第16話 魔法大研究
「話を整理しよう。結局、俺たちは2つの魔法を開発しなくてはならなくなった」
俺は大きな岩の上に立ち、これからの方針について話し出す。
「いいか、俺たちは2つの段階を踏む必要がある。まずイルルのお母さんがどんな病気なのか調べること。そして2つ目が判明した病気に対応した治療を行うことだ。そのため、その2つの手順を行う魔法をこれから開発するんだ」
俺が出した結論に2人は困惑する。
「ちょ、ちょっと、ケインの言ってることが分からないんだけど...」
当然だ、ここまで医療の発達していない世界の子供なのだ。
親からも病気を病名とかで分けずに、体調が悪かったら“イミュニティ”で治るよ、くらいにしか教わっていないのだろう。
考えてみれば、この世界の俺の親もそうだった。
「俺はこれから毎日魔法の開発を行う、2人はイルルのお母さんの看病に回ってくれ」
「え?、魔法の開発、ケインだけでやるの?」
仕方がない、俺も医療に詳しいわけじゃないが、この世界の人に比べたらあるほうだ。
2人には俺の魔法の開発が間に合うように、全力でイルルのお母さんのサポートに回ってもらうしかない。
「分かった、ケイン君。私にできることが少なくて本当にごめん。どうかよろしくお願いします。」
「分かったよ。たしかに僕もできることなさそうだもんね。ケインの案に従うよ」
イルルがそう返事をすると、アランも続いて了承してくれた。
「よし、これで決まりだな」
俺がそう言うと、それぞれ活動に移る。
俺たちの問題は、俺たちの手で解決するのだ。
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あれから1ヶ月がたった。
あの日から毎日、空地や夜に外に出ては魔法の開発を続けていた。
より精度の高い、魔法を開発するために...
そして今日、
「よしアラン、いくぞ」
「おぉ、ばっちこい!」
完成した魔法を実験する時がやって来た。
昼時、空地にアランと集まり実験を行う。
俺はアランの胸に手を当てると、
「“サーチ”!」
そう言って、自分の中にある魔素をアランの中に流し込む。
「おぉ、入ってきた入ってきた...」
「分かる、分かるぞ!」
すると、流した魔素から得た情報で、アランの健康状態が手に取るようにわかる。
この魔法は自分の魔素を人の体に流すことで相手の身体的状況が分子レベルまで認識することができる。
俺はこの魔法を“サーチ”と名付けた。
「おっ、お前の右の奥歯、虫歯だな」
具体的には、このように健康状態の人間との違いを的確に当てることができる。
「まぁ、正解です」
「お前さぁ、ちゃんと歯を磨けよ」
「だってさ~、いつも忘れちゃうんだよ~」
アランの虫歯のことはさておき、今回の実験、成功である。
この精度ならば、イルルのお母さんの抱える病気の原因くらいは分かるだろう。
俺たちは自信を持って、イルルの自宅へと向かう。
「お~い、イルル~」
「あっ、ケイン君」
家の前でイルルを見かけると、さっそく実験の結果を伝える。
「え~、昨日言ってた実験...成功しましたっ!」
「ほっ、本当にっ!」
俺はそう言って拍手する。
すると、2人も合わせて、拍手をして喜び合う。
「やっとだ。やっとここまで来たぞ」
なんやかんやでここまでの道のりは長かった。
いろんな遠回りをしてしまったが、やっとここまでたどり着いた。
俺たちは早速イルルの家に入り、イルルのお母さんの部屋へと向かう。
そして、扉の前に立つと、扉にノックする。
「はい」
部屋の奥から返事がし、俺たちは中へと入る。
「あら、ケイン君じゃない...」
イルルのお母さんはそう言って俺に話しかける。
「ど、どうも...」
あれから毎日イルルの家に行っていたが、イルルのお母さんは日が経つにつれてどんどん弱っていった。
体はやせ細り、目の上はくぼみ、頬もこけていた。
今すぐにでも調査を行い、治療する魔法を開発して使用しないと、かなりまずい状況なのは明白だ。
「ねぇ、お母さん。ケイン君がお母さんの病気治してくれるって」
「えっ」
イルルのお母さんは少し驚くと、
「ケイン君、そんなこと気にしなくていいのよ。私はね、イルルと仲良くしてくれるだけで、十分うれしいの」
そんな言葉をかけてくれる。
そんな人を俺は死なせるわけにはいかない。
俺はすぐに魔法の準備をして、
「少し失礼しますね」
イルルのお母さんのおなかに手を触れる。
そして、
「“サーチ”」
ゆっくりと、イルルのお母さんの体に俺の魔素を流し込む。
「えっ、何?」
イルルのお母さんはそうつぶやくが、驚く元気もないのか、そのままされるがままになっている。
(どこだ?どこが原因だ)
俺は上から下に向かってイルルのお母さんの体を隅々まで調べる。
すると、
(あれっ?)
肺にたどり着いたところで俺の調査の手が止まる。
イルルのお母さんの右の肺に、普通の細胞とは少し異なる細胞が存在していた。
(まさかっ、これは!)
俺がその可能性に行きついたとき、違うと思いたかった。
日本ですら多くの死因を招くこの病気が、こんな異世界にも発生してしまうなんて...
俺は思わず、その病名を口にしてしまう。
「がっ、癌なのか...」
俺のその言葉に周りの2人が反応する。
「ねぇ、“がん”って何のこと?」
「それが、病気の原因なのか?」
俺は2人の質問に答えるようにゆっくりとうなずく。
「なっ、何なんだ“がん”って?」
アランはそう聞くが、俺が細胞がどうのこうのと言ってもおそらく分からないだろう。
俺は癌について分かりやすく簡潔に伝える。
「いいか、癌ってのは、体の中にある生き物がその人の体を攻撃してしまう病気なんだ」
「体の中にある生き物って?」
「本来なら、いないはずの生き物だ。でも今回特別に出てきてしまった」
本当に適当だが、まぁこんな感じだろう。
なんとなくは理解したっぽいイルルが、今回においてもっとも大事なことについて聞いてくる。
「そ、それで、その病気ってのは治るんだよね?」
「...本当にこれは俺の魔法の技術しだいだ。俺の魔法でイルルのお母さんの中にある生き物をどれだけ完璧に取り除けるかがカギになってくる」
俺は静かにそう答えると、アランが少し焦りながら、
「な、ならはやくその魔法を開発しようよ。はやくしないと、間に合わなくなっちゃう。ケインなら大丈夫だよ、さっ、早く!」
「待て待てっ、そう焦っても仕方が..............えっ?」
最後まで言おうとしたところで俺は口が止まる。
(おいおい、嘘だろっ!!)
考えたくもない、予想したくなかった衝撃の事実を俺はまた突きつけられる。
肺の調査を終えた後、話しながら調査を続けていると、肺の下、肝臓のあたりで俺は見覚えのあるものを発見する。
「ねぇケイン、どうしたの急に静かになって」
これこそ、本当に考えたくない。
日本人ならその事実を聞くと恐怖で仕方がなくなってしまうだろう。
患者をより不安へと陥れる事柄...
「てっ、転移している!?」
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