第13話 天命による弊害
「て、天命!?」
俺はお姉さんの発言に戸惑う。
ここでも天命かと、そう思ったからだ。
冒険者組合でもそうだった。
俺たち冒険者が依頼を受ける際、毎回受付の人にこう言われる。
「こちらの依頼は、あなたがもらった天命の内容でお間違いないですか?」
すべての冒険者は月一で与えられる天命に従って依頼を受けている。
たとえ、自分が受けたい仕事ではなかったとしてもだ。
しかし、冒険者は文句を言うことは一切ない。
理由は簡単だ、それは天命に従っていれば死ぬことはほとんどないからだ。
天命というのは本当によくできており、変な占いなんかよりよっぽど明確に進むべき道を教えてくれるらしい。
天命というシステムは俺にとっては耐え難いものであるが、この世界の人からしたらとてつもなく、ありがたいものなのだ。
しかし、天命をまだもらっていない俺にとっては、やはり迷惑なもので、いつも天命をもらう月末直前に、私のもらった天命はこれだと嘘をついて、余った依頼を受けなくてはならない。
今回もこのシステムであったため、返答に困ってしまう。
しかし、この場合は避けられない。
今回の場合、回復術師もどの人を治療するのかの天命をもらっているはずだ。
隠すことは不可能。
俺は正直に言うことにする。
「あの、僕たち天命もらっていないんですが...」
そう言うと、俺たちは厳しい現実を突きつけられてしまう。
「それですと申し訳ありませんが、治療を受けることはできません」
(まじか、天命の影響力高すぎだろ...)
さすがの天命の力に、俺は驚きを隠すことができない。
「そ、そんな...」
イルルも隣で見ても分かるくらい落胆している。
「人に命がかかっているんです。何とかなりませんか?」
天命をもらっていない以上、後はその人の良心に訴えかけるほかない。
俺は全力で頼み込む。
「え、え~とそういったことはちょっと...」
すると、受付の人は俺たちの予想外の反応に戸惑い始める。
当然と言えば当然だ。
天命をもらっていない以上、普通の人は治療を求めてくるどころか、治療院にすら訪れることはないのだから。
「そこを何とかお願いします!」
「お願いします!」
「お願いします!」
俺たちは全力で受付の人に頼み込む。
「ちょ、困ります。頭を上げてください」
受付の人が俺たちの勢いにたじろんでいると、
「どうしたんだ、受付の前で騒々しい」
奥の方から人がやってくる。
「あっ、先生!」
受付の人がその人をそう呼んだ。
恐らく、この治療院の回復術師だろう。
その姿は、身長は170ちょいで、金髪の男性だった。
「もう閉院の時間だぞ。まだ患者さんがいるのなら早く連れてきてくれ」
「そ、それがこの人たちは天命はもらっていないとおっしゃるので...」
「何?」
受付の人の話を聞くと、回復術師の態度が変わる。
「あのなぁお前ら、天命をもらっていないのに来るんじゃねーよ。俺たちだって忙しいし、治しちゃいけねー患者とかもいるんだよ。だから俺たちだけで治療するかの判断なんてしない。神様が治療しなくていいって言っているんだ、大丈夫だろ。ほら、帰った帰った」
回復術師のあまりの天命だよりの判断に、俺は驚愕する。
(さすがに天命を信じすぎだろ。少しは自分の頭で判断しろよ)
俺がそんなことを思っていると、
「お願いします、話だけでも聞いてはもらえませんか?」
イルルだけが、二人に対して今まで以上に深く頭を下げだす。
「ちょ、ちょっと...」
受付の人は戸惑っているが、
「いい加減にしろ!この世界は天命を中心に動いているんだ。お前らのような世界の秩序を乱すような奴らにかまっている暇なんてないんだよ!」
回復術師は迷うことなくそう言い放つ。
「お願いします、お願いします。お母さんを助けて下さい」
しかし、イルルはあきらめない。
そして、回復術師の言葉に半ばあきらめかけていた俺とアランもそんなイルルの姿を見て、
「お願いします」
「お願いします」
そう言って頼み込む。しかし、
「だめだって言っているだろ!はやく出て行ってくれ!!」
回復術師も堪忍袋の緒が切れ、俺たちを治療院の外へ追い出す。
回復術師の対応に、さすがにされるがままの俺とアランだったが、
「お願いします、助けてください。お願い...」
イルルは最後まで、回復術師にむかってそう頼み込んでいた。
そして治療院の人たちで俺たちを外に追い出すと、
「次からはちゃんと天命をもらってから来いよ。じゃあな」
回復術師は俺たちにそう言って入口の扉を閉める。
その言葉に、ただ立ち尽くしていた俺たちだったが、
「お願いします、お願いします」
イルルは、回復術師がいなくなっても、しばらくうずくまりながらそうつぶやくのだった。
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「まさかこんなことになるなんて、予想外だった...」
治療院を追い出された俺たちは、とりあえず今夜の晩御飯を適当な店でとった。
こんな事態になってしまったため、とてもじゃないが食事を楽しもうという気にはなれなかった。
俺たちはいつもよりちょっと豪華なパンと肉料理をただ無言でスムーズに食べるのみ。
料理を待つ時間の空気は地獄でしかなかったが、何を話せばよいのかわからないまま何の会話もなく、食事を終え、店を出るのだった。
「さ、さぁ、今日はどこに泊まろうかな。報酬ももらったことだし、今日はいいとこに泊まろうぜ」
「そ、そうだねっ!」
俺とアランはとりあえずさっきのことは忘れようと、今夜の宿について話しながら、明るくふるまうが、
「...」
俺たちの後ろをただついてくるイルルの顔は生気がないかのような顔だった。
無理もない、お母さんを助けられるかもと希望を抱いたにもかかわらず、その希望が打ち砕かれてしまったのだから。
この件に関しては俺にも責任がある。
もう少し調べてから連れて行けばよかったと、後悔の念がよぎる。
「こ、ここなんていいんじゃない?部屋も大きそうだし」
アランはたまたま通りかかった宿屋に向かって指さす。
その宿屋は貴族が使うほどではないが、庶民が使うようなところよりは豪華かなくらいの大きさで、いかにも庶民が少し贅沢して泊まる宿といった感じのところだった。
「お、良いんじゃないか。今日はここにするか」
俺がそう言うとイルルは小さくうなずく。
3人の意見が一致したことを確認すると、俺たちは大人の姿である俺を先頭に中へと入る。
「いらっしゃい、3名でのご宿泊ですか?」
「3名で2部屋用意してくれる?あと宿泊日数は1日で」
「分かりました、当店は前払いですので、大人1人と子供2人で1泊の料金20万セモンいただきます」
(20万って高いのか?まぁいいか)
俺は言われた通り20万セモンを支払うと、鍵をもらい部屋へと向かう。
部屋の前に到着すると、
「じゃあイルルは一人で一つの部屋を使って。俺とアランはもう一つの部屋を使うから。じゃ、また明日。ゆっくり休んで」
そう言って俺はイルルにカギを渡し、俺とアランは借りたもう一つの部屋に入る。
部屋の中は外観から見た通りの大きさで、2人だとしても全然狭くない広さだった。
「お、良いじゃん良いじゃん」
アランはそう言ってベッドに飛び込む。
「あんまりはしゃぐなよ~」
俺はそう言いながら今まで俺にかけていた魔法を解く。
「あ、ケインが子供に戻った~。ちょっと懐かしい感じがする」
「たった数時間だけだぞ。何をそんな...」
そして俺もアランと同じくベッドに飛び込む。
「もう今日は寝よう。明日も早い」
「ねぇ、イルルの部屋には行かなくていいの?」
アランは雰囲気を変え、イルルに何か言葉をかけた方がいいのではないかと言ってくる。
「今日はそっとしてあげよう。気持ちを整理する時間も必要だ。イルルにはゆっくり寝てもらって、俺たちが明日起こしに行こう」
正直に言って俺はイルルになんて声をかけていいのか分からない。
俺自身も気持ちを整理する必要があるのだ。
「そうだね、今日はもう寝ようか」
「親にバレないように、日が昇ったらすぐに帰るからな。ちゃんと起きろよ」
俺はそう言って、寝る準備をして、さっさと眠りにつくのだった。
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