第6話 この世界の仕組み...


村の外で魔法の特訓を始めて数か月経ったある日の正午、家で昼ご飯を食べた俺は外に出ようと玄関に向かう。

すると、俺に向かってトコトコ歩いてくる小さな女の子が一人。


「お兄ちゃん、今日も夕方に帰ってくるの?」


俺の妹、エレナである。

エレナももう2歳となっているが、未だに妹のいる生活というのは慣れないもので、俺からというより、エレナの方から話しかけてくれることの方が多くなってしまっている。


「うん、そのくらいかな。じゃ、行ってきます」

「いってらっしゃーい!」


そう返事をして、俺は家を出る。


そして向かう場所は当然いつもの空き地。

俺は村の外で特訓を始めてからも、新しい魔法の開発とアランに魔法を教えるために空き地には毎日行っている。

夜の特訓といっても、まともな睡眠時間を確保できる時間帯には帰ってきているため、日常生活に支障をきたすことはない。

現在でもこれまで通りの生活が送れているというわけだ。


俺が村の中を歩いていると、一組の母子が家の前でけんかをしている。

母親のほうはよくわからないが、子供のほうは15,6くらいの男子だろう。


「僕はこのままこの村で一生を過ごすなんて嫌だ!僕は王都の学校へ行くんだ」

「ダメに決まっているでしょう。そんなことはさせられません!」


どうやらその子供はこの村を出て、王都に行きたいらしい。

王都はここから遠く、イヨの村をでた先にある村を越えたところにあるため、かなりの距離である。

この世界は学校に行くのが当たり前ではない上、行かせるにも多大なお金がかかるため、そうやすやすと行かせられない。

親が止めるのももっともである。


しかし、この後子供の親が放った言葉に俺は少し違和感を覚えた。


「それにね、あなたの人生はもう決まっているの、先日天命が下ったんでしょ。この村で漁師として生きなさいって」

「そ、それはそうだけど...」

「ほらね、神様の言うことは絶対なの。逆らっちゃだめっ」


そう言うと、その子のお母さんは無理やりその子を家へと入れる。


「“人生が決まっている”ってのはどういうことだ?天命ってのも意味が分からん」


俺は不思議そうに首を傾げたまま、空地へと向かう。

しかし天命というものが人の人生を左右させる、重要なことだということを俺は後々知ることになる。



その日の夕方、俺はいつも通り帰宅する。

俺が玄関の扉を開け、リビングに入ると、両親とエレンが立って待っていた。


「ケイン!お誕生日、おめでとう!」


3人はそう言いながら手をたたく。


「そ、そうか、俺今日誕生日か!」


毎日、同じような生活ばっかりだったため、当の本人である俺は、完璧に忘れていた。

今日は俺が10歳になる誕生日である。

エレンが俺が帰る時間を聞いたのはこのためだったのかと今更気づく。

テーブルの上にはいつもより豪華な食事が並べられており、俺たちは早速席に座って、その料理を食べ始める。


「はやいものね~、ケインももう9歳よ」

「あと6年もすればもうケインも大人だな~」


この世界の大人は15歳からで、俺が大人になるまでにそう長い時間は残されていない。

前世のように20歳を過ぎても学生でいられるような世の中じゃないのだ。

そのため俺はこの先の将来、どうしたものかとかと考えていると、


「ケインにも天命が下るようになるのね~」


本日聞くのは2度目となる「天命」という単語。


この世界の人からすると神々しいものかもしれないが、俺からすると神々しいというより胡散臭いのほうが勝ってしまう。


「あの、天命って何?」


俺はもうド直球で聞いてみることにする。


「天命っていうのはね、私たちが大人になると授けられるようになるものなの」

「月末になると毎回、俺たちはどう生きるべきなのか神様が教えてくれるんだ」


これを聞いて、より胡散臭さが増してくる。


「ねぇねぇ、天命ってどうやってもらえるの?」


エレンも興味が出てきたのか話に入ってくる。


「天命は頭の中に直接授けられるんだ。僕たちが寝ている夢の中でね」


なるほど...ということは人間の仕業というわけではなさそうだ。

教会とかで「神様はこう言った」とか言って、結局神父の独断と偏見で天命を告げるとかだったら、疑いの余地しかないのだが...


「え~っと、天命に逆らったりしたら...どうなるの?」


少し嫌な予感はしたものの、思い切ってそう聞いてみる。


「逆らう?そんなことあるわけないじゃないか。神様の言うことが一番に決まっているんだから」


やばい、これはやばい。

前世を含めて30年近く生きているが、ここまで価値観が異なるケースは初めてだ。

これはおそらく分かり合えないぞ。


「まぁもしも逆らうなんてことがあったら、周りが黙っちゃいないだろうね。全力で止めにかかるだろう」

「ふ、ふ~ん、そうなんだ...」


父の言葉を皮切りに、俺のテンションは一気に下がり、それに合わせて場の空気も暗くなる。


「ちょ、ちょっとトイレ!」


この場から逃げ出すように、俺はそう言ってトイレへと向かう。

そしてトイレのドアを思いっきり閉めて中に入ると、俺は壁に寄りかかって深く考え込む。


?なんだその自由もへったくれもないシステムは!俺はこの世界でやっていけるのか!?」


俺はこの世界の仕組みに驚愕する。

日本生まれ日本育ちである俺にとって、この仕組みは耐え難いものだ。

受け入れるなんて考えられない。

俺も15になれば天命が下ることを想像するとゾッとする。


俺はこの世界で非日常を経験したいのだ。

誰かに管理される世界だなんてまっぴらごめんである。


「お願いだから俺の天命は自分のしたいことであってくれ、頼むっ!」


俺は心からそう願う。

せめて、天命が自分のやりたいことが天命とマッチしていれば、まだ自分よりの人生が送れるかもしれないと。


しかし、この天命という制度が、人の人生にどれほどの影響を与え、自由を奪ってしまうものなのか、この時の俺はまだ知らなかった。




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