第15話 これからの方針


俺たちが無事にイヨの村に帰ってきた次の日、俺たちはいつも通り空き地に集まる。


「こんにちは~2人とも。昨日はちゃんと休めれたかい?」


昨日、“飛翔”の魔法を使った俺は、ほとんどの魔素を使い切った状態だったが、しっかりと休み、今では俺の中にある魔素は満タンだ。


ちなみに“飛翔”というのは、昨日俺が王都の帰りに使った“バリア”と“フライング”の魔法の組み合わせのことである。

とりあえず“特急”と同じく分かりやすいように俺がそう名付けた。


「まぁ、一応」

「うん、そうだね」

「なんだよ、2人とも気のない返事だな~」


俺はいつも通り接したものの、前みたいにはいかないようだ。

昨日はイヨの村に帰るという、俺たちがすべきことがあったため、あまり考えないようにできていたが、家に帰って何もすることがなくなると、どうしても考えてしまったのだろう。

王都での一件を。


もう空気は完璧にあきらめムードであった。

あまり暗い雰囲気にはしたくはなかったが、この状態で無理やり明るい雰囲気にして話をするのは逆にイルルに失礼だ。

俺は雰囲気を周りに合わせて、話をはじめる。


「イルル、」


俺は真剣な顔で静かに名前を呼ぶ。

俺はあの時からイルルに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

自分からお母さんを助けられると言って、希望を持たせておきながら、結果奪う形となってしまったことに...

今回は本当に真剣に謝らねばなるまい。


「どうしたの?」


俺はイルルの返事を聞いたと同時に


「王都では本当にごめん!」


そう言って、深々と頭を下げた。


「えっ!どっどういうこと?」


俺は昨日からイルルに謝ると決めていた。

イルルはとまどいながら、俺を見ているが、俺はそのまま続ける。


「回復術師のことについて、もっと調べておけばよかった。そうしていればイルルを傷つけてしまうこともなかったと思う..」

「ケイン...」


アランも俺の行動に驚いていたが、俺のその言葉を聞くと、納得したようにそうつぶやく。

イルルのほうはしばらくの間、黙ってこちらを見ていたが、静かに深呼吸をした後、ゆっくりと俺に語り掛ける。


「ケイン君、頭を上げて。ケイン君は何も悪くないよ。ただ私のお母さんを助けようと思って行動してくれただけじゃない。逆にごめんね、こんな思いさせちゃって...そしてありがとう」


イルルはとても強い女の子だ。

自分の思いを押し殺し、母を助けられない悲しみを述べることをせず、俺のためにこんな優しい言葉をかけてくれる。


俺の考えは甘かった。

まだ8歳の女の子にこんな思いをさせた男が実は心は大人だなんて、聞いてあきれる。


「それに大丈夫だよ、私がお母さんを死なせないように精一杯看病するから...」


イルルは俺に罪悪感を持たせまいとそう言ったのだろうが、俺としてはイルルにそう言わせてしまったことが本当に申し訳ない。

この言葉から、イルルはもう、心の中ではあきらめてしまっているのだろう。


俺はこのままでいいのだろうか。

人の命を助けることができず、俺はそのままその人が死ぬのをただ見るだけなのか?

否、


「いいわけあるかー!」


俺は大声で叫ぶ。

俺はイルルに謝りはしたが、あきらめたわけではない。

そして俺は続いてこう言った。


「イルル、何あきらめてんだ。俺はまだあきらめない、これからが本番だっ!」

「えっ!!」


急な場の空気に合わない俺の発言に2人は驚く。


「ど、どうしたんだよケイン。ほかにもまだ手があるって言うのか?」


俺の急な態度の変化に、アランはすこし希望の念をもって俺に接してくる。

しかし、


「いや、残念ながら新しい手は何度も考えたが思いつかなかった」


俺は別に新しい案があるわけじゃない。


「だったらなんで!?」


結局、さっきと変わらない現実に、アランは思わずこう言うが、


「だから!俺らがもともと考えていたもう一つの案を、実行しようと思う」


俺のその言葉を聞くと、アランは気づいたのか、目を見開く。


「まさか、その案って...」

「そう、お前も考えていた案でもあるな。イルルのお母さんを助ける回復魔法を、俺たちで開発するんだ」


俺はゆっくりとそう言う。

しかし、


「で、でも、前はその案はダメだって...」


アランはすぐに前回の俺の意見から、そう否定してくる。


「確かに、この案は消去法だ。回復術師にやってもらうのが一番いいのは間違いない。しかし、こうなった以上、回復魔法を開発するしか、道は残されていないんだ」


俺の発言に、2人はしばらく黙り込む。

2回目の急な路線変更なのだ、無理もない。

長い沈黙の後、先に返事をしてきたのはアランだった。


「分かったよ、それしか道はなさそうだもんね。僕は最後まで付き合うよ」


アランはそう言って受け入れてくれた。

すると、


「ま、まだ私、希望を持ってもいいのかな...?」


イルルもアランに続いてそう言った。


「もちろんだ、俺たちはまだあきらめない」


俺が覚悟を持った様子でこう言うと、


「分かった...私も、できるだけ協力するからね」


イルルもそう言って受け入れてくれた。

3人の意見が一致したところで、俺はこぶしを突き上げこうつぶやいた。


「よし、俺たち3人はまだまだあきらめねぇ!」


俺たちの運命との戦いはまだまだこれからなのだ。



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「で、これからどうすんの?」


結論が出たはいいものの、俺はまだ詳しい内容を話していないことに気づく。


「そうだそうだ。とりあえず2人とも、これを見てくれ」


俺は持ってきたカバンの中から、数冊の本を取り出す。


「こ、これって...」

「世界のあらゆる病気の症状を記した本だ。この中にイルルのお母さんの病気が書いてあるといいんだけど」


実を言うと、俺が昨日王都で買ってきたのはこの本たちだ。

昨日の時点で俺は回復魔法の開発を検討しており、その参考資料としてその時に買っておいたのだ。

医学の知識なんか俺にはほとんど皆無であるため、この本頼りになるのは間違いないだろう。

俺はとりあえずこの本をパラパラとめくってみる。


しかし、ページをめくればめくるほど、記載されている事実に、俺は疑いたくて仕方がない。


「おいおい、嘘だろ!?」


この本の内容に俺は驚愕する。

この本には病気一つ一つの症状について書かれてはいるものの、何が原因で、どうすればいいのかが記されていなかったのだ。


そのため、原因が分からないため、病気の対処法も、患者の体力を魔法で上昇させる、それしか書かれていないのだ。

体力を上昇させ、免疫力を高めることで、後は患者さんの体に頑張ってもらう、そういうやり方しかないらしい。


「免疫力は上げるから、あとは白血球に任せるってか!」


俺は思わず変なツッコミを入れてしまう。

この世界では、この対処法が無理だった場合、後は死を待つのみだという。

ふざけないでほしい。


本を買うときちゃんと中身を見るべきだった。

「世界の病気」なんてオールマイティっぽい名前しているから、大丈夫だろうと中身を気にせず買ってしまった。

これだけでこの世界の医学がどれだけ発達していないのかよく分かる。

これはかなり厳しいな...


「ケイン。“はっけっきゅう”って何?」

「まぁ、気にするな...別に深い意味はない」


俺はそのあと全体を通して読んでみたが、内容は症状が異なるだけで対処法は一緒だった。


「ダメだ、この本使えね~」


俺は思わずこうつぶやくと、


「どこがダメだったの?」


イルルがすかさずそう聞いてくる。


「この本には何の病気なのか知る術も、まともな治療法も一切書いてないんだ。これだけだととてもじゃないが、対処法が立てられない」


俺の発言に俺とイルルはがくりとうなだれる。


免疫力を上げる魔法である“イミュニティ”はもうとっくに試している。

試しているというか、俺的には看病という形でしか使っていなかった。

これが治療だなんて一切考えていない。

この分だと、もし回復術師を連れてきたとしても、助けられなかったかもしれない。


「俺、スゲー遠回りしてんじゃん...」


結局、イルルのお母さんを助けるにはこの方法しかなかったのだ。


どんな病気にかかっているか診察する魔法“スキャン”を開発する上に、判明した病気を治す魔法の2つを開発する、その道しか...


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