第19話 俺たちの決意


「なぁ、アラン」


俺はゆっくりとアランに話しかける。


「俺、何もできない自分に疲れてきちゃったよ...」


もう少し、何かできると思っていた。

これは決して、驕りなどではない。

何か少しでも世界を動かすことができると思えるくらい、いろいろやってきたつもりだったのだ。


しかし結局は何もできず、ただ天命に流されるだけの結末。

そんな自分に、俺は心底失望する。


「そんなことないよ。ケインはイルルのためにいろいろやってたじゃん。ほら、今回の魔法の開発だって」


アランは俺を励まそうとそう言うが、俺の心にはあまり響かない。


(世の中、結果がすべてなんだよ)


この事実は、異世界に行っても変わらない、人間社会での真理だ。


俺も一応、大学受験を乗り越えた人間、その真理はよく理解しているつもりだ。

だからこそ、今回の結末は、努力すればするほど点数として現れる受験の結果なんかよりも、恐ろしく仕方がなかった。


「アラン、世の中はな、結果がすべてなんだよ。俺がどんなに頑張っても助けられなかったのなら、何もしていないのと同じなんだよ...」


俺が哀愁を漂わせてそう言うと、アランは無言で俺のほうに寄って来る。


「アラン?」


そして俺の前に立つと、


「パンッ!!」


俺の頬を思いっきりひっぱたいた。


(ん、なんだ?何が起きた?)


俺が頬を触りながらそう思うと、


「そんなこと言うの、やめてよ...」

「えっ?」

「自分だけ勝手に悲しむの、やめてよっ!!」


アランが大声をあげてそう叫ぶ。


「何もできなかったのはケインじゃない、むしろ僕たちのほうなんだよ、分かってる?」

「...っ!」


その一言で、俺はアランの思いを察した。

そう、なんで俺は今まで考えてこなかったのだろう。

何か月も時間があったというのにもかかわらず...

俺は今まで、2人の心情なんて、一切考えてこなかった。


俺なんかよりよっぽど自分の無力さを痛感していたであろう、アランとイルルのことを...


今となってはただの言い訳でしかないが、きっと自分で精いっぱいだったのだ。

精神状態も、時間的にも。


「いや、俺そんなつもりじゃ...」

「そんなつもりじゃなかったら何なの?ケインはいいよね、僕たちなんかよりよっぽど魔法が使えて。いろいろなことができて!僕とイルルなんか、直接的なことなんか何もできず、ただイルルのお母さんの看病をするだけ...どれだけ自分の無力さを感じたことか...ケインには分からないよ!!」


アランは今までためてたことを吐き出すように言い連ねた。

そして言い切った後、アランは息を整えると、静かにこうつぶやく。


「だからさ、ケインはもっと自信をもってよ。これからはもっとたくさんの人を、救えるようにさ...」


我ながらいい友達を持ったものだ。

自分の文句を言いつつ、俺を慰めてくれる。

俺なんかよりよっぽど大人だ。


「ごめんな、アラン。俺のほうが慰められちまった。本当は俺のほうが慰めなきゃならないってのにな」

「...別にいいよ、だって僕たちは友達でしょ」


アランはそう言ってニッコリ笑顔を浮かべる。


今こんなことを言うときではないとは思うが、なんかアラン主人公感出てきたな...


俺はアランと握手をしながらそんなことを思っていると、


「あ、いたいた。2人とも~」


イルルの声が遠くから聞こえる。


「やっぱり2人ともここにいたね、よかった」


2人とも迷いなく俺がここにいるのが分かるなんて、まるで俺がここにしか居場所がないみたいだな...


「ケイン君、さっきのことは気にしないで、私アランの家で生活するのとっても楽しみだから!」


イルルが満面の笑みでそう言うと、


「そうだよ、僕の家にイルルが来るんだよね。あ~楽しみだな~」


アランも同じく楽しそうな表情を浮かべる。


(なんだよ、俺だけ気にしていただなんて、バカみたいじゃないか...)


俺が少し安心したような表情を浮かべると、


「あ、あと、お母さんの手紙の続きにね、ほらっ」


イルルはそう言って、急にさっきの手紙の続きを見せてきた。


『あと、生活のことを気にしているのなら心配しないで。

もう何か月も前に、アラン君の家があなたを引き取ってくれるようにするって、天命が下っているから。

だからね、家にアラン君を連れてきたときにはびっくりしたのよ。

神様は、私が死んだ後も、イルルの生きやすい環境にしてくれるんだって。

だからイルルはこれからも大丈夫よ、ちゃんと神様は見てくれているから。

これが最後になっちゃうけど、あなたが人生を精いっぱい生きて、そしてそのあと、神様のもとでまた会いましょうね。

ーあなたの母よりー


「なんだ、もうとっくに知っていたのか...」


イルルのお母さんはもう何か月も前から、自分が死ぬことを知っていた。

そう天命が下っていたのだ。

知らぬが仏とは言ったものだが、今回は別だ。


この世界の神は、事前に死ぬ事実を伝え、その上でこれからのイルルのために、準備をする時間を与えてくれたのだ。

これを知って俺は、自分が死ぬことを知らない方がいいだなんて、とても思えなかった。


「それにねケイン君、アラン君のお父さんから聞いたんだけど、お母さんはもう何か月も前に死ぬという天命が下っていたらしいの」

「えっ?」

「だからね、アラン君のお父さんも、毎月毎月私のお母さんが死ぬという天命が先延ばしになっていることに不思議に思ってたんだって。でもね、私には分かったよ。アラン君が1か月前まで毎日、お母さんに元気になる魔法をかけてくれたおかげだって」


俺はその事実に驚愕する。

確かに俺は”サーチ”を開発するまでは毎日、イルルのお母さんに健康的な体力を向上させる魔法、“イミュニティ”を使っていた。

しかし、こういったことも考慮に入れて、天命を下しているのではないのか?


俺はいろいろな仮説を立て、静かに考え込んでいると、一つの可能性にとたどり着く。


(まさか、俺って天命の影響を受けないんじゃ?)


俺はそんな自分にとって都合に良い仮説をたててみると、


(まぁ、そんなわけないか。まぁとりあえず、これからゆっくり考える必要があるな...)


そうすぐに否定し、改めて考え直すことにする。


「気持ちの整理はついたかい、ケイン?」

「お、おう。なんだか悪いな2人とも。俺、自分だけの世界に入っちまってた」


俺は笑顔でそうつぶやくと、


「よ~し、またみんなで、前みたいにケインに魔法を教えてもらおうよ」

「そうだね、また前みたいに」

「おいおい、俺が教えるのかよ。アランだって魔法使えるだろ~」

「いやいや、ケインにはかないませんよ」

「はは、まったく...」


俺たちはイルルの家に戻り、イルルの新生活の準備を行う。



今回の件で、俺たちは天命に大きく振り回された。

しかし、悪いことだらけではなかった。

果たして天命というのは、俺にとってどんな存在なのか?


しかし、俺はこれからも天命に大きく人生を振り回されることは間違いない。

まずは15歳になったときに、俺自身に与えられるはじめての天命。


俺はたとえどんな天命を下されるとしても、俺の目標は変わらない。



何者にも縛られない、自由な非日常を実現する、その目標だけは。





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