第10話 さぁ、しゅっぱ~つ!
「私たちで稼ぐって、どういうこと?」
「今は時間がない。理由は王都につく前には話すから、とりあえず出発しよう」
タイムリミットはせいぜい明日の昼頃までだ。
俺はイルルの質問を遮り、出発の準備をする。
「出発って、そういえば王都へはどうやっていくの?森に馬車なんてないだろうし...」
「は?何言ってるの。走ってに決まってるじゃん」
アランの質問に俺ははっきりとそう答える。
「噓でしょ!イヨの村ってこの大陸の一番端っこにあるんだよ。ここから王都までどのくらいあると思っているの!?」
「“特急”の魔法を使うに決まってんだろ。スピード上げて止まらずに走り続ければ夕方までには到着するよ」
“特急”とは当然あの特急ではなく、俺が普通の人間以上のスピードで突っ走るために考えたもので、3つの魔法“パワー”と“エナジー”、“バリア”を並行して使うことを俺がそう呼ぶことにした、つまりは俗称である。
“パワー”と“エナジー”とは生活魔法の1つであり、“パワー”は筋肉増強、“エナジー”は体力向上を可能にする。
それと、“バリア”は俺が開発した魔法で、かけたものの周りに魔素の障壁を張る。
まぁ今回では、走った際の空気抵抗などから身を守るために使う。
つまり、この3つの魔法を使うことで本当に特急くらいのスピードで走れるというわけだ。
「なるほど、でも王都まで走るって、とても1日じゃたどり着かないよ。夕方までになんてとても...」
「当然、前みたいなスピードじゃない。今回は本当に超スピードで突っ走るよ」
「本当に!?やった、1回全力で走ってみたかったんだ」
俺は以前アランと空き地でかけっこをしたことがあったが、明らかに空き地が狭すぎたため、スピードを上げてもほとんど走れなかったという思い出がある。
しかし、今回は相当な距離を走るため、本当に特急並みのスピードを出すことになるだろう。
「えっと、とっきゅうって何?」
「まぁ、疲れずに速く走れるようになる魔法さ。今からイルルにもその魔法をかけるからな」
まだイルルは生活魔法をほとんど習得していないため、今回は俺が王都まで持つくらいの量の魔法をイルルにかける。
そして、そのあとに俺にも魔法をかけ、その間にアランも自分自身に魔法をかける。
そしてバリアに関しては、俺の声が2人に聞こえるように3人全体を覆って魔法を使う。
「よしっ、みんな魔法がかかってるな。みんな俺についてきてくれ。それではしゅっぱ~つ」
俺はそう言うとみんなに先頭だって走り出す。
「よ~し、僕も」
「み、みんな待ってよ~」
そしてアランとイルルも俺についてくるように走り出す。
「よ~し、どんどんスピード上げていくぞ~」
アランとイルルがついてくると俺は徐々にスピードを上げていく。
「めっちゃ速い!これもう電車くらいのスピード出ているんじゃね~か」
森を切り開いたような細い道であるため、実際には特急ほどのスピードは出していないものの、それでも相当なスピードが出ている。
俺がハイテンションでそうつぶやくと、
「ひゃっほ~い、気持ちいい~!」
アランも気持ちよさそうに後ろをついてくる。
しかし、一方で、
「みんな速すぎるよ~、待って~」
イルルがあまりのスピードに、身体的には“バリア”のおかげでなんともないが、精神的にはかなりまいってしまっているようだ。
「ごめ~ん、そのうち慣れるから、気にせずついてきて~」
「え~、そんな~」
これから数時間の旅が始まる。
とりあえず、この森を抜けださなくてはっ。
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「森の出口にとうちゃ~く!」
南に向かって走り続けて数時間、俺たちはついに森を出ることができた。
出発する前は、2人とも魔物を警戒していたが、俺たちは何十キロというスピードを出して移動していたのだ。
魔物も恐ろしくて出てくることはあるまい。
結局、俺たちは魔物と遭遇することはないまま、出口到着である。
「よ~し、一回休憩するか」
俺はそう言って、森の出口で立ち止まると、3人全体の“バリア”の魔法を解き、一回休憩をとる。
すると、
「すご~い!森を出たらこんな感じになってるんだ~」
アランは少し驚いた様子でそうつぶやく。
森を出ると、そこにはあたり一面平原が広がっていた。
「こんな景色初めて見た、世界にはいろんな景色があるんだね...」
イルルも感慨深そうにそう言う。
人生で初めて見る景色に2人ともとても楽しそうだ。
「なぁ、見えるか?あれ、あそこがアワの村だ」
森を抜けてすぐのところにアワの村という村が存在する。
この村からもっと南のほうに進むと、目的地である王都へ到着だ。
また、アワの村からイヨの村とアワの村から王都までの距離はさほど変わらないため、ここは王都までのちょうど中間地点にあたる。
あと半分。
時間も限られているため、急がなければ...
「ねぇケイン、あそこの村で休憩しようよ」
「悪いがそんな暇はない、結構ギリギリのスケジュールなんだ」
「え~、いいじゃんケチ!」
「なんとでもいえっ。休憩は終了だ、もう出発するぞ」
アランの提案を俺はバッサリと拒否し、休憩も5分くらいたったところで終わらせる。
すると、
「ねぇ、まだこれから何するか教えてもらってないんだけど」
「あぁ~...」
2人に話すのがめんどくさくて後回しにしていた、今回の旅の目的について問われる。
「そういえばそうだったな、よしこれからは走りながら話すわ。そうと決まったらさっさと出発するぞ」
「え~もうちょっと休憩しようよ」
アランはそう言って文句を言うが、俺は気にせず2人に“バリア”の魔法をかけなおす。
「四の五の言ってるんじゃない。バリアもちゃんと張ったことだし、もう走り出すよ!」
「え~、ちょっとまっ...」
「しゅっぱ~つ!!」
アランが言い終わる前に、俺は自身の掛け声と同時に出発する。
アランも文句を言いながらもバリアから外れないようにと、仕方なさそうに俺についてくる。
そしてスピードに乗ってきたところで、俺はこれからのスケジュールを説明する。
「いいかお前ら、今回の目的は王都から腕のいい回復術師を連れてくることだ」
「あ~やっぱりね。うすうす予想はしていたよ」
アランが内容はもともと知っていたかのようにそうつぶやく。
「あの、さっきも言ったんだけど、私にはお金が...」
「だからさっき言ったじゃんか、俺たちが稼ぐって」
俺とイルルはまた似たような会話を繰り返す。
「だからどういう意味なの?」
「まぁまぁ、とりあえず俺についてきて。あとで分かるから」
俺はそう言うと、急に方向を少し西へとずらす。
「どうしたの急に?王都ってもうちょっと右なの?」
「いや、前見た地図だとさっきの方向であってたような...ねぇケイン、道間違ってない?」
「いやいやあってるよ。このままで」
俺はそんなことを言っているが、実は俺は寄り道として、王都ではないあるところへと向かっている。
数十分くらい走ると、俺たちは目的地に到着する。
「とうちゃ~く」
「えっ、ここって...」
あるところとは、とある洞窟。
王都とはどう考えても異なるその光景に2人は驚く。
「よ~し、中に入るぞ」
「待って待って待って、どういうこと?王都は?」
「いや、アラン君、実は王都って洞窟の中にあるんじゃ...」
「そんなわけないでしょ!ちょっとケインどういうこと!?」
俺は2人の会話を基本無視して奥に進む。
さすがに2人も、俺がいない状態でここに残るわけにもいかないらしく、俺に続いて中に入る。
2人には分からないだろうが、奥には結構大きな魔素を感じる。
そしてその大きな魔素に近づいたところで俺は2人に話かける。
「なぁ2人とも、魔物って倒すとその死体を買い取ってくれるって知ってるか?」
「あ、うん。たしか冒険者組合ってところが...ってまさか!?」
アランがそこまで答えたところで気づく。
「えっ、待って。どういうこと?」
イルルはまだ気づいていないようだが、そうこうしているうちに俺たちはその大きな魔素のある所へ到着する。
「見てみろっ、俺たちはこれからあれを倒して冒険者組合に死体を買い取ってもらうんだ!」
「おいおい、あれって...」
俺が指さす方には、俺たちなんか小人と思えるほど大きな巨人が大きなこん棒を持って立っていた。
「うわぁーーーー!魔物だーーーー!!」
さぁ、バトル開始っ!!!
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