第23話 アランの番


俺はあれから、天命をもらえることなく、早1か月が経過しようとしていた。


「アラン君、ついに明日だねっ!」


現在、俺たちはいつも通り、空地に集まっている。

今月ももう月末を迎え、ついにアランにも天命をもらうときがやってきていた。


「なんかデジャブを感じるな。先月も似たような光景を見た気がする」

「なんかそれだと、僕も天命がもらえないみたいじゃないか」


先月のこともあり、俺たちの考える問題が天命の内容ではなく、果たしてそもそももらえるのかどうかという点になってしまっている。


「そんなこと言ってないだろ~、アランは俺の分までしっかりといい天命をもらってくれよ」

「まぁそうだといいけどさ」

「でもでも、今月はケイン君も天命もらえるかもしれないじゃん」

「え、俺?」


イルルが急に俺の話題を振ったので、一瞬戸惑う。


「そうだよ、ケイン君の誕生日が実は数日遅かったとしたら、今月もらえるかもじゃん!」


たしかに俺の両親もそんなことを言っていた。

天命がもらえるのは先月ではなく、実は今月なのではないかと。

これに関しては神の定める誕生日の定義による気がする。

俺の体が母さんの体の中で形成しきったときを誕生日というのか、はたまた俺の体が母さんの体からでできて、へその緒を切ったときなのか。

それとも俺が俺であると意識を持った、あの日を誕生日とする可能性だってある。

それに関しては本当に神次第であるため、どうしても曖昧になってしまう。


そのため両親も、今月こそはもらえるのではないかと、かすかな希望を抱いているというわけだ。


「でもさすがに、本当の誕生日が5日以上違ったっていうことまずないと思うけど...」

「分からないじゃん、とりあえず楽しみに待ってみたら?」

「まぁ、とりあえず俺のことはいいんだよ。今回はアランの番だろ。さすがにアランは誕生日が今月の中頃だったから、明日天命がもらえるのは間違いないだろうし」


俺は話題を戻そうとアランの話題をふるが、


「僕は別にこのままの生活が続けばいいと思っているよ」

「お前、冷めてんな~」


アランの現実的な願望に俺は思わずそうつぶやく。


「お前はもっとこう、ないのか?夢みたいなのは。世界は広いんだぜ!近い将来、いろんな町へ行ってみたいとか思わないのか?」

「ん~、行ってみたいとは思うけど、そこまでかなぁ」

「あ~そう...」


アランの超大人な発言に俺はさすがにあきれてしまう。


(なんか35歳にもなって、生まれて15年しか経っていない子供に、もっと夢持てよと言っている俺がバカみたいだな...)


これも育った環境が違うからだろうか。

戦争や死といった不幸なこととはほぼ無縁の子供時代を過ごした俺と、魔物に殺される可能性だってあるこの世界で子供時代を過ごしたアランでは考え方が違うのだろう。


「まぁとにかくだ、明日にはアランに天命が下るのはほぼ間違いないだろうし、明日になったら俺たちに天命の内容教えてくれよ」

「はいはい分かったよ、たぶん大した内容じゃないと思うけどね」


俺はアランと天命の内容を教える約束をすると、今日のところはそれぞれ家に帰るのだった。



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翌日、


まぶしい朝日とともに、いつも通り俺はベッドから起き上がると、昨夜のことを思い返す。


「ま、何もないわな」


やはり今月も俺に天命が下ることはなかったらしい。


部屋を出てリビングへ向かうと、両親2人はすでに起きており、朝食をとることもなく、ただただリビングの椅子に座っていた。


「おはよう、ケイン。それで、どうだった?」


2人は俺が起きるのを待っていたらしい。

今月は天命がもらえるのではないかとそわそわしながら、俺が起きるのをただ待ってくれていたようだ。


俺は質問に対して、ゆっくりの首を横に振ると、


「そ、そうよね、何もないわよね...」


俺の反応から、2人は予想通りと言わんばかりに、ただうなだれた様子を見せる。


「おはよ~う、みんなもう起きてたんだ。あれっ、どうしたの?みんな暗い雰囲気で?」

「別に何もないわ。みんな起きたことだし、朝ご飯にしましょうか」


エレナも起きると、2人は気分を変えて、朝ご飯の準備を始め、いつも通り朝食をとるのだった。




朝食を取り終えると、俺は早速アランに天命の内容を教えてもらおうと、アランの家へと向かう。


「アランはどんな天命をもらったんだろうな~。まぁ無難にお前はこれから両親の跡を継いで漁師になれ、とかか?」


俺は家に向かいながら、アランの天命について、いろいろ考えてみる。


「それにしてもアランの奴、このままの生活がいいとか言いやがって。俺がまるで子供みたいじゃないか。まぁ、考えていることは実際に子供なんだけどさ」


さすがの俺だって、考えていることが子供っぽいことは自覚している。

見た目は15歳、中身は35歳であるこの俺が、将来のことも考えず、ただ何者にも縛られない、自由な非日常を味わいたいなどとほざいているのだから。


しかし、前世では現実的なことばかりを考えてきた俺にとって、小さい頃から学校などの人数の多いコミュニティに所属する必要もなく、魔法という、日本からみたら夢のあるものも存在するこの異世界生活は、ただただ夢でしかない。


みんなだってそう思うだろ?


日本の社会で生きている人からすると、今までの人間関係から解放され、日本人にとって理想の生活ができる異世界は、まさに夢の象徴的存在だ。


だから日本では異世界ものが人気なのだ。

異世界には日本人の理想が詰まっており、まさに、欲望の塊だと言えるだろう。


「アランの奴、天命で自分の将来が決まった後、実はもっと自由に生きたかったのにとか言ってこね~かな」


実はアランも俺と同じようなことを考えていたという展開を期待しながら、アランの家の前まで到着すると、


「おいおい、なんだよこの人だかりは!すげー人いるじゃん!!」


アランの家を中心に、たくさんの人が集まっていた。

この人数は、もはやイヨの村の人口の半分以上を占めているといっても過言ではない。


「なんだなんだ?アランの家、何かやらかしたのか?」


今の俺なら、アランの家族の誰かがスキャンダルを起こしたと言われても納得する。

そのくらいアランの家の前では、何かに注目しているような雰囲気を醸し出していたのだ。


俺は何があったのか確認しようと、人だかりの後ろについて様子を見ていると、


「あら、ケイン君じゃない!?」

「あ、おばさん!」


俺と同じく、後ろに立って様子を見ている俺の家の近所のおばさんが声をかけてきた。


「この人だかり、アランの家で何かあったんですか?」

「私も気になって様子を見ているんだけど、やっぱりここからだとよくわからないのよ。よくないことがないといいのだけれど...」


俺とおばさんはそんなことを言いながら、首を傾げ心配していると、


「ケインくーん!!」


イルルが今までに見たことないよいくらい焦った様子で、俺の名前を呼びながら、こっちに走ってくる。


「ど、どうしたんだよイルル、めちゃくちゃ焦ってるじゃん、何かあったのか?」

「ちょ、ちょっとこっち来て!」


イルルはそう言いながら人目のつかないところに俺を連れていくと、


「アラン君がっ、アラン君がっ!!」

「アラン?アランがどうかしたのか!?」


イルルのあまりの焦りに、俺もつられて早口になってイルルに真相を聞く。

するとイルルは、俺たちの運命を大きく左右する、重大な事実を俺に伝えるのだった。



「アラン君がっ、この世界を救うに選ばれちゃったの!!」



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