第7話 少女との出会い


俺の誕生日の次の日、俺は気を取り直していつもの空地へと向かう。

昨日はこの世界の事実に驚いてしまったが、一晩寝ることで少し落ち着いた。

やはりいまだに信じられないのと、まぁ何とかなるだろうという気持ちがそうさせているのだろう。

これも一種の自己防衛本能なのかもしれない。


俺は前世でも問題が起こると、そう考えることであまりストレスを感じることなく生きてきた。

実際、日本だからというのもあるかもしれないが、今までこれで何とかやってこれていた。

そのため、今回も大丈夫だろうという変な自信があったのだ。


俺が空地へ着くと、そこにはアランが立っている。


「やっほ~、どうしたの?今日は少し遅かったね」

「いや、別に何も。さぁ、さっさと始めようぜ」


俺はいつもどおり新しい魔法の開発をする。


「ねぇ、僕にもケインが開発した魔法教えてよ!」

「あ~、そういえば先日、生活魔法全部習得出来たって言ってたな」


俺に続いて、アランも生活魔法の習得はとっくに終わっている。

あれから5年たったとはいえ、前世の記憶もないアランが大人でも2、3個持ってたら十分と言われている生活魔法を、すべて習得するとは驚きである。

これなら何の不自由なく生活することができるだろう。

しかし、よりイメージが要求される魔法の開発ともなれば、さすがのアランでも難しい。


「しゃ~ない、教えてやるか...」

「ホント!やったぁ!」


俺たちがそんなことを言っていると、


「ガサガサ・・・」


ここに来る際に通る位置にある草むらのほうで物音がする。


「やばい!人が来たぞ」


俺はそう言うと、急いで自分とアランに“トランスペアレント”の魔法を使う。


俺たちは、いつも人が通りかかるたびにこの魔法を使って隠れている。

最初はアランに“トランスペアレント”を作った理由付けとして使うようにしていたのだが、実際に使ってみると、俺たちがここにいることが村の人バレることなく、堂々と魔法の開発に勤しめるため、今でも人が来ると“トランスペアレント”を使って隠れるようにしている。


そしてしばらくすると、草むらから女の子が出てきた。

その女の子は俺より少し年下くらいの風貌で、髪型はショートカットで黒髪である。


「あれ、このあたりに行ったと思ったんだけど...見失っちゃった」


女の子がそう言っているうちに、俺たちは近くの岩陰に隠れる。

いくら透明だからといっても、ちゃんと隠れていないと少し不安になってしまうのだ。


「どこに行っちゃんたのかな?ケインって子...」


(えっ!)


急に女の子の口から俺の名前が出てきたことに俺は驚く。


(しまった!後をつけられてたか)


昨日のこともあってか、この空き地に向かっている間に後をつけられていることに全く気付かなかった。


「ね、ねぇ、探してるよ。ケインのこと」


アランは俺に向かって、小さな声でそうつぶやく。


「そ、そうは言ってもなぁ...」


俺はどうするべきなのか慎重に考える。

俺のことを探しているのなら、俺がこの村に住んでいる以上、見つかることにはなるだろう。

その上後々変に後をつけられ、俺たちが魔法を使っていることがばれることを考えると、今のうちに姿を見せたほうがいいのかもしれない。


「仕方ないか...よしっ!」


俺は意を決して俺とアランにかかっている“トランスペアレント”を解き、


「え~っと、呼んだ?」


そう言いながら岩陰から出ていく。


「あっ、あなたがケイン君?」

「そ、そうだけど...」

「やっと会えた。うれしい」


女の子はそう言いながら、俺の手をつかみ、


「私の名前はイルル。ケイン君、私と友達になってほしい」


そう言ってきた。


「まじか...」


今まで、こんな経験のなかった俺は必要以上に動揺してしまう。

すると、


「いいないいな~!僕も友達になりたいよ~」


アランが後ろからそう言ってくる。


「あなたは?」

「僕の名前はアラン、ケインの友達だよっ」

「あっ、君がアラン君。うん、私もお友達なりたい」

「ほんと?やったぁ!よろしくね、イルル」


おっと、なんか知らない間に、持ち前のコミュニケーション能力で、アランはもうイルルの友達になっちゃったよ。


「え~っと、なんで俺なの?」


とりあえず自分にとって、一番重要なことを聞いてみる。

するとイルルは急にもじもじしだして、こうつぶやく。


「あの、少し言いづらいんだけど、ケイン君が一番、みんなと仲良くしているイメージがなかったから」

「それは俺が陰キャだとでも言いたいのかい?」


おっと、つい反応してしまった。


「えっと、いんきゃって何?」

「あ~、別に何でもない。で、どういう意味かな?」


こんなことでいちいち話を遮っては話が進まないため、とりあえず流すことにする。


「わ、私、みんなと集まってはしゃいだりするの、苦手だから...それで物静かで、いつもアラン君とだけ遊んでいるケイン君なら、仲良くなれるかなって」


なんだ、ただの同士ではないか。


俺はこの世界にも同士がいたのだと思い、急にうれしくなる。


「ご、ごめん。言い方が悪かったよね」

「いいや、気にしないで。俺たちはもう友達だ!」


俺は急に気がよくなり、友達になることを快く了承する。

この世界にも陰キャがいるのなら、俺はその人たちと手を取り、助け合わなければならないのだっ!


「ほ、本当!友達になれるか不安だったんだ!よ、よろしくね、ケイン君」

「あぁ、よろしく、え~っと...」


おっと、同士がいたことに喜んで友達と言ってしまったが、その前に名前を聞くのを忘れていることに気づく。


「あ、自己紹介するの忘れてたね。私はイルル、8歳!」

「俺はケイン、10歳だ。よろしくな、イルル」


俺は手を差しだし、イルルは俺の手を握る。


考えてみると、アランと友達になって4年、俺はやっと2人目の友達ができた。

握手を終えると、俺は空を見上げてこう思う。


いや、普通に遅くね?新しい友達出来るの...


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