第22話 思わぬ誤算
拾い子ではなく、正真正銘15歳の俺は今月、天命が下らなかった。
この事実はこの世界において、とても衝撃的なことであった。
「さて、これからどうするべきか...」
現在、俺は両親とリビングの椅子に座って、この事実についての会議が行われようとしていた。
「母さん、エレナは?」
「大丈夫よ、あなた。まだぐっすり眠ってるから」
「そうか」
両親は、この事実を知る者を最小限にしようと、エレナにさえ伝える気はないらしい。
「ねぇ、天命がもらえないのってそんなに恐ろしいことなの?」
あまりの両親の慎重な対応に、俺はそう聞いてみる。
正直、自分の将来を他人に決められるということがなくなったというのは、俺からすると、とてもありがたい話であって、恐ろしいというよりむしろわくわくのほうが勝っている。
「お前は何のんきなことを言ってるんだ!いいか、人間社会は天命で動いているんだ。つまり、この世界は天命を中心にまわっている。そんな社会に天命のもらっていない人間なんていたら、その人間はもはや社会の住人ではない。例えばだ、この世界の職業にはそれぞれ定員がある。そして、その職業になるよう天命が下る人数も、定員と同じだ。つまり、天命のもらえないお前は社会にかかわるどの職業にもなれないということだ」
(はぁ!?)
俺は初めて具体的な天命のシステムを知って、俺は衝撃のあまり口をあんぐりする。
「なんだよそれ!どの職にもつけないって、それってもはやニートじゃん!!」
まさかの異世界に来て、わざわざニート生活が待っていそうなこの状況に、俺は果たしてどうすればいいのやら...
「“にーと”っていうのは何だケイン?」
「いや~何でもない。そんなことよりどうしよう!?」
「騒ぐな、俺たちだって戸惑っているんだ。しかし、これは本当に大問題だぞ。天命をもらうことは神様からの加護をもらった証とも考えられている。だから、天命をもらえないってことは...」
「みんなから神様からの加護がもらえなかった人間って見られるってこと?」
「あぁ、だから最悪差別の対象になりかねない。魔物といった人間以外の生き物はみな天命をもらわないから、魔物の手先だと揶揄されることも...」
どんだけ天命のない人に厳しいんだこの世界。
まぁふつうは天命のない人間なんていないし、気にする必要はないはずなのだがな。
「いやよっ!自分の息子がみんなから差別される世界なんて!なによっ、息子が何したっていうのよ!神様は息子を見捨てたのっ!?」
母さんは少し情緒不安定になっている。
息子が学校でいじめにあっているときと同じような感じなのだろうか。
いや、内容が内容だけにおそらくそれ以上だろう。
しかし、こんなことになってもやはり俺はなぜか不安がない。
将来が決められることがなかったことへの安心なのか、はたまた元日本人であるためなのか。
とにかく、なぜか昨日の不安なんかどこかへ行ってしまった。
そのため、何とかなるでしょと言わんばかりにあまり深いこと考えず、楽観的な態度をとっていると、
「隠し通すしかない...」
「へっ?」
「この秘密は俺たち3人で一生隠し通すしかないっ!」
父さんが覚悟を決めたように重い口を開く。
「ちょっと待ってよ父さん。隠すってどうやって?」
「とりあえずみんなには、ケインは俺たちの跡を継いで農家になるよう天命が下ったと言うんだ。そしてそのまま俺の跡を継いでもらう」
「ま、待ってよ。職業には定員があるって言ってたじゃんか。父さんの跡を継ぐように天命を受ける人が後々やってくるんじゃ」
「それは仕方がない。お前にはその人たちと一緒にやっていくしかないだろう。俺は農家だ。お店経営みたいな明確に定員が決まっているような職業ではない。1人や2人増えたところで大丈夫だろう。問題ないはずだ」
父さんは、思ったより結構まともな解決策を提示してきた。
「そ、それよ。それがいいわ!」
俺を救えるその案に、母さんも賛成している。
「たしかに、それがいいかも」
将来が決められるというのはやはり抵抗はあるが、俺も差別はされたくないし、父さんも俺を思っての行動であるため、俺も迷うことなく了承する。
「いいか、これは絶対にみんなに言ってはいけない。3人だけの秘密だ!」
「分かってるわ」
俺たちは立ち上がり、秘密を隠し通すことを決意する。
恐ろしい運命から、逃れるために。
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その日の昼、俺は空き地で、いつも通りアランとイルルと会う。
すると、
「「天命がもらえなかった!?」」
アランとイルルはそう言って驚く。
俺はすぐに2人に天命がもらえなかった事実を話した。
秘密とは言ったものの、俺はさすがに2人に言わないわけにもいかなかった。
「じゃ、じゃあケインはこれからどうするの?」
2人は長い付き合いだ。
さすがに2人は俺が天命をもらえなかったからといって差別をすることはなく、ただただ俺の心配をしてくれた。
「とりあえず、みんなには父さんの跡を継ぐということにしてある。父さんも、村のみんなにそう言いふらしていると思うよ」
「へぇ~そうなんだ。いいお父さんだね」
俺はイルルのその言葉にハッとする。
考えてみればそうだった。
この世界の人々は天命のいうことだけをしっかりと聞いて行動する。
つまり、たいていの人が、自分から考えて行動しようとは思わない。
そのため、今回のような天命のもらえないという事件があった場合、ほとんどの人は何も考えることなく、そのまま放っておくだろう。
しかし、俺の両親はそうしなかった。
自分の息子というのが大きいだろうが、しっかりと俺のために考えてくれた。
両親には自分で考える力があったのだ。
そう考えると、俺は本当に幸せ者だと実感する。
「まっ、そういうことで、俺のほうはとりあえず大丈夫そうだ。次はお前の番だぞ。アラン」
俺はそう言って話の話題をアランの内容へと変更する。
「そうだよ、アラン君。アラン君だって今月誕生日じゃん。どんな天命がもらえるか、楽しみだねっ」
「まっ、俺みたいに天命がもらえないなんてことがないといいな」
「さすがにこんなことがそう何度も起こったらたまったもんじゃないよ」
俺たちはそんな冗談交じりの会話で盛り上がるが、
「でもやっぱり自分の番になると緊張するものだね。どんな天命なのかなって...」
天命をもらえる順番が自分になり、アランは前と比べて少し不安な表情を浮かべる。
「気にすんなって、たぶん俺よりましだからさ」
俺は自分を下げることで、アランを励ます。
「そ、そうだよね。大丈夫だよねっ!」
「そうだよねってどういうことだよ~!」
俺たちは表面上だが、そう言って笑い合う。
やはり俺たち3人は天命に対して少し否定的だ。
アランが不安になるのも無理はない。
しかし、天命にもいいところはある、将来に対して希望を捨てる必要はない。
しかし、俺たちはまだ天命が及ぼす本当の影響力を知らなかった。
そして、次のアランの天命で、これから俺たちの人生にこれまで以上に大きく影響を与え、天命の凄まじさを実感することになる。
今までのはまだ、ほんの序の口だったのだ...
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