第5話 精密な魔法特訓計画
「やった、ついにやったぞ!!」
「ホントだ!全然見えないや」
俺の喜びのあまり叫ぶと、アランは喜んでそう答える。
雨の日以外、俺とアランはいつもの空き地に集まり魔法の特訓を始めて2年、9歳になった俺は、ついに新しい魔法を2つ開発することに成功したのだ。
一方、アランも俺が隙間時間に魔法を教えたせいか、生活魔法の大半を習得していた。
「ねぇ、せっかく作ったんだから新しい魔法村の中で使ってみてよ。きっとみんな驚くよ〜!」
「バカやろう、これは俺が俺だと分からないようにするための魔法なんだ。バラしてどうするよ!」
「ちぇ〜」
俺がこの魔法を作ったのは村の人にバレないようにするためだ。
むやみやたらに使うわけにはいかない。
「でも、なんで村の人に僕たちが魔法を使えることがバレちゃいけないの?」
「いいか、人間ってのはな、自分と異なる者たちを排除しようとする生き物なんだ」
俺はとりあえず、もっともらしいことを言ってみる。
こっそり村の外に出ることがこの魔法を開発した本来の目的なのだが、アランにそのまま言うと、僕も連れていってとか言いかねないため、アランには魔法が使えることを村の人にバレないようにするためと伝えてある。
まぁ、嘘というわけでもないし、別に良いよねっ!
「なるほど、僕たちは《救世主様》》の生まれ変わりってことだね!」
「う〜んと、そう。そゆこと。だからこれからはな、魔法の特訓中に人が来たらこの魔法を使ってうまく隠れるんだ」
救世主というのは昔、魔王の手から人類を救った英雄の名であり、魔王を倒したあと、その時代の王にその救世主の力を恐れられ、暗殺されてしまったという伝説が、今も本で伝えられている。
今回は別に救世主とはなんの関係もないのだが、アランがうまい具合に解釈してくれたので、乗っかっておこう。
まぁ何はともあれ、ついに、ついにだ。
やっとこの村から出ることができる!
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その日の夜、ご飯を食べ終わると、俺はすぐに2階である自分の部屋に向かい、あの計画、“夜にこっそり村を出て、外で魔法特訓作戦!!”を実行する。
俺は早速、自分の部屋で開発した魔法を使用する。
「よしっ!消えてるな」
俺は鏡を見てそう呟く。
鏡には誰もいない俺の部屋が写っている。
そう、俺が開発した魔法1つ目は特定のものを透明にできる魔法“トランスペアレント”である。
俺自身の体を魔素で覆い、そこから透明になるイメージをしっかりと持つことで、この魔法が発動する。
俺の体を透明にすることで、こっそり家から出ようってわけだ。
そして俺は、続けて開発した2つ目の魔法を壁に立てかけてあるかばんに向かって使う。
もう一つは特定のものを変身させる魔法“トランスフォーメーション”だ。
俺はたちまちかばんを俺の体へと変身させる。
この魔法は透明化の応用みたいなもので、魔素を覆う対象を俺からかばんに、持つイメージを透明から俺の体へと変更しただけである。
実際、透明化の魔法を開発するのに1年半かかったわけで、変身の魔法の開発には半年しかかかっていない。
俺はこの2つの魔法を用いることで俺自身は隠れて外へ出ることができ、もし、両親が俺の部屋へ来ても、俺の姿をしたかばんが俺の代わりにベットで寝た状態でいてくれるという完璧な状態を築くことができるのだ。
俺はこういったことには抜かりがない。
この2つの魔法を使い、完璧な状態にしたあと、俺は隠れて家を出るために部屋の窓から飛び降りる。
飛び降りるといっても何の策なしで飛び降りるほどバカではなく、
「よっしゃ、ウィンド!」
生活魔法の一つである風を起こす魔法“ウィンド”を使って着地の衝撃を抑える。
別に魔法名を言う必要はないのだが、前世でゲームやアニメを見てきた俺は、結局魔法名をつぶやいてしまう。
おかげで何の怪我無く着地で来た俺は早速村の外へと出る。
(人がいようと気づかれませんよ~っと!)
村の外にはまだ人がいたが、そんなことは関係ない。音だけたてぬよう村の出口へと進む。
村の出口に着くと、そこにはいつも村を守ってくれている警備の人が立っている。
(いつも村を守ってくれてありがとうございま~す!)
俺は警備の人に感謝の思いを寄せながら、人生初めて村の外へと出る。
外へと出ると、そのまましばらく先へ進み、
「やっほ~い!やっと村の外へ出たぞ~!!」
俺は村の姿が見えなくなった瞬間、こう叫んだ。
この世に生まれてきて9年、初めて村の外へでることができたのだ。
今俺は、とてつもない解放感に浸っている。
村の外は地図で見た通り、森が広がっており、奥の様子がさっぱり見えない。
外へ出ると魔物が襲ってくるらしいのだが、そのような気配はなく、
「やっと本格的な魔法の特訓ができると思ったんだがな~」
俺はがっかりして下を向くと、俺の体が一切見えないことに気づく。
「あ、今俺、見えないんだった」
俺はすぐに“トランスペアレント”の魔法を解くと、魔物が来るのを待っているかのように、堂々と奥へ進む。
「はやくこ~い、はやくこ~い」
この世界では「バカじゃね~の!」と思われることやっているらしいが、前世の記憶を持つ俺からしたら関係ない。
気にすることなく堂々と歩いていると、
「ガルルルルッ!」
オオカミの姿をした魔物が近づいてきた。
一見ただの動物のようだが、魔法の特訓をしたおかげで周りの魔素を感じ取ることができるようになった俺からすると、こいつの持っている魔素は明らかに空気中にある魔素と異なり、すぐに魔物だと気づく。
「お前が俺のはじめての対戦相手ってことだ。遠慮なくいかせてもらうぞっ!」
魔物が襲い掛かってくると、同時に俺も戦闘態勢に入る。
こういった状況でも怖がらないのは、前世のゲームやアニメのおかげだろう。
恐怖より、わくわくのほうが勝っている。
「今回は慎重にいかせてもらうぜっ、ウォーター!」
俺は水を出す魔法“ウォーター”を発動する。
魔物が水浸しになったところを、
「フリーズ!!」
俺はすかさず対象の熱を奪う魔法“フリーズ”を水に向けて発動する。
オオカミにかかった水はたちまち氷へと変わり、魔物は身動きが取れなくなる。
しかし、これで終わりではない、
「ラスト~、フレイムッ!」
最後に“フレイム”で畳みかける。
たいていの生き物は急な温度変化に弱いため、このコンボは絶大だろう。
フレイムを受けた魔物は一気に倒れこむ。
魔物との戦いでの初勝利である。
「いぇ~い、初勝利、初勝利!」
はじめての戦いでの勝利にテンションマックスで喜んでいた俺だったが、そのあと一つの問題に直面することになる。
「え~と、あれ、死体ってどうしようか...」
そう、死体処理である。
これから何度も魔物と戦うことになるため、毎回死体をそのままにしておくわけにもいかない。
気持ち的な問題というのもあるが、やはり村の人たちにばれる可能性があることが一番の問題だ。
もう少し人のいる街にでも出れば、冒険者労働組合、通称冒険者組合と呼ばれるところが存在し、そこで魔物を買い取ってくれるらしいのだが、こんな辺鄙なところには当然存在しない。
俺は仕方なく、
「アース!」
俺は土を操作する魔法“アース”を使い、大きな穴を作る。
「これならばれないだろう」
俺は穴に死体を埋め、もう一度“アース”を使い、穴を埋める。
「まあこんなとこだろう。安らかに眠れよ」
気を取り直して俺は新しい魔物を探す。
そのあとは、これを繰り返すだけ。
魔法には威力の段階というものはなく、魔素を込めれば込めるほど威力は上がるため、現在の俺がある程度の魔素を込めて魔法を使うと、日常魔法と呼ばれている“フレイム”、“ウォーター”、“ウィンド”、“アース”はたちまち戦闘魔法と呼べるような威力にまでなっていた。
つまり、俺の魔素保有用量が上がったということであり、これほど喜ばしいことはない。
「生活魔法も捨てたものじゃないってことだな。よ~し、このままいくぜ。かかってこいやー!」
俺は夜が明けるまで、このまま魔物を倒す特訓を繰り返すのだった。
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