第14話 成果のない帰還

現実を突きつけられた次の日。


日が昇り、太陽の光が窓に差し込むと俺はむくりと起きる。

そして大きなあくびをひとつして、隣のベッドで寝ているアランを起こす。


「起きろ、朝だぞ」

「う~ん、もう朝?おはよ~う、ってまだ太陽あんなに低いじゃん。もう少し寝かせて~」

「今日帰らなきゃいけないんだぞ。早く帰らないと親に怪しまれる」

「それはそうだけどさ~、」


いろいろ文句を言うアランを無理やり起こし、


(変身...っと)


俺はケインからカインへと魔法で変身する。


「ケインのその変身、なかなか慣れないな~」


俺たちはとりあえず、風呂に入るために着替えを持って部屋を出る。


この宿屋は風呂もちゃんと設置しているらしい。

転生してすぐのころは、この世界の人は日本と比べると、清潔じゃない気がしていたが、意外とそうでもないらしい。

誰でも毎日とまではいかないが、みんなけっこうな頻度でお風呂に入っている。


俺たちは扉を開け、部屋を出ると、


「あ、おはよう。二人とも起きるの早いんだね」


隣の部屋からイルルが出てきた。


「それはお互い様だろ。俺の方から起こしに行こうと思ってたのに」

「いつもこのくらいの時間に起きてるから、自分で起きれるよ。気にしないで」


俺たちはそんなことを言いながら風呂場へと向かう。

イルルと浴場入口の前で別れると、俺とアランはちゃんと男湯のほうに入り、服を脱ぐ。


「わ~、カインの体って本当にちゃんと大人なんだね」


アランが裸になった俺の体を見てそう言う。

カインの体は前世の大学生だった俺の体を参考に構成している。

筋肉もついていれば、生えるものはちゃんと生えているのだ。


「ふふん、アランも大人になればこうなれるんだぞ!」

「う~んでも、僕もトランスフォーメーションの魔法を使えばよくない?」

「まぁ、たしかに...」


この世界は魔法のおかげで、はやく大人になりたいと思う子供の夢をあっさりと叶えてしまえるらしい。

実際、俺も大人になってるし...


服を脱ぎ終え、風呂場に入ると、さすが高い金払っただけあって、俺の目の前には大きな空間が広がっていた。

早速湯船に入ると、昨日のダッシュ移動のこともあって今日の風呂はいつも以上に気持ちいい。

しかし、時間のこともあるため、ある程度湯船につかると、俺たちは出て、着替えを行う。


「ふぅ、すっきりした~。今日の朝ご飯は何だろな?」


アランがうきうきしながらそう言う。

朝ご飯はここの宿屋が用意してくれるらしく、値段にあった料理が出てくると思うと俺としてもとてもわくわくする。

まぁ、20万セモンってのが高いのかどうかは分からないのだが...


とりあえず俺らは風呂から出ると、みんなが朝ご飯を食べる飲食スペースの前でイルルが出てくるのを待つ。


「イルル、遅いな~」

「女の子の入浴ってのは長いもんなんだよ」


女の子のお風呂というのは大変らしい。

男より長い髪の毛をきれいに洗うために長い時間を要し、その上湯船につかるときはマナーとして、髪が湯船に入らないようにまとめておかなければならないらしい。

その上、その濡らした髪を乾かすのにも当然長い時間がかかる。


前世のネットの受け売りだが、それが事実だとすると女性の身だしなみって大変だな~なんて思っていると、


「お待たせ~」

「あ、うん。思ったより早かったね」


俺が思っていた以上に早くイルルも風呂から出てきた。

ちゃんと湯舟には浸れたのだろうか。


3人が集まったところで俺たちは食事スペースへと向かい、朝ご飯を食べる。

朝ご飯のメニューは白いパンに魚料理、具沢山のスープの3つ。

日本人からすると豪華か?と思うかもしれないが、この世界ではこのような朝ごはんは贅沢の部類だった。


朝というのもあるかもしれないが、今日の食事の雰囲気は昨夜ほど暗い雰囲気なく、済ませることができた。


「俺ちょっと買い物してくるから先にここ出るよ。2人も準備が終わったら北門前に集合しておいて」

「オッケー、分かった」


俺は2人よりも早く食事を終えると、そう言って部屋に入って荷物をまとめ、先に宿屋を出る。


「よし、買うもの買って、さっさと帰りますか」


俺はそうつぶやきながら、買い物に向かうのだった。



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「ごめ~ん、遅くなった~」

「もう、遅いよ。何やってたの?」


俺が北門に到着したころには、すでにアランとイルルが門の前で待っていた。


「いや~、買い物に長引いちゃって」

「早く帰らないと親に怪しまれるって言ったのそっちじゃん!何の買い物してたんだよ?」

「それは帰ってからのお楽しみだ」


俺はそんなことを言うと、俺たちは門の隅に隠れる。

そして、イルルに“トランスペアレント”の魔法をかけると、アランも自分自身に魔法をかけ、2人とも透明になる。


「よし、帰るか」


俺は2人の先頭に立ち、北門を出る。


「おぉカインじゃないか。また依頼でも受けたのか?」

「まぁそんなところだ。じゃ、行ってくる」


門番の2人挨拶をすると、そのまま北に進み、王都が見えなくなったところで俺はイルルとアランの魔法を解く。


「はぁ~、また長い間走るのか。嫌だな~」


アランはため息をついてそうつぶやいている。


アランはそんなことを言っているが、今回はちょっと違うんだな、これが。


「安心しろ。今回はもうパパっと帰っちまおう」

「え、どういうこと?」

「ささ、二人とも、俺の近くに寄って」


俺はそう言って2人を俺の近くに寄せると、俺は“バリア”の魔法を俺たち全体を覆うように使う。

そして、準備を終えると俺は格好をつけながら叫んだ。


「“フライング”!」


すると俺たちはバリアーごと空中に浮かびだし、王都に来た時以上のスピードで北へと飛びだした。


「え!?なにこれ。めっちゃ速いんだけど!」

「すごーい!!」


アランは大声で驚き、イルルもさっきまでの寂しげな表情を大きく変えるほどびっくりしている。


「驚いたか?俺が最近開発した空を飛ぶ魔法“フライング”と、“バリア”を同時に使うことで“特急”の何倍ものスピードを実現したのだ」


俺は自慢げにそう叫ぶと、アランが急に静かになり、こうつぶやく。


「あれ、じゃあなんで王都に行くときはこの魔法で行かなかったの?」

「ちょっとあの時は仕方がなかったんだよね~。巨人のいるっていう洞窟って森に隠れてて、空からじゃ判断できなかったっていうのもあるけど、正直言ってこの魔法めちゃめちゃ魔素使っちゃうんだよ。たぶん帰ったときにはもう俺の魔素からっからだと思う」


昨日に関しては戦ったことのない巨人と戦わなきゃいけなかったっていうのがあり、魔素を温存しておいた。

しかし、帰りはそんな心配は必要ない。

気にせず魔素を思いっきり使い、時速800kmくらいで飛んでいく。

すると、そうこうしているうちにもうイヨの村が見えてきた。


「はやっ!昨日のは何なんだって思うくらいだな」


まだ30分しか経っていないのにもう着くとは、さすがに昨日の旅がばかばかしく感じてしまう。


俺たちは村の前の森の中にゆっくりと着地すると、魔法を解く。

そして、昨日と同じように魔法で全員を透明にし、こっそりと村の中に入った。


「なんか懐かしい感じだね~」


たかが一日離れていただけだが、すこし新鮮な感じがする。

俺たちは無事に村へと帰ることができたのだ。


しかし、そんな喜びの反面、俺はやはり1つの後悔が頭によぎってしまう。


回復術師を連れてくることができなかった、その事実に...




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