぁ少し早いけど晩御飯にしましょ。もうお父さんも帰ってきてるから、話したいことでもあったら言ってみなさい」


母さんはそう言って俺をリビングへと連れていく。


「おお、ケイン。今日は早いな。どうした?」

「父さんこそ、帰ってくるの早いじゃん」

「まぁな、最近は村中が大騒ぎでな。この村にあの伝説の救世主が生まれたって。みんながそんな話で持ち切りだから、逃げる形で早めに仕事を切り上げてきたんだよ」

「・・・またその話か」


父さんの話に俺がそうつぶやくと、


「やっぱり、それが原因のようね」


母さんが食卓に料理を持ってきながらそう言ってきた。


「なんだ、原因って?」

「まぁまぁお父さん、とりあえず食べましょう」


そして母さんがそう言うと、みんな一斉に食事をとり始める。

すると、


「アラン君、どんな感じだったの?」


食事を始めて数分後くらいに母さんがそう聞いてきた。


「なんか、天命に従うのが当たり前みたいな感じで、ちょっと、変だった...」

「まぁそうよね、天命だもの。文句を言わず従うのが普通でしょうね」

「でっ、でもっ!!」


この世界では当たり前なのは分かっているものの、俺は話を遮って否定しようとすると、


「そう、それはあくまで一般的な天命をもらったうえでの話。このまま村に残るかとか、どんな職に就くのかといった一般的な進路を決められた場合よ。私もさすがに今回の件も従うのが当たり前だとは思わないわ」

「そりゃそうだろう、なんてったって救世主様だ。どう考えても普通の天命と比べたら重荷すぎる役割だ。相当な覚悟が必要だろう」


父さんと母さんは今回のアランの天命についてそれぞれの見解を述べた。


「それで、当たり前のように天命を受け入れようとするアラン君と、言い合いになってしまったと...」

「う、うん。よくわかったね」


いくら親だからといっても、そこまでズバリと当てられると少し怖いものだ。


「まぁケインは自分のことは自分で決めるタイプなのは分かっているから。今回の場合は大体の予想がつくわよ」

「は、はぁ...」

「私びっくりしたんだからね。ケインに天命が下らなかったとき、全然気にしていない様子を見せるんですもの。気にしていた私がおかしいのかと思っちゃったわ」


母さんはそう言うが、日本人なら大体そんな感じになるのではないだろうか。

資本主義社会に生きていた俺たちからすると、自由に人生を決められるのが当たり前なのだ。


「それで、アラン君はいつ旅立つの?」

「明後日には出るって言ってたけど...」


俺はそう言うと、母さんは少しほっとしたような様子を見せ、


「ならいいじゃない。明日にでもアラン君の家にでも押しかけてガツンと自分の思いをぶつけてきなさいよ。そしたらきっとアラン君を自分の気持ちを話してくれるはずだから」


そんなことを言ってくれた。


やはり親は偉大である。


生きた年数はほとんど同じでも、生きている環境が違うことを改めて実感させられる。

俺は前世を合わせて35年ほど生きてはいるが、20歳以上の扱いを受けたことがなく、大人の立場というのをほとんど経験してこなかった。


ましてや、親なんてもってのほかである。


俺はただ子供時代をみんなと比べ、ほんの少し長く生きただけのただの子供だ。

人生で経験したことなんてたかが知れていた。


「う、うん分かった。俺、もう一度アランに言ってくる!!」

「おうおう行ってこい。後悔のないようにな!」


父さんもそう言ってくれ、俺はもう一度アランに会うことを決める。


次はアランに仕方がないだろ、などでは終わらせない。

アランがどんなことを思っていようと、俺はアランの気持ちを吐き出させてやる。


別に行きたいのならそれでいいのだ。

実際俺も冒険行ってみたいし...


俺はただ、今まで一緒に過ごしてきたアランが、自分の人生を他人に決められるのを何も言わず受け入れているのが気に食わないだけなのだ。


「ご馳走様!!俺もう寝るね」


俺は食事を終えると、アランにガツンと言うことを決意し、自分の部屋へ行くため、勢いよく階段を駆け上がるのだった。

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