第20話 その後の俺たち
俺たちにとって忘れられないあの出来事が起きてから、約5年後...
現在俺はアランと夜中にこっそり村を出たところにある森に来ていた。
「ねぇ、ケイン見て見てコレ。今日の昼に完成したんだ、いい切れ味でしょ!」
アランは俺に向かって自慢げに剣を見せながらそうつぶやくと、
「お前は本当に剣の上達早いよな~」
「へっへ~、これが僕の得意分野だからね。魔法専門の君とは違うのだよ」
「へいへい、そうですか」
俺はつまらなそうにそう返す。
これは、とんでもない無力感を感じたあの出来事のあとの話だ。
急に2人が、
「僕たち、もっと強くなりたい」
そう言ってきた。
詳しく話を聞くと、
「僕たち、もう嫌なんだ。何もできないまま終わっちゃうのが...とにかく僕たち、何でもいいからできることを増やしたいんだ!」
そんなことを言ってきた。
9歳と8歳であるアランとイルルがもうこの境地に達していることに、俺は一瞬驚いたが、まぁとりあえず自分のやりたいと思ったことをやってみたら、そうアドバイスしてみた。
するとアランは剣で魔物から人を救いたい、イルルは回復術師になって病気から人を救いたい、そう言ってきたため、アランには王都で買ってきた剣術の指南書を、イルルには回復術について書かれた本をそれぞれ渡した。
すると、それから2人はそれぞれ自分のやりたいことを磨いていった。
この村には剣術、回復術どちらも専門的な人がいなかったので、アランは昼間は空き地で剣の稽古、夜はこっそり村の外の森で魔桃狩りをし、イルルは本から回復術師としてのノウハウを学び、回復魔法については俺が教えるという俺たちだけでできることを行った。
それぞれ自分のやりたいことをみつけたのである。
そしてその時俺はというと、別に何もしなかったというわけではなく、時にはアランと一緒に剣を学び、時にはイルルと一緒に回復術を学んだりと、まぁ二人のやる気にあやかって、俺も一緒に学んだ。
こういった生活を送っていく中で、俺は2人に対して、気づいたことがあった。
それは二人とも天才型である、ということだ。
アランにおいては剣の上達が俺なんかよりもよっぽど早いし、イルルにおいても細胞、ウィルスの知識がないにもかかわらず、感覚的に治療が行えるほどだ。
今回においても、アランがついに魔法で剣が作れるようになったと言って、現在試し切りをしに来ているのだ。
こんな2人が努力をすれば、それはもうとんでもない力が身につくのは必至だった。
魔法全般においては負ける気なんてさらさらないが、剣、治療においては俺の上をいっている。
(前世の俺はこの年じゃ、別にしたいことなんてなかったけどな~)
2人が一生懸命な姿を見ていると俺はいつもこう思う。
おそらく、日本より過酷なこの世界が、2人をそうさせているのだろう。
そういう点で見れば、今の俺は前世と比べ比較的密度の濃い人生を送っていると言える。
しかし、あれから5年たったということはこの世界ならではの、あのイベントがついに俺の元にもやってくるということだ。
「ケインって今月誕生日だよね、ということはついにケインの元にもやってくるってことだね。あの天命が!」
そう、この世界では、成人にあたる15歳の誕生月の月末から、毎月天命が与えられるようになる。
つまり、今月の月末についに、俺のもとにあの天命が与えられるようになるのだ。
「そうだよ、ついに来るんだよ。あのめんどくさい天命が...」
「まぁまぁ、そうは言ってるけど、みんなは結構助かってるんだよ」
まぁ当然と言えば当然だ。
このシステムのおかげで、何も考えずただ神のいうことさえ聞いて生きていけばいいのだから。
こんな楽なことはないだろう。
「でもな~、やっぱり自分のやりたいことやりたいぜ」
「まぁそうだけどさ」
しかし、俺たちはいろんな経験をしてきたからそう言っているが、実際この世界の子供は、天命がもらえることに対して結構喜ぶ。
天命をもらうことで、自分も神様の加護を得る、そう考えられているからだ。
「まぁとりあえず、なるべく自由な天命が欲しいよ。将来の職業を決められるとか考えられない」
「はは、ケインの場合このままだと将来、親の跡を継いで農家だもんね」
(わざわざ異世界に来て農家とか、これだと日本と何ら変わりないじゃないか)
予想される未来に、俺は落胆する。
「まぁこんなこと考えたってしょうがないよ。作った剣のお試しも終えたことだし、今日のところは帰ろうか」
アランはそう言うと、今日のところは帰って寝る。
今日の時点で、俺の誕生日まであと2日、月末まではあと5日に迫っていた。
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「そっか~、ケイン君、明日誕生日か。おめでとう!」
「ぜんぜんめでたくね~よ。あぁ~、天命が刻一刻と迫ってきてる~!」
次の日、俺はいつも通り空き地に集まり、アランとイルルの3人でしゃべっていた。
「まぁまぁ、そこまで考えるなよ。僕はケインの作る野菜、期待してるからさっ!」
「なんで俺が農家になる前提なんだよ!」
「普通に考えたらそうなるじゃん」
「それはそうだけど...」
この世界の人々は基本、昔の日本みたいにあまり自分の住んでいる町から動かない。
魔物が恐ろしいというのもあるが、一番の原因は天命自体があまり人を動かそうとはしないのだ。
そのため、たいていの子供は親の家業を継ぐのが普通だった。
「で、でもアランだって、誕生日来月じゃないか!おまえんとこ、漁師だから将来漁師になっちゃうぞ」
俺はアランに言い返してやろうとそういったのだが、
「別にいいじゃん、それで...」
思わぬ返答が帰ってきた。
「え、良いの?」
「逆にケインはさ、どんな天命がいいの?僕からしたら農家って全然いいと思うんだけど」
そんなことを言われて俺はハッとする。
確かに俺の夢である、何者にも縛られない自由な非日常というのはあまりにも漠然としすぎている。
具体的に何かと言われると、答えられないものだった。
「で、でも漁師になれって言われたら、今みたいに村の外に出るなとか天命で言われるかもよ」
「まぁ、たしかにそれは少し嫌だけど...」
「な、やっぱり嫌だろ?」
アランをこっち側にしようとそう言ってみたものの、
「でもやっぱり、この村で何もないまま生きるのが一番じゃないかな?」
アランは日本の大人みたいなことを言ってきた。
「何言ってんだよ、もっと夢持てよ!まだお前14だろ!?」
日本での14歳なんか、ミュージシャンになりたいとかゲーム作りたいとかいろんな夢を持っているものだ。
そもそもこの世界の人は明らかに欲がなさすぎる。
まぁだからこの世界の人は天命に従っているのだろうが。
すると、アランは続けて俺にこう言ってきた。
「ケイン、もっと現実見た方がいいよ」
「あぁ言っちゃうんだ」
まさか異世界に来てまでこんなことを言われることになるなんて思ってもみなかった。
(異世界に来たんだよ、夢持つよそりゃ。なんで前世以上に現実見なきゃならんのだ)
俺がそんなことを思っていると、
「でも、アラン君の言う通りだよ。ケイン君、もっと現実見ようよ」
「そっ、そんな。イルルまでっ!」
なぜか精神年齢35歳であるこの俺が、14歳と13歳にもっと現実を見ろ言われる、謎の状況が生まれてしまった。
なんだこの世界は...
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